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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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3 幻水楼の歌姫(1)

 (太陽が眩しい)

 天幕から出てきたリーユエンは、背中を伸ばしながら、片目をしょぼつかせた。今日もフードを目深に被っているため、彼が目をしょぼつかせているのは、誰も気づかないが、足をひきずり気味なのは隠しようがなかった。

 金杖国を三日の強行日程で横断し、彼らは国境を抜け、ナムサの荒野へ出た。そして、魔獣との約束どおり、彼は昨夜は生気を取られてしまった。一日お預けを食らった魔獣の食欲は凄まじく、リーユエンはすっかり元気をなくしていた。それに一晩寝たら治るはずの悪寒まで、今朝は続いたままでブルッと身震いした。

 

 赤天幕の前で朝粥を調理中のオマは、大鍋をかき混ぜながら、リーユエンの様子にも気がついていた。ちょうど、大欠伸をしながらやって来た総隊長カリウラへ、オマは声をかけた。

「カリウラ お早う」

「お早う、オマ、朝からご苦労様」と、挨拶と労いを口にするカリウラへ、こっちへ来いと、鍋をかき混ぜながらオマは、空いた方の左手でくいくいと手招きした。

「何だ、オマ、食材が足りないのか」

 オマは無言で、リーユエンが立っている天幕の方へ顎をしゃくった。

「何だ、リーユエンがどうかしたのか?」

「あいつ、またふらふらになってる」と言いながら、オマは、特大の鉢を取り出して、粥を目一杯入れた。

「これを、あいつへ持っていっておやり。全部食わなきゃ、あたしが大目玉喰らわすからと言っておやり」

 カリウラは持たされた湯気の立つ鉢を見下ろし

「こんなに食えるのか?」と、心配そうに言った。

 けれどオマは顰めっ面で

「これぐらい食っとかないと、あいつ体力が持たないよ。あの妙な大喰らいの獣に全部食い尽くされちまうよ」と言った。

 カリウラは、オマの言うことも一理あると思い、そのまま鉢を手にして、リーユエンの天幕まで出向いた。

 けれど湯気の上がる大鉢を見たリーユエンは

「悪いが、完食は無理。吐きそうになって、騎獣できなくなる」と、げんなりした様子で言った。

 カリウラは、気の毒に思いながらも

「全部食べないと、オマが大目玉を落とすと言っていた」と、オマの伝言を忠実に伝えた。

「・・・・・いただきます」

 観念したリーユエンは天幕の前で胡座になり、鉢を抱え込んで食べ始め、途中で

「カリウラ、ユニカに、朝食が終わったら一度空を飛んで、進路を確認してもらってくれ」と、カリウラへ指示を出した。カリウラは頷くと、ユニカを探しに行った。

 カリウラは、赤天幕の前でユニカを見つけ、空中からの偵察を頼んだ。


 一時間後、ユニカからの報告を聞いたカリウラは、リーユエンに相談しようとまた彼の天幕へやって来た。

(げっ、まだ食べてるぜ)

 リーユエンは、鉢の底の粥をさらっているところだった。それを見たユニカは、(やっぱり老師くらい背の高い大柄な人は、このくらいたくさん食べるんだ)と内心で感心していた。

 カリウラたちに気がついたリーユエンはようやく空になった大鉢を抱えて立ち上がり、「これを返してくるから、ここで待っていてくれ」と、頼んだ。リーユエンが赤天幕へ大鉢を返しに行くと、それを受け取りながらオマが、このくらい食べるのに、何でそんなに時間がかかるんだいと小言を言い、それへ、彼はなにやらぼそぼそと言い訳していた。

 その様子を遠目に見たユニカは、総隊長へ

「ここの隊商で、一番怖いのはオマさんなんですか?」と、無邪気に尋ねた。カリウラは肩をすくめ

「そりゃ、みんなの胃袋を鷲掴みにしているからな。誰もオマには逆らえないよ。リーユエンだって、あいつにだけは、絶対逆らわないもんな」と答えた。

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