24 金杖王国の薔薇(5)
ウラナに連れられ、ユニカが部屋に入ってきた。ユニカは、デミトリーに気がつき、「王太子殿下へご挨拶申し上げます」と、膝折礼で挨拶した。
明妃が、「ユニカ、こちらへいらっしゃい」と、優雅に手招きした。ユニカは目を輝かせ、いそいそと明妃へ近寄った。すると明妃が、「あちらにいらっしゃるお方は、王太子殿下の妹君、サンロージア王女殿下よ、ご挨拶なさい」と言った。するとユニカは、素直に彼女へ向かって「王女殿下へご挨拶申し上げます」と膝を曲げて挨拶した。サンロージアもにこっと笑って、挨拶を返した。
(へえ、この女の子、随分明妃に懐いているのね)
王女殿下は、今度はユニカを観察した。ユニカの背は、自分の肩くらいしかなく、髪は褐色と栗色が混じっていて、眸が薄い緑色の大きな目、肌は色白で、そばかすが薄っすら浮かぶ童顔で、鳥の子色の胸元の開いた衫と、浮き出し織の山吹色と萌黄色を縦縞に織り上げた裙、袍は、薄桃色を着ていた。
「何かご用でしょうか、明妃殿下」と、ユニカは明妃を見て尋ねた。明妃は、扇をあおぎながら、しばらく黙っていたが、ユニカヘ
「少し、教えてほしいことがあるの。あなたには、妹がいたわね?」と、尋ねた。
「はい、妹は三人いて、弟が二人います」
「お兄さんやお姉さんはいないの?」
「いいえ、私の母は最初の后で、私ひとりを産んだだけです」
「あなたのお母様は最初の后なのね」
「そうです」
ユニカの答えを聞くうちに、また明妃の顔から笑みが消え、もの思わしげな顔に変わった。明妃は、大公を見上げた。大公も無言でうなずいた。
続けて明妃は、
「あなたは、金羽国の王室典範を見たことがありますか?」と、尋ねた。
それに対してユニカは、首をフルフル振り「典範って何ですか?」と、訊き返した。
明妃は額に手を当ててユニカを見上げ、「王室の決まりごとを記した書物のことよ」と説明した。
「そんな書物があるんですね。知らなかったです」と、ユニカは無邪気に答えた。
明妃は、にっこり笑い「ありがとう、よく分かったわ。部屋にもどって休んでちょうだい」と言い、ユニカを部屋から出した。
ユニカがウラナに連れられ、出て行ってしまうと、明妃は、ため息を漏らし「王位継承が絡んでくるなんて、私は、聞いていない」と、大公を見上げて言った。 大公は、肩をすくめ、「私も想定外だよ」と、言った。
デミトリーが、「金羽王室は、今、後妻で入った第二王妃の天下らしいぜ。ユニカを連れていったら、どんな目に遭うか予想もつかないな」と発言すると、明妃は
「いや、猊下が、正式な照会をかけたから、もう、狙われているかもしれない」と言い出し、「護衛をつけないと・・・」と、デミトリーを見た。
「ヨークを彼女へ付けてやるよ」と、デミトリーが応じた。
すると、明妃は、「アスラ」と、魔獣を呼び出した。人型のアスラが、むすっとした顔で現れた。
「エエェェッ、俺にも護衛しろっていうのか?俺が、守るのはあんただけなんだけど」すると、明妃は、アスラをじろっと睨み、
「アスラ、これは命令だ。ユニカの身を守れ」と命じた。
するとアスラは膨れっ面のまま
「分かったよ。護衛してやるよ」と言った。
「あとは、毒殺防止に呪殺防止か・・・太師に相談しないと・・・」と、明妃は呟いた。
王女殿下は、展開の速さについていけなくなり、兄のデミトリーへ尋ねた。
「お兄さま、一体どうなっているの、さっきの女の子は何者なの?」
デミトリーは、明妃を見て、彼女が話していいとうなずいたのを確認してから
「彼女は、ユニカ、知り合ったのは、西荒行きの隊商へ参加しろと父上に命じられて仕方なくついて行ったときだ。あの子は空中監視人だった。あの子の本当の名前は、ユニアナ、金羽国の第一王女殿下だ」
サンロージア王女は、兄の言葉にうなずき「では、あの子が第一王后の第一子であるため、王位継承権第一位ということなのですか?」と、尋ねた。
デミトリーは「まさにその通りさ」と、答えた。
(へえ、大変・・・明妃から笑顔が消えたのは、そのせいだったのね・・・明妃が今さっき呼び出したアスラって何者なの?明妃って謎だらけだわ)




