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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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28 明妃の拾い物(6)

 一時間ほど経った時、リーユエンが突然身動(みじろ)いだ。目覚めた彼女は肩に掴まり眠るアプに気がついた。そのまま肩を動かさないように、そっと立ち上がった。太師が、それに気がつき、消え掛かった焚き火の向こうから「どうした?」と、声をかけた。

 彼女は声を潜め「まわりを囲まれています」と伝えた。太師は、周囲の気配を探っり「うむ、数百匹、蠢いておるな」とささやいた。そして、立ち上がると、先が渦を巻いた長い杖を現出させ、呪文を詠唱し、杖を横へ振るった。青白い炎が、蛇のように木立の向こうまでのびた。炎の光が、人の手のひらほどの大きさの無数の黒い毒蜘蛛が木に集まり蠢いているのを照らし出した。

 ヨーダムは、ハッとした。黒い毒蜘蛛こそ、尼魔導士にして黒魔導士であるアンゼールの使い魔であった。

(彼女が近くにいるのだろうか?)

 気配を探ってみたが分からなかった。太師の操る青白い炎が、黒い毒蜘蛛を次々に焼滅させたが、数は増える一方だった。様子を見ていたリーユエンは、

「これではキリがない。私が転身しますから乗ってください。この森から脱出しましょう」と言った。そして、アプを肩から両手で抱いておろすと、太師へ預けた。

 リーユエンは白虎に転身した。その全身から、青白い霊気が炎となって吹き上がり、迫り来る毒蜘蛛をとらえ焼き尽くした。その隙に、太師はアプを抱き上げ、白虎の背に跨った。

 白虎は地を蹴り空中へ上がった。吹き付ける風音に、アプは目を開け、一声「ギャッ」と叫んだ。アプを抱き抱えるヨーダムが

「アプラクサスよ、静かにしてくれ、耳が痛い」と言った。

「ぎゃー、魔導士よ、そなたが跨っておるのは白虎ではないか、我を喰らいに現れたのか」アプが、ヨーダムへ訴えた。けれどヨーダムは

「落ち着け、今し方、蜘蛛の使い魔に襲われたので、あの森から脱出したのじゃ。我らが跨っておるのは、リーユエンの背中だ。おまえを襲ったりはしない」と、言い聞かせた。

 アプは、嘴を開け「エッ、リーユエン、と、いうことはミンなのか・・・ミンは猛獣だったのか、道理で我を肉の塊みたいに言うわけだ。餌に見えておったのだな」

 アプを抱えたまま、太師は額を片手で抑え「あれは、リーユエンなりの冗談だ。真に受けんでくれ」と言った。

「冗談だったのか・・・だが、鳥肉が好きそうだったぞ」

「少なくとも、アプラクサスを食べたりはしない。あれは肉より酒の方がもっと好物だから安心せよ」

 今度は、太師なりの冗談で、アプを誤魔化した。ただ、リーユエンにアプを食べる気がないのは確実だった。

 

 その夜、南荒の夜空に青白い流星が現れたと騒ぎになったが、それは、天かける白虎のためだった。リーユエンは、神聖大鳳凰教の敷地の上空を横断し、一気に港町を目指した。それから数時間、空を走り続け、港町に近い、林の中へ降り立った。そして転身を解くと、地へ倒れて眠ってしまった。

「ミン、ミン、そんな所で眠ると、体に良くないぞ」アプが倒れ込んだリーユエンの耳元で囁いたが、反応がなかった。太師はリーユエンの脇の下から腕を通し、楡の大木のそばまで運んで休ませた。

 「二、三時間眠れば目覚めるだろう」

 まだ、夜明け前の林の中で、太師は、リーユエンの目覚めを待った。

 アプはミンのそばでうずくまり、太師へ

「あれは、ただの転身ではないな。あの姿は、祖霊であろう?銀牙の白虎は、もう誰も残っていないはずだ。リーユエンの転身が大牙の虎であるなら、黄虎であるはずなのに、どうして、霊気を噴き上げる白虎へ転身するのだ。あれは、祖霊の力を借りているとしか考えられぬ。祖霊を呼び出せば、力を消耗するのは当たり前だ。だが、どうやってそんな事が可能となるのだ?」と、不思議そうに問うた。

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