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Rev.3_夏のホラー2025 水の章  ちびきのいわと  作者: シニフィアン&グノーシス(AI)
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第九章 8ミリ映像

 都内・霞が関。旧厚生省の地下文書室──現在は内閣府保有の“特別保管庫”とだけ呼ばれる施設。

茶封筒に挟まれた一枚の褪せた写真。

写っているのは、旧陸軍の将校たちに囲まれた、宗教服を着た一人の青年、宮島に似た人物だった。


 写真の裏には、鉛筆で走り書きされた文字が残されていた。

「佐嶋中尉 王町にて実験開始」

「これはどういうことだ……? 宮島……お前は、この計画に関係していたのか?」


 平松は写真を見つめたまま、ふと別の封筒に目を移した。

そこには、未整理の文書が数枚挟まれていた。


> 昭和二十年六月──王町葦夜計画、召喚実験第一段。

> 被験体No.1:記録不明(政治的理由により抹消)

> 被験体No.2:死亡──脳圧上昇による破裂(供試結果:失敗)


 さらに別の報告書の表紙には、鉛筆で大きくこう記されていた。

《統合プログラム──宗教心理実験・武器運用適正検査》

(宗教と……軍事。これが“王町葦夜計画”の正体なのか?)


 平松は封筒を丁寧に閉じながら、宮島の顔を思い浮かべた。


 8ミリ映像:黄泉再開門儀式。

東京都千代田区霞が関──厚生省庁舎地下三階、非公開資料映写室。

戦前・戦中の旧陸軍関係記録や遺族援護課経由で移管された資料の中でも、ごく一部の職員しか入室できない封印アーカイブ区画。


 厚い鋼鉄扉と重い南京錠、入室には鍵束と職員証の提示が必要。

さらに入口前には守衛が常駐し、入退室は大きな帳簿に万年筆で記録される。

壁際には防湿庫が並び、内部にはガスマスク、旧軍医学校のカルテ、そしてラベルすらないフィルム缶が無数に眠っていた。


 映像は、夏の午後らしい強い陽光の下から始まる。

カメラは場所不明な山中にある、円形の石組みを俯瞰する位置に据えられている。

中央には直径二メートルほどの八芒星が白い石粉で描かれ、その中央に奇妙な装置──金属製の柱と水銀灯を組み合わせた「光の塔」が立っていた。


 画面左から、宗教服姿の男たちが列を成して現れる。

その先頭にいるのが、白い祭服と黒い軍靴を履いた佐嶋義徳中尉だった。

胸元には旧陸軍の勲章が一つ、まるで意図的に見せるようにつけられている。


 男たちは八芒星の周囲に配置され、祈祷が始まる。

風のないはずの午後、祭服の裾だけが不自然に揺れる。

カメラは寄り、中央の祭壇に置かれた物を映す──それは兵士の軍帽、錆びた銃剣、そして白骨化した人間の頭蓋骨だった。


 音は無いはずなのに、スクリーンから聞こえるような錯覚を覚える。

祭司たちが口を動かし、何かを唱えている。

突然、光の塔が点灯し、強烈な白光が天に伸びる。

画面全体が露出オーバーになり、八芒星の中央から黒い影のような“何か”が溢れ出す。


 その瞬間、カメラがぶれる。

画面右端に、儀式を見守る陸軍将校の制服姿の男たちが映り込む。

彼らの腕にはカメラと双眼鏡──おそらく陸軍科学兵器研究記録班だ。


 最後のカット。

佐嶋が中央の光の中へ一歩踏み出す。

その背後、八芒星の外側から黒い腕のようなものが伸び、彼の祭服を掴む。


 フィルムはそこでブツリと途切れ、スクリーンには白い光だけが残った。

映写室に沈黙が落ちる。

係員が呟いた。

「……これ、厚労省に保管していい代物じゃないですよ」

この物語はいかなる団体・宗教・思想とも関係ありません。

登場する人物・団体・地名はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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