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第十一話 クエスト達成……?

「ロリコンさん、どうしたもん? あんまり嬉しそうじゃないもんね」


 俺のことを心配そうに覗き込んできたかみのこが、にぱっと笑って言った。


「バリアだって魔法みたいなものもん。よかったもんね! ロリコンさん、魔法が使えるもんよ!」


「…………」


 その屈託のない笑顔から放たれる言葉に、俺はもう何も言う気になれなかった。

 だってこいつ、心の底から良かれと思って言ってるんだもんな。


「……そうだな。ありがとな、かみのこ」


 俺はかみのこの小さな頭を撫でながら答えた。

 皮肉でもなんでもなく、自然な気持ちを。

 そのままそっと息を吐いて、気持ちを切り替える。


 とりあえず現状を整理すると、これは俺の望んでいた異世界無双ルートではない。

 最弱と幼い女神が一緒に成長していく、成り上がりルートだろう。


 しかし、それならそれでやりようはあるはずだ。

 どこぞのイヌコロ曰く、人生なんて配られたカードで勝負するしかないのだから。


「とにかく、まずはクエストを達成しなきゃな。どちらにせよお金は必要だし、巣を破壊するぞ」


「もん! でもどうするもん? よじよじ登ってドカンと壊しにいくもん?」


「まさか」


 何度もいうが、俺にそんな超人じみた身体能力があるわけない。第一、高いところ無理だし。


 ……だけど、ちょっとした発想力なら持っているぜ。

 なんたって俺は、引きこもり生活の中で異世界転生系小説を読みまくってたんだからな。

 

 

「こういう時こそ頭を使わなきゃな。かみのこ、さっきの神器出すんだ。生命の笛ってやつ。あれって、なんでも切れる剣になるだろ?」


「もん!」


「なら話は早い。この木の幹をスパッと切っちまえばいいんだよ!」


 俺はニヤリと笑い、かみのこでもわかるように丁寧に説明する。


「幹を切れば木は、重心を失っていって自然と倒れる。倒れれば、地面に落下する時の衝撃で巣も破壊できる。つまり! 俺たちは木を切るだけで楽々クエスト達成できるってわけだ!」


 自画自賛したくなる完璧なプラン。

 これこそ、異世界系主人公のひらめき力だ。


「おおっ! かみのこ感動したもん!」


 俺の作戦が完璧すぎたのか、かみのこが尊敬の眼差しを向けながら拍手をしてきた。

 前と同じく、頭の上に手を上げた状態での変わった拍手を。


「ロリコンさん、すごいもん! かっこいいもん! 尊敬しちゃうもん!」


「ふんっ。そうだろ、そうだろう?」


 褒められるのって案外気持ちいいな。クセになるかも。


「よしっ! それじゃあ切っちゃうもん! いくもんよー!」


 かみのこは華奢な腕でリコーダー剣を構え、大木の目の前へと進み出た。

 そして、元気いっぱいな掛け声とともに、リコーダー剣を一閃。

 刃はなんの抵抗もなく、大木の幹を一直線に通り抜けた。


「ほんとになんでも切れるんだな」


 俺の感想に一拍遅れて大木の幹にパキリと音が走り、ゆっくりと傾き始める。

 やがて時間差で大木は重心を失い、横倒しに崩れていった。


「よーし、依頼達成完了。帰るぞ!」


 俺は満足げに手を払った。

 後はもう帰るだけ。これだけの衝撃なら、どう考えても巣は粉砕されただろう。

 一応確認もしなきゃいけないのだろうが、こういうのは長居すると碌なことにならないのを俺は知っている。

 さっさとギルドに戻った方がいい。


 チート能力があるのならワイバーンと戦ってみたかったが、バリアしか貼れないとわかった今、わざわざ戦う意味もない。


 というか多分死ぬ。

 成り上がりルートなら、いきなり強敵と戦うなんて馬鹿なことせずに、順当に低レベルのクエストからこなして、レベルを上げていかなければ。


「なんかあってからじゃ遅いしな!」


 そう口にした瞬間だった。


「あ、かみのこそれ知ってるもん」


 ぴょこんと手を挙げたかみのこが、俺に向けて指を突き刺す。


「ロリコンさん、今『フラグ』ってやつ立てたもんね」


「……あ」


 口から漏れた声は、自分でも驚くほど間抜けだった。


 瞬間、背後で微かに風がざわめいた。

 葉擦れの音とは明らかに違う、重たく、それでいてどこか湿った気配。


「あー、もしかしなくてもこれって………」


 俺はゆっくりと振り返る。

 倒れた木の先端あたり。

 そこから、視線を刺すような圧がこちらに向けられていた。


 そこに立っていたのは、黒い鱗に覆われた巨大な飛竜、ブリードワイバーン。

 四肢に鋭い爪を備え、蛇のように細長い首をくねらせている。

 まさにフィクションで出てくる、あのワイバーンの見た目そのものだ。


 気配を感じなかったのは、巣で眠っていたせいだろうか。

 何にせよ、居合わせたところに俺たちが盛大に木を倒してしまったらしい。


「キシャァァァァ………!!」


 飛竜は静かに、しかし確実にこちらへ向き直る。

 そして俺たちと目が合うと、耳をつんざくほどの咆哮をあげた。


「かみのこさん、かみのこさん。ワイバーンさんがなんて言ってるかわかったりします? 実は俺たちに気づいてなくて、木が偶然倒れた不幸な事故だとか思ってたり……」


「うーん、ドラゴン語はわかるけど、ぐちゃぐちゃ言葉で何言ってるかは分からないもんね。分かるのは、かみのこたちが木を倒したのがバレちゃってて、すっごいぷんぷんしてるってことくらいもん」


「ですよねですよね。バレてますよね……!」


 爬虫類なので頭が良くない可能性に賭けたかったが、どうやら無駄みたいだ。


 俺はぎこちない笑みを浮かべたまま、さらにそっと一歩後退する。

 するとワイバーンもまた低く身構えた。

 羽をばさりと広げ、爪が地面を抉り、首筋の筋肉が盛り上がる。

 怒りに任せて今にも飛びかかってきそうだ。


「ちょ、ちょっと待とうな。謝るか? 謝ったら許してくれるか?」


「ないもんね」


 迷いのない心底無慈悲な即答だった。


 逃げようにも、もう遅い。

 あの体格差で走ったら、一瞬で追いつかれる。

 となると残る選択肢は一つ。


 戦うしかない。

 レベル1で最弱の俺が、戦って勝てるとは思えないがやるしかない。


「ああくそっ! 来やがれワイバーン! 主人公補正でテメェを俺の剣の餌食にしてやるよ!」


「剣って……ロリコンさんは剣を持ってないもんよ?」


「おえ?」


 かみのこのツッコミで、俺は気づく。

 チート能力でどうにかなると思っていたから、武器を一切持たずにここに来たことを。

 そもそも金がないから、買えなかったのだけれど。


「………よーし、かみのこ。いや女神様。あとは任せた。俺は後方支援で頑張るから」


「ええっ!?」


 かみのこに全てを押し付ける様に告げた瞬間、ワイバーンが襲いかかってきた!

次回、ついに初戦闘……!?

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