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異界に堕とされましたが戻ってきました。復讐は必須です。  作者: nanoky


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23 南荒へ出発(3)

 ユニカは、明妃の膝に乗せた手を慌てて引っ込め「ごめんなさい、殿下」と謝った。けれど明妃は、扇子を畳んでテーブルに置くと、ユニカの両手を優しく握りしめ、

「金羽国の国王陛下は、あなたの身を案じていらっしゃるそうです。あなたは、お父様とよく話し合うべきよ。話し合う余地があるなら、是非そうなさい。私は、あなたに金羽国に留まるように強制したりはしません。留まりたくないのなら、どんな手段を使っても、あなたを一緒に連れて帰ります」と、笑顔を消した厳しい表情で、ユニカをまっすぐ見つめたまま話した。それは、かつて、ユニカを、大空を飛べるようにしようとした時の、リーユエンと同じ表情だった。ユニカは、目から大粒の涙をこぼしながら、うなずき、

「老師じゃなかった明妃殿下、ありがとうございます。私を、金羽国へ連れて行ってください。お父様とちゃんとお話しします」と答えた。

 明妃は笑って「それでは決まりね。では、先に仮縫いしてもらいなさい」と、仮縫いへ行かせた。

 ふたりの様子を見ていたダルディンのかたわらで、ウラナが大きくため息をついた。

「まったく・・・明妃というお方は、あんな態度を見せたら、ユニカは、父である国王陛下が何と言おうと、もう絶対、明妃と一緒に戻るとしか言いませんよ」と、ささやいた。

 ダルディンは、片眉をあげ「そうか?」と訊ねた。するとウラナは

「今年に入ってから、私が知っているだけでも、デミトリー殿下、それにシュリナ、それにアーリナ、それにユニカ、黄牙の長老、まったくこれでは、猊下も気の休まるときがございませんよ」と、ぼやいた。

 実際には、これに、まだヨークと、金杖国の国王陛下も怪しいのだが、ウラナも、さすがにそこまでは知らなかった。

 ウラナは、真剣な表情で、「私もついて参りますが、乾陽大公殿下におかれましても、くれぐれも明妃に悪い虫がつかないよう、よく気をつけてくださいまし、何かあったら、もう私は、猊下の前で死を賜るしかなくなってしまいます」と、言った。その真剣さと、勢いで、ダルディンは思わず体を仰け反らせ「わかった、わかったよ、私も目を光らせておくから、あまり気に病まないように」と、慰めた。

 明妃の向かい側に腰掛けたカーリヤは、そのやりとりをずっと黙ってみていた。ユニカがムンガロの方へ行ってしまうと、明妃は、自身の手の甲をじっと見つめて、何か考え込んでいる様子だった。その様子が気にかかり、

「明妃、何を考えて込んでいるんだい?」と、小声で尋ねた。

 明妃は、左の人差し手の先の綺麗に治った爪先に右手で触れ、

「自分が父親だと名乗りながら、人の指先に針を突き刺すなんて、話し合う余地すらなかったと思って・・・」と、ささやいた。

 カーリヤは、痛ましく思いながらも、わざと明るい声で「そんな事はもうさっさと忘れておしまい。あなたには、ドルチェンがいるのだから」と、話しかけた。

 ドルチェンと聞いた瞬間、明妃は何事か思い出したようにはっとして

「そうだ、私、猊下にお願いしたいことがありました」と言い出した。

 カーリヤが、「あなたは、今日も忙しいのだろう。よかったら、私の方から伝えてあげるよ」と言うと

「今度の南荒行に、太極石を五つ持って行きたいのです」と言い出した。

「猊下に、お願いしてあげるのはいいが、一体何に使うつもりなんだい?」

「旅程の短縮と、南洋海を渡る時、船の出力を上げられないかと思って・・・」

 明妃の言葉に、カーリヤは驚き

「そんな事が、本当にできるのかい?」と、尋ねた。

「術式はもうできているし、太師も試してみようと乗気でいらっしゃいます。成功すれば、日数を十日は短縮できると思います」と、明妃は、楽しそうに言った。

 カーリヤは内心(明妃は、衣装や宝飾品を選ぶことより、今だに魔導術の方に興味があるんだねえ、やれやれ困ったお方だよ)と思った。 

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