第十四話 女神無双②
俺が静観してる間も、ワイバーンの傷は目に見えて増えていた。
脚、爪、手の甲、尾と攻めれば攻めるほどカウンターを返され、次第に動きが粗くなっていく。
そんな中、ワイバーンは突然連撃をやめたと思ったら、大地を蹴って再び大空へ飛翔した。
一気に高度を上げ、俺たちの頭上高くに留まると、大きく喉を膨らませる。
「またブレスか!」
俺はごくりと息を飲んだ。
あの距離なら、いくらかみのこでも手は出せない。
避けるにしても、真下からじゃ太陽光で視界も悪いので、もう一度バリアに入って炎が切れるまで待つのが確実だろう。
「おい、かみのこ! 一旦戻って──」
その事をかみのこに伝えようと、言葉を言いかけた瞬間、俺の声は喉に引っ込んだ。
なぜなら……。
「そーらもじゆうに〜とべちゃうもーん♪」
──かみのこは空を駆けていたからだ。
羽もないのに、空気の上に足場でもあるかのように、軽々と空を跳ねていた。
どこかで聞いたことあるフレーズと共に、かみのこがワイバーンに向かって空を駆けていく。
もうなんでもありじゃん……。
一方でワイバーンは飛んでくることなんて想像もしてなかったのか、慌ててかみのこに向けてブレスを吐き出した。
しかし、そんなやぶれかぶれの攻撃が、神眼を持つかみのこに当たるわけもなく。
「当たらないもーん♪」
ブレスを避けたかみのこは勢いのまま、生命の笛を構えワイバーンの右翼の根本に向けて刃を一閃。
あらゆる物を切り裂く刃を受けたワイバーンの右翼が、付け根からズルッと剥がれ落ちた。
「ウギャァァァァァァァァ!」
右翼を失ったワイバーンに、もはや飛び続ける事は叶わず。ワイバーンは再び悲鳴の様な咆哮を残し、地面へと叩きつけられた。
その巨体が地面に叩きつけられると大地が大きく揺れ、辺りに砂埃が舞い上がった。
「くっ……」
俺は砂埃を目を細めて防ぎ、落ちてくるかみのこへ視線を戻す。
純白の清楚なドレスに身を包んだメルヘンチックな姿に、圧倒的な強さ。
その姿はまさにプリキュ……いや、剣を使ってるからどちらかといえば魔法少女だ。
再生という回復魔法が使え、近接戦闘スタイルで、空中跳躍できる。
まるで助六扱いされてるあの魔法少女のような…………って、近接スタイルと言ってもアレとは別物か。
あっちは攻撃を避けたりしないし。
「……つうか俺、マジでなんのために連れてこられたんだよ」
あまりの俺の必要性のなさに、思わず思った事が口から漏れ出た。
守って欲しいという理由で連れてこられたはずなのに、当の本人様は守る必要もないくらいクソ強い。
──もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。
「んん〜風が気持ちよかったもん!」
舞い上がった砂埃がようやく静まりつつある中、空から落ちてきたかみのこが俺の隣にとん、
と音を立てて軽やかに着地した。
「なあ。このやりとり何回目になるかわからないけど、またひとつ聞いていいか?」
そんなかみのこに俺は、もう何度目かになる問いかけをかみのこにした。
「もんもん? なになに?」
「なんで空飛べたんだよ? 力が制限されて飛ぶこともできないって、ついさっき自分で言ってたじゃねえか」
「えーっと、それはね……」
かみのこは無邪気な笑顔を浮かべながら、つま先をちょんと突き出す。
そこにあるのは、足にぴたりと貼りつく羽の装飾が付いたヒールブーツだ。
「これのおかげもん!」
「靴?」
「ただの靴じゃないもんよ? これは空気を蹴ることのできる神器、その名も『踏空の靴』だもん! 神界じゃみんな普通に飛べるけど、下界だと力が制限されちゃうから履いてきたもんよ。羽を装着するのと違って、コレならお邪魔にならないし便利かなと思って!」
説明の途中で、ぽんぽんと軽く踵を打ち鳴らすように靴先を動かす。
ただの見た目が変わった、ファンシーな靴に見えていたが、あれで空気を蹴って空を飛んでいたのか。
「なんでも切れる剣だったり、空気を蹴れたり……。やっぱ神器って何でもありなんだな」
「なんでもありもん。ただね、この靴は一度履いたら脱げないもん」
「えぇ……」
なにその不親切仕様。
「要するに専用装備ってこともん。かみのこは再生のシンボルがあるから、拘束状態を再生の力で無効化すれば脱げるけど、他の子が履いたら一生履きっぱなしになると思うもん。足を洗えなくて、足くさ星人になっちゃうもん」
…………。
生命の笛の生命エネルギー吸収しかり、この踏空の靴しかり。
神器ってメリット1、デメリット1の割合でできている法則でもあるのだろうか。
「……かみのこ。お前の持ってる神器って、全部お前専用なんだな」
俺がかみのこにそう言うと、かみのこはきょとんとした顔で。
「もん? かみのこの作った神器で、かみのこが使う物だから当たり前もん」
「いや、もうちょっと汎用性考えようぜ……」
なんとなく俺は、今後集める際に出てくるであろう他の神器も、絶対ロクでもない仕様をしてる気がしてならなかった。