23 南荒へ出発(2)
ダルディンは、パパディへの任命書類を作らせると、伝奏部から宰相、座主へと、認可をもらいに行かせ、午前のうちに、辞令まで片付け、決裁代行者を選任し終えた。それから、カーリヤと一緒に、午後から離宮を再訪した。
ちょうど、蓮花堂が来て仮縫い作業中だったが、その部屋から、言い争うような声が聞こえてきた。ふたりは顔を見合わせ、閉ざされた扉の前で聞き耳を立てた。
まず、ウラナが
「アーリナ様は、宰相閣下のご令嬢でいらっしゃいます。そんな高貴なご身分のお方を、南洋海を渡る危険な航海の旅にお連れするわけにはまいりません」と話すのが聞こえ、次にそのアーリナが
「そんなのおかしいわ。明妃殿下だって船に乗るのよ。私よりも、ずっと高貴なご身分の明妃が船に乗って南洋海を渡るのに、どうして、それより高貴でない私が海を渡っちゃいけないのよ」と、声をあげたのが聞こえた。
すると、ウラナが「明妃も黙ってないで、何かおっしゃってください」と、中には明妃がいるのも分かり、ダルディンは扉を二回叩いて、中へ入った。
広々とした部屋の中には、蓮花堂の仕立師ムンガロとその助手が二人いて、ウラナと、仮縫い用の衣をまとうアーリナ、その奥にそれをおもしろそうに眺めるシュリナと、さらにその奥に袍を脱いだ白い上下姿の明妃とその足元でうずくまるユニカがいた。
扉が開く音に、顔をあげた明妃は、入ってきたのがダルディンだと気がつき、ウラナへ
「ウラナ、団長が来られたから、彼にアーリナを参加させるかどうか決めてもらいなさいな。私は別にどちらでも構わないわ」と話した。
ダルディンは、右眉をくいっと上げて「何かお困りごとかな?」と尋ねながら、奥まで入り、明妃の隣に腰掛けた。カーリヤも続いて入ってきて明妃へ「挨拶はいいよ。座ってなさい」と言った。
明妃は、やはりまだ顔色が青白く、気だるげな様子で、ふだんより一層色香が匂い立っていた。明妃は、目をつむり、怠そうに扇を動かしながら、ダルディンへ
「アーリナが、南荒の随行員に加わりたいと申しておりまして・・・」と小声でささやいた。
ウラナが、明妃とダルディンの方へ振り返り「南洋海の航海は危険なので、宰相閣下のご令嬢をお連れするわけには・・・」と、訴えた。
「アーリナは、船酔いは大丈夫なのかしら・・・」と、明妃が呟いた。
ダルディンは、立ち上がると、アーリナへ近寄り「宰相閣下とお母上の許可はもらっているのか」と尋ねた。すると彼女は
「随行員として参加を許していただけたら、両親からの許可はどんな手段を使ってでももぎ取ってみせます」と、目を燃え上がる松明のように光らせて言った。
ダルディンは唇を歪めて微苦笑し、「先に両親の許可をとってきたまえ。それなら、団長の私が許可を出そう」と言った。
アーリナは、仮縫い中だった着物を脱ぎ捨て、自身の袍をまとうや「では、今からすぐ許可をもらってまいります」と、飛び出していった。それを見送りながら、ウラナは、「あのご両親が、許可なんか出すはずございません」と呟いた。
後ろでは明妃がユニカへ、「ユニカ、あなたはどうするの?私は金羽国を表敬訪問するつもりです。その時、一緒に帰国して、国王陛下と話し合ってみてはどう?」と、話しかけていた。それへシュリナが
「そうだぞ、ユニカ、いつまでも逃げていたってしょうがないだろう。一度、話をしてすっきりした方がいいと思うよ」と言った。
ユニカは、うずくまり、うつむいたまま
「私は、金羽国へ帰ったら、もうここへ帰ってこられませんよね」と、悲しげに言った。けれど、明妃は
「どうして、そんなことを言うの?話し合って、金羽国にいるのが嫌なら、一緒に戻ってくればいいだけのことでしょう?」と、言った。
それを聞いた途端、ユニカはぴょんと飛び上がると、明妃の膝に手をおき「老師、私、ここにいてもいいんですねっ」と叫んだ。




