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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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28 明妃の拾い物(3)

 何度か掛け湯をすると、鳥は勝手に盥へ飛び込み、いきなりバシャバシャと激しく羽ばたき、お湯を四方へ飛ばした。リーユエンは「うわっ」と叫んで避けようとしたが、お湯を被ってしまい、濡れてしまった。

 鳥は不機嫌そうな顔で、リーユエンを睨み「我は、風呂くらい自分で入れる」と訴えた。リーユエンは立ち上がると、

「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」と言い、その場から離れた。その頭はびしょ濡れで、ポタポタと雫が垂れていた。鳥は、横目でジトッと彼を観察し、

「我を叱らないのか?」と、尋ねた。

 離れかけたリーユエンは鳥を振り返り

「叱る?どうして、叱る必要がある?自分で、できるのなら、好きにすれば良いだろう。私が叱ることじゃない」と言った。すると、鳥は嘴をパクパク動かし、それから

「お湯がかかって濡れたのに、腹が立たないのか?」と、また尋ねた。

 リーユエンはこてんと頭を傾け

「鳥が水浴びするときは、羽ばたきをするから水が飛ぶのは当たり前じゃないか。そんなの腹を立てても仕方ないだろう」と言った。

 鳥は、しばらくじっと考え込むと、

「・・・・・おまえ、変わってる」と、つぶやいた。

 太師が石鹸とタオルをもらって戻ってきた。リーユエンは石鹸を手にとり、ニヤッと笑い、「では、本格的に汚れを落とそうか」と言った。

 鳥は、その笑い方に何だか殺気を感じて、盥の角に縮こまった。けれど予想に反して、リーユエンはまた井戸から水を汲んでくると、その中に石鹸を入れて、水を温めながら泡だて、その泡を手につけて鳥の体をそっと洗った。鳥は気持ちよくなって目を細めた。

 太師も側で見ながら「ほう、洗うのが上手だな」と、褒めた。するとリーユエンは、「ウラナのやり方を真似したんです」と言った。

 泡だらけになった鳥を、リーユエンは井戸からその後も何度か水を汲んで、温めると流してやった。すると、真っ黒な汚れが落ちて、鳥の体に生える灰色と薄茶色の羽が見えるようになった。

 太師が羽をのぞき込み「地走り鳥の羽色に似ておるが、体が小さいな。あれは、もっと体は大きくて、飛べないはずだ。地面を猛スピードで走るのじゃ」とつぶやいた。

 すると鳥は、嘴を開けて「無礼者め、我をそんな下賤な(やから)と一緒にするな。我はな・・・原来は、もっと羽色は美しかったのじゃ・・・それがだんだん色が悪くなって、最近では、もうこんな地味な色になってしまった」と、悲しそうに言った。

 リーユエンは鳥を盥から上げてやり、膝の上に抱えて、タオルに包んで水気を取りながら、「羽色が変わるなんて、食べ物が悪いのかな」と、つぶやいた。すると、鳥は彼女を見上げ、

「食べ物、そうだ、何か食べたい。お腹が空いた」と、訴えた。

リーユエンは、鳥へ「何が食べたい?」と尋ねると

「果物が食べたい・・・・でも、果物は、この土地では実らなくなった。昔は暖かくて、果物のなる木がいっぱいあったのに、今は寒くて、実のなる木がなくなった」と悲しげに話した。

「他に食べられるものはあるのか」と、尋ねると

「我は、何でも食べるよ。凡人の食べ物でも平気だよ」と言った。リーユエンは呪文を唱え、鳥の体へ温気を当ててやり、体を完全に乾かした。

 汚れが落ちて綺麗になった鳥は、胴体は、野鵞鳥くらいの大きさで、足は細くて長く、首も蛇のように細長かった。小さな頭部に細く鋭い嘴が長くのびて、目は黄色の虹彩で眸が黒かった。尾羽は短く、全体の羽毛は灰色と薄い茶色が混じって地味だった。

 リーユエンは鳥の前にしゃがむと、顔をのぞき込んで

「名前はあるのか?」と、尋ねた。すると、鳥はプイと顔をそむけ

「ちゃんとあるわい」と、拗ねた。それから「我の名はアプラクサスだ」と答えた。 太師は目を見開いたが、リーユエンは

「アプラクサス、アプラクサス、何だか呼びにくいなあ。長すぎるよ。そうだ、アプちゃんって呼ぶよ」と言った。

 鳥は嘴を開け「我の名を縮めるとは無礼者め」と怒った。けれどリーユエンは

「その名前で呼んでも本当にいいのかい?君、見たところ、あまり大事にしてもらえなかったようだね」と話しかけた。

 すると鳥は項垂れ「昔は、我のことを皆が大切にしてくれたのに・・・最近は、誰も彼も我のことを忘れてしまって、羽が汚いだとか、声が悪いとか言って、バカにするばかりなのじゃ」と悲しそうに言った。

「フーン、何だかよく分からないけれど、今の君は、可愛らしいからアプちゃんがぴったりだと思う。だから、アプちゃんで決まりだ」と言い、それから「そうだ、君の素性を説明するのが面倒だから、私の使い魔だと紹介するからね」と言い足した。するとアプちゃんは、頭の羽を逆立て

「我は使い魔にはならないぞ、無礼者」と怒った。けれどリーユエンは肩をすくめ

「嘘も方便って知らないの?私は、もう面倒を見ている魔獣がいて、そいつの世話で手が一倍なんだから、君を使い魔になんかしないから、そんなに怒らなくていいよ」と言った。

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