表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

174/248

28 明妃の拾い物(5)

 南荒で、大型三胴船を接岸できる港は、マーレイズ港だけだった。太師とリーユエンが上陸した場所は、マーレイズから四十里ほど東にあった。そして港へ行く途中には、神聖大鳳凰教の教団施設があり、港へは大回りしていくしかなかった。途中は、起伏の多い森林地帯で、人家もなく一泊は野宿となった。

 日没間近な森の中で、リーユエンはその辺の枯れ木を拾い集め、呪文を唱えて着火させ焚き火にした。それから船から失敬してきた酒を取り出し、ちびちび飲んだ。太師にも「お飲みになりますか」と聞いたが、「いや、わしは不要だ。あなたが飲みなさい」と言われた。

 アプは火のそばにうずくまり、リーユエンを不思議そうに見上げた。

「そんなものを飲んでおいしいのか?」

「体が暖かくなるんだ。飲んでみる?」

 リーユエンに勧められても、アプは首を振り、飲まなかった。

「昔、その飲み物は悪魔の水だといって禁止されていた。それから、我の世話をする者の中にも、こっそり飲むやつが現れた。何年もすぎた頃には、皆、平気で飲むようになった」と話した。

「へえ、酒が禁止だなんて、そんな場所、私は生きていけそうもないな。もう、酒なしでは生きている気がしない」と、リーユエンが言った。

 太師は「最近のあなたは、酒量がますます増えていらっしゃるようだ。もう少し控えられてはどうだ。ウラナが気に病んでおった」と、焚き火をつつき、火を起こしながら言った。

「そうですね。離宮へ戻ったら気をつけます。これ以上悪い噂がたったら、ウラナに申し訳ありませんから・・・」と、自嘲気味に言うと、座り込んだまま眠ってしまった。

 しばらく黙っていたアプは、黄色の目を太師へ向け

「ミンは、何か悩みがあるのか?」と、尋ねた。太師は片眉をあげ、

「どうしてそう思う?」と逆に尋ねた。するとアプは、

「ミンは、ときどき目が悲しそうだ。笑っても、楽しそうに見えない。いつも何か我慢しているように見える」と言った。

 太師は、「色々生い立ちが複雑な方なので、簡単には説明し難いが、アプラクサスの見立てはかなり正確だと思う」と答えた。

「我はミンが気に入った。ミンには、もっと笑顔でいてほしい。ミンは、我をあの海岸から拾い上げてくれた。最近、これほど親身に世話をしてくれた者は誰もいなかった。昔は、皆、我の事を大切に扱ったのに、今では、野鵞鳥以下の扱いだ」と、つぶやいた。

「どうして、そのように扱いが変わってしまったのだ?」

 アプは頭を傾げた。

「よく分からない。月日が経つうちに次第に変わってきたので、何がきっかけというものもなかった。ただ、我は、二百年ごとに体が焼けて再生するので、その直前はかなり見すぼらしい姿だ。それで(あなど)られるようになったのかもしれない」

「今も、体が焼け落ちる日が近いのか」

「たぶん、そうだと思う。代替わりと、我の復活がこのたびはほぼ同時期になっているから・・・」

 そう言うと、アプは膝を抱えて眠り込むリーユエンの側に近寄り、飛び上がると肩の上にとまった。そして、太師へ

「ミンには火傷の痕があるが、これは劫火に焼かれたのか?」と、尋ねた。

 太師は頷き「この方は、子供の時分に、異界へ通じる穴へ投げ落とされたのだ」と答えた。

「そうか、可哀想に、劫火は青白い炎で、まともに浴びれば骨まで焼き尽くされてしまうのだ。ミンも相当痛かったはずだ」

「アプラクサスの体を焼き尽くすのは、劫火なのか?」

「たぶん、劫火と同じ類のものだ。我を焼き尽くす炎は、人が祈りのさいに捨て去る二百年分の邪念だと言われている。しかし直近の二百年前、現れた炎は以前のような青白色ではなく、ドス黒い色をしていた。体も完全には焼け落ちることなく、再生もうまくいかなかった。我は、以前と同じ姿ではなくなってしまった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ