表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/261

28 明妃の拾い物(7)

 眠るリーユエンの側にしゃがみ込み、様子を見守りながら太師は

「あれは、この者の恐らく過去の姿だ」と、言った。

 アプラクサスは、目を見開き

「過去?ひょっとしてミンは転生者なのか?」と、問うた。太師は

「詳しい事は知らぬが、猊下からはそう聞いている」と、答えた。

 アプラクサスも近寄ってきて、フードに隠されたリーユエンの顔をのぞき込み

「猊下とは、誰だ?まさか、ドルチェンか?あの玄武は法座主になっておるのか?」と、問うた。

 太師は、ちょっと驚き「猊下をご存知なのか?」と尋ね返した。

「うむ、九百年ほど前であったかな・・・南荒へ来たことがある。あの者は方々を旅して、南荒までたどり着いたのだ。中有に留めた幻身を、そっくりそのまま転生させたいと、その方法を探し求めておった。では、ミンが、その幻身の転生なのか?驚いたな・・・一千年かけて、ドルチェンはおのれの執念で、かつての妻を取り戻したわけか・・・」

 転生を成し遂げたのは、青牙のソライであって、ドルチェンではないのだが、話が込み入りすぎるので、太師は沈黙した。

 アプラクサスは「そうか、ドルチェンはとうとう法座主になったのか。では、もう玄武の国から一歩も出ることはできないのだな。あれほど、方々を旅しておった者が、あの土地に縛り付けられているとは、気の毒なことだ」と、少し感傷的な様子で言った。それから、「どうやらミンは随分若い頃に経絡を開かれてしまったようだな。これほど早い時期に体の中を触られてしまっては、普通の転身はもはや適うまいな」と言った。

 太師は、ハッとして「そんな事まで分かるのか」と尋ね返した。

 アプラクサスは顔をあげ、ちょっと得意げに「我には、そんな事はお見通しだ。神通力は昔に比べて随分弱くなったが、それでも、これくらいは、はっきりわかる。この子は、もともとは男子で生まれてきたのだろう。人の陽気を帯びさして、中有の幻身を引き摺り落としたという所かな?だとすると、これはドルチェンの仕業ではないということか・・・だが、せっかく身に帯びさせられた陽気も随分減ってしまっておるな。これ以上大きな怪我をさせないように注意することだ。人の陽気がなくなると、陰気が溜まりすぎて、現身を保てなくなるやもしれぬぞ」

「この方が現身を保つには陽気が必要なのか?」

「そうだ、それも、凡人の陽気の中でも極めて強力な陽気だ。玄武の陽気は役に立たない。だが、今のところは大丈夫だ。それと、転身はかなり力を使うから、なるべくさせないことだな」と言うと、リーユエンの肩の側にうずくまり

「神聖紋から、炎が吹き上がっておったな。この若さで、これだけの術をものにするとは、大した才能だが、この子は、そなたらが思っている以上に若いのだから、気をつけてやることだ。まだ、心は未熟で育ちきってはいないぞ」と、話した。

 太師は眉をひそめ、「リーユエンはそれほど若いのか?」と、問うた。

 アプラクサスはうなずいた。「まだ、二十歳になったか、ならずくらいではないかな」

 太師は、その言葉に衝撃を受け、しばらく黙り込んだ。「そうなのか。最初に会ったとき、落ち着いた態度だったので、てっきり転身間近の年齢だと思っておった」

「ミンの誕生日を知らぬのか?」

「この方は自身の幼い頃の記憶をなくしている。その上、この方の親はもう故人なのだ。身内は、誰も残ってはおらぬ。死に絶えてしまったのだ。それに事情があって、この方の生誕の記録は公簿に記録がないのだ」

「おやおや、誰もこの子の若さに気がつかないとは、ドルチェンなら当然気がついているはずだが、執着の強さのあまり気にならないのであろうな」

 ドルチェンのリーユエンに対する並外れた執着の強さは、太師にもよく分かっていたので、図星を指摘するアプラクサスには何も反論できず、眉をひそめて、ただ沈黙し、ため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ