19 もうひとり侍女になります(9)
アーリナの言葉に、明妃は大きな衝撃を受け、目の前が暗くなって倒れそうになった。それに気がついたシュリナが慌てて立ち上がり、明妃を支えた。
「リーユエン、大丈夫かっ」
アーリナはそれでも彼女の右手を握りしめたまま、その手の甲へ頬ずりした。ウラナが駆けつけ、アーリナをそっと引き離した。
シュリナに助けられ、長椅子に腰掛かけた明妃は、深呼吸をし、我を取り戻すとアーリナへ、
「とにかく、今日は家へお戻りなさい。お父様が心配していらっしゃるから、安心させてあげなさい。いいわね」と、きっぱり言い渡した。
アーリナが帰った後、長椅子に身を預けた明妃は、うつむいてこめかみを揉みながら、「私は、言われたことはちゃんとやったんだから、後は、ウラナ、あなたで何とかしてください。私が関わっても、多分、余計紛糾するだけでしょう」と、侍女頭へ話しかけた。
ウラナは頭を下げ、「かしこまりました。猊下と相談して、善処いたします」と答えた。
ウラナが行ってしまうと、シュリナが、明妃の隣に腰掛け
「あなたって、結局どっちなのよ?」と尋ねた。
「どっちって、何が?」
明妃は意味が分からなくて、尋ね返した。
「リーユエンに初めて会ったとき、自分のことは男だって言ってたじゃない。本当はどっちなのよ?」と、シュリナは口を尖らした。
明妃は、シュリナを見て、眉をひそめた。
「確かに、そう言ったなあ・・・」
「どっちなのよ」
口を尖らせたまま、シュリナはさらに追求した。
「あの時は、男だと思っていたんだ。でも・・・」
明妃は答えるのを躊躇った。
「でも・・・何よ?」
煮え切らない態度に、シュリナは顔をぐいと近づけ、答えを迫った。
明妃は視線を落とし、小さな声で
「大牙の国で思い出したんだ。私は前世、女で、ドルチェンの妻だった」と、告白した。
「ええっ、ドルチェンって猊下よね。結婚していたの?」
「うん、支度金を親が受け取って、買われたようなものだが、確かに、妻だった。それを思い出してから、自分でも本性が何なのか分からなくなった」
明妃はため息をつき、茶碗を持ち上げ、冷め切ったお茶を飲んだ。
「まあ、そこはこだわらなくてもいいんじゃない。リーユエンはリーユエンなんだから。私は、どっちでも、あなたのことは大好きよ」
シュリナは躊躇いなく言い切り、彼女へ向かって、にかっと笑った。
明妃も、シュリナを見つめ、「ありがとうシュリナ」と、笑い返した。




