21 南荒への使節団(1)
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これから南荒に上陸してまだまだ続く予定です。
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北荒、東荒、西荒、中央大平原は、ひとつの大陸、三荒大平をなし、南荒は、南洋海を隔てて存在した。南洋海は、一年を通して荒天続きの荒れ狂う海域で、そこを渡る船数に限りがあった。通常なら、一国ごとに船団を仕立てるのだが、南洋海については渡航が集中すると、一国ごとでの渡航は不可能だった。金杖国の国王の提案は、教皇の代替わりによって、渡航が集中することを見越しての提案だった。
ドルチェンは、デミトリーへ、
「国王の提案、ありがたくお受けする。こちらの使節団の参加者が決まり次第、あなたへお知らせしよう」と話した。
ユニカは玄武の気配に怯えていた。
(ここにいる人たち、人じゃないんだ。あの大きな机の前に座っている人が、ものすごく怖い。それにあの優しそうな年配の女の人も、人じゃない。早く、この部屋から出たい)
法座主は、誰よりも体が大きく、燕尾帽の下の浅黒い顔は、左右対称に整い、眉は、比翼のように広がり、目は切れ長の鳳眼、鼻筋は細く通り、唇は切り出したように薄かった。笑みをたたえた面から、時折その笑みが消える瞬間、精悍で、ひどく冷酷な顔に見えた。人と変わらない姿であっても、彼からは尋常でない法力を感じ、ユニカは恐怖を募らせた。と、その時
「ユニカ、さあ、猊下にご挨拶へいこう」と、リーユエンが彼女へそっとささやきかけ、背中に手を添えた。その手が触れた瞬間、ユニカの震えは嘘みたいに止まった。
(老師、お願い、手をそのまま離さないで、怖いっ)心の声がまるで届いたかのように、ユニカの肩に 白金の甲あてをつけた左手が軽く触れた。そのまま、ユニカは、ドルチェンの前へ進み出た。
「猊下、前にお話ししました黄金鷲のユニカでございます」と、明妃がユニカを紹介した。
「ユ、ユニカでございます。猊下にご挨拶申し上げます」と、ユニカは猊下へ拝礼した。
ドルチェンは目を細め
「そなたがユニカか・・・金羽国の第一王女ユニアナ殿下であろう」と話しかけた。
ユニカは、目を見開いた。酷薄そうな印象に反して、声は温かく優しく聞こえた。恐ろしい法座主を見上げ、その時、座主の眸の色が薄い緑色で自分の目と同じ色なのに気がついた。
「どうして、その事を・・・・」
「明妃が気にしておったから、調べさせてもらった。ところで、ユニアナ殿下、そなたの王籍は、まだそのままなのを知っておるか?」
「えっ、でも、継母が私に・・・」
「わしは、直接、魔導士から照会をさせて、公式な回答を得ておる。それによると、王籍簿から、そなたの名は抹消されてはおらぬそうだ」
ユニカは呆然とした。では、お継母様が言ったことは嘘だったのだろうか?
「国王殿下は、そなたのことを随分心配しているそうだ。どうだろう、教皇の代替わりには、わが国からも使節団を立てるゆえ、そなたも一緒に帰国してはどうだ?」
「は、はい、有難いご提案ですが、まだ、心の整理がつきません。もう少し考えさせてください」ユニカは、涙目で答えた。
南極霊元教皇は、南荒の神聖大鳳凰教の最高権威、北荒玄武国の法座主に並び立つ存在だった。この年、前教皇は齢千五百年でついに没し、新たな教皇が選出された。
三荒大平の魔導士は、黒魔導士を除き、すべて北荒玄武国の法座主を最高権威として仰ぎ、南荒は神聖大鳳凰教の南極霊元教皇を最高権威として仰ぐ。北荒と南荒は、系統がまったく異なり、普段は没交渉に近いのだが、法座主と教皇の代替わりの時だけは、両者は使節団を派遣しあう間柄であった。
明妃たちが執務室から退出すると、巽陰大公カーリヤがドルチェンへ
「あの黄金鷲の子は、随分怖がっていたねえ」と話しかけた。
ドルチェンは肩をすくめ「我らの気配を恐ろしく思うのは当然だろう。金杖や、大牙の猛獣ならともかく、黄金鷲の若い娘では恐ろしいのは当然だ」と、答えた。
「でも、あの明妃は、おまえが原身に近い体で現れてさえも、怖がらなかったそうだね」と、カーリヤがさらに尋ねた。
「ああ、そういえばそうであった」
すると、話を聞いていたヨーダム太師が、「あの頃、リーユエンに、猊下のお姿について感想を聞きました。どう言ったと思います」と、ドルチェンへ微笑みかけた。
「本当は怖がっていたのか?」
「いいえ、鱗がきらきら光って綺麗だと思ったそうです」
カーリヤは爆笑し、ドルチェンは珍しく照れていた。




