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1 飛魄がないけれど、飛べますか?(1)

 『西荒は、地平線の彼方まで、針葉樹林の森が果てしなく広がる。遥か西の果てには、雲を突き抜け天にまで達する真っ白い冠雪頂く急峻の山嶺が、あたかも龍骨のように複雑な峰を連ねている。針葉樹林の中、ところどころ湧泉池があり、そこから流れ出た清流は、落ち葉の下を流れ、あるいは岩肌を流れ落ち、流れは集まり川となり、瀑布となって大峡谷を流れ下り、やがて中央平原へと続くゆるやかな大河となり最後は南洋海へ到達する。

 西荒の地を治めるのは、虎の一族であり、彼ら自身は「(たい)()」と称す。針葉樹の森の中に、五氏族がそれぞれの群落をつくり暮らしている。太古は七氏族あり、一氏族は早くに滅び、あと一氏族は二十年ほど前に族滅にあった。大牙の全部族を治める者は、大長老と呼ばれ、世襲ではなく、五氏族の中から、決闘によって選ばれる。現在の大長老は、「ソライ」で、在位は五十年に及ぶ』


「ミンズィ、また荷物運びをしたいって奴がひとり来ているから、面接してくれ」

 叔父のハオズィが、ミンズィへ声をかけた。

 赤狐族のミンズィは、膝の上で広げていた巻物から視線を上げた。彼は、今年で十七歳、生まれも育ちも、中央大平原の一画を占める狐狸国だ。

「分かりました。すぐ行きます」と、叔父へ返事をし、ミンズィは立ち上がった。

 二人とも狐狸国の商人だ。赤色のつば無しの丸帽を被り、茶色の短ベストの下は、丸首の襞の多い白シャツ、ゆったりした幅広の紺色のチュリダールは、膝から下は長靴にたくし込んでいた。

 狐狸国は交易を生業としており、西荒の大牙とも、三年ごとに交易を行なっていた。闇の中でも光を発する蛍石や、魔石を産出する大牙との交易は、利幅が大きく良い商いなのだが。西荒は遠く離れた地で、中央大平原との境は、瘴気の沼や、魔物が頻出する大峡谷があり、危険な航路だった。そのため、交易は三年ごとにしか行わないのだ。長距離交易が初めてのミンズィは、大牙の国について、予習していたところだった。

 ミンズィが歩き出そうとしたところで、ハオズィが声をかけた。

「面接して、ひ弱な奴は採用するなよ。途中で脱落されたら、賃金の支払いがもったいない。脱落するにしてもある程度荷物を運べる力のある奴を採用しろ。いいな」

「もちろん、承知してるよ。叔父さん、任せておいて、損が出ないよう頑張るよ」

 大牙への交易路は、難所が多い。そのため、交易の往路は特に中途で脱落する者が多かった。それを見越して、荷運び人を多めに採用しておかなければならない。けれど、叔父の言う通りで、ひ弱でろくに荷物を運べない者を雇えば、賃金は一律支払いだから、こちらが損をしてしまう。だから、面接を行い、荷物運びの能力を見定めて採用、非採用を決定する。今回、その役目を担うのは、ミンズィなのだ。

 できれば、大平原の蒼馬族や羚羊族の、体格のしっかりした持久力のある若者を雇いたいというのが、ミンズィの希望だ。金杖国の、身分が定まらない若獅子で、食い詰めたのが応募にくることもある。彼らは、確かに(りょ)(りょく)は抜きん出ているが、堪え性がなく、ケンカっ早い。管理が大変だから、ご遠慮願いたいところだった。


「えっ、君が、応募者なのか」

 面接用に設営した簡易テントに入るなり、ミンズィはこれは不採用と思った。応募してきたのは、金杖国どころか、大平原の遥か南、南洋海を隔てた南荒高原地帯の住人である黄金鷲国の、辛うじて幼さが消えたばかりの少年だった。

「君、黄金鷲の一族だろう。どうして、空中監視人じゃなくて、荷物運びなんかに応募したんだ。間違えたのかい?」

 黄金鷲の少年は、眉尻を、悲しげに下げた。

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