31 大舞踏会(3)
その後、サンロージアと明妃が、交互にデミトリー相手に数回踊っているのを見るうちに、ダルディンとアーリナは踊れるようになった。けれど、ユニカの動きは、ぎこちなかった。デミトリーに相手をしてもらいながら、ユニカは何度か、デミトリーの衣の裾を踏んづけたり、自分自身の足をもつれさせて、転びそうになった。
ユニカの顔は、だんだん暗い影がさし、目は節目がちになって、すっかり自信を無くした様子になった。すると、明妃が椅子から立ち上がり、ユニカの前へ、自分の右手を差し出し、
「ユニカ、一度、私と踊ってみましょう」と言った。
ユニカは、明妃を見上げた。明妃の紫色の目が、ユニカを見下ろした。ユニカはうなずき、明妃の手を握った。明妃は、ユニカをリードしながら、彼女が何回か間違えたところでは、足を止め、ゆっくり動きながら、彼女に同じ動作をなん度か練習させた。その様子を見ながら、サンロージアは、
「明妃殿下って、教えるのすごくお上手だわ。私なんかより、ずっと丁寧で親切だわ」と、感心した。
デミトリーはブスッとした顔で
「あいつ、女の子には、やたら優しいな。チェッ、俺には、沼地へ勝手に行けって突っ込ませたくせに、まるっきり態度が違うじゃないか」と、ぶつぶつ文句を言った。
そんな事をふたりがつぶやくうちにも、ユニカは、自分がどうしてうまく踊れなかったのかが分かってきて、修正できるようになり、みるみる表情が明るくなった。
その様子を頬杖をついて眺めていたダルディンは、
(明妃は、この中の誰よりも本当は踊れるのだから・・・ユニカを踊れるようにするくらい、朝飯前だろうよ。けれど、踊れるってバレると、今晩は希望者が殺到して大変な事になるかもしれないな。また、伯父上が激怒しなければよいのだが・・・)と、心配した。
ユニカが明るい表情で踊り終え、「ありがとうございました」と、明妃へ一礼した。
明妃は「もう自信がついたでしょう。今晩は楽しんでね」と言った。そこへ、遠慮がちにダーダムがやって来て、
「殿下、私めにもご指導いただけませんでしょうか」と頼んだ。
明妃は、扇子をさっと広げ、顔を隠すと小声で
「ダーダム、残念だけれど、私はあなたには近寄れないわ。そんな事をしたら、猊下があなたを呪殺するかもしれないもの。勘弁してちょうだい」とささやいた。
ダーダムは目玉を剥き、震え上がった。
「ヒイィィー、猊下、どうかわしの不心得をお許しください」と叫び、慌てて、明妃から距離をとった。そこへ、サンロージアとアーリナが小走りに近寄り、
「明妃、私たちとも踊ってください」と、手を差し出した。
明妃は、ため息をつくと、順番にお相手をしてあげた。
ダルディンの横の肘掛け椅子に腰掛けたデミトリーは、その様子を見ながら「ちゃんと男性の俺がいるのに、どうしてリーユエンと踊りたがるんだ」と、文句を言った。
ダルディンは、男性パートを踊る明妃と、うっとりした顔で一緒に踊るアーリナを見ながら、(女にまで人気があるのに、無自覚なのだから、まったく困ったお方だ。今晩の舞踏会は、絶対目が離せないな)と考えていた。
(おまけ)
部屋の片隅では、アスラとアプラクサスが、彼らの練習の様子を眺めていた。
アプラクサスは、嘴で羽繕いをしながら、「明妃は、背が高いから誰にも誘われないって、楽観しているけれど、鳥族の中には、畢方とか酸与とかタイ鳥とか、大型の鳥族もいるのだから、明妃なんか現れたら、希望者が殺到しちゃうよ」と言った。
それを聞いたアスラは、
「ふんっ、主が嫌がるなら、俺が全員蹴散らしてやるさ」と、鼻息荒く宣言した。
アプラクサスは、「アスラ、ここは玄武の国じゃないんだから、君が勝手なことをしたら、明妃は困った立場に立つことになるんだから、自重しなきゃ」と、注意した。それから、「とにかく、アンゼールが何か仕掛けてくるかもしれないから、警戒を怠っちゃダメだよ」と念押しした。




