第十話 保護者の力もんよ!
視界に広がる世界は変わらず平野が続いており、違う点といえば目の前に一本の巨大な大木が立っているだけ。
地面に怪しげな巣穴があるわけでもなければ、敵の気配も卵も見えない。
かみのこの言う通り、この木の上に巣があるのだろう。
「この木に登らなきゃいけねぇのか……」
ため息混じりに呟くが、すぐに無理だと悟る。
俺の身体能力じゃ、こんな足場もない木を登れるわけがない。
そもそも高所恐怖症だから、高いところに登ることができない。
……ということは、ここが能力初披露の場ということだろう。
本来なら、戦いの中で能力を発動するのが王道と言うやつだろうに。
どうやら空想で思い描いてた「カッコイイ能力披露」なんてものは所詮、絵空事だったらしい。
「じゃあとりあえず、シンボルとやらの力を見せてもらいますか」
そう息巻いて、俺は右手をかざした。
……が、なにも起こらない。
そういえば異世界に来た嬉しさで、考えてもなかったが、シンボルの力なんてどうやって使うんだろう。
身体的に強くなった気はしないし、間違いなくなんかの能力なんだろうけど。
……もしかして、キッカケのトリガーとやらが必要なんだろうか? 詠唱とか、そんな感じの。
確かかみのこも、再生の力使う時に魔法名みたいなの言ってたし。
「…………」
でもなぁ……。
もし違ったら俺、ただの痛い奴だよな。
実際、魔力ないなんて言われてたし。
でもかみのこは、神の力はあんな道具じゃ映せないって言ってたし…………。
えーい、悩んでたって仕方がない。
どうせやらなきゃ始まらないんだ、やってやる……!
俺の脳内知識によれば魔法といえば想像力。魔力が想像を具現化させる様に、神の力だって同じ要領でできるはずだ。
木に登る事は出来ないし、いっそ焼き払ってしまおう!
手のひらから炎を生み出して、飛ばすイメージを。
今こそ、引きこもり生活で培った俺の妄想力を活かす時だ!
俺は渾身の妄想と共に、右手を大木に向けて突き出し、思いっきり叫んだ。
「『ゴットファイヤー』ッ!」
途端、俺の右手から巨大な炎が現れ、大木諸共ワイバーンの巣を焼き払う。
そのはずだったのだが……。
「あり?」
なぜか俺の手からは何も出ず、俺は叫びながら手を突き出した頭のおかしいやつになっていた。
幻聴だろうが、俺の耳にシーンという効果音が聞こえ、妙に風の音が大きく感じた。
幻聴だろうが。
「ロリコンさん、急に叫んでどうしたもん? ごっとふぁいやーってなにもん? 気合いを入れる掛け声みたいなものもん?」
「あーっ! うるさいうるさい! もんもん問いかけるな! 能力も教えられてないのに、シンボルの使い方なんてわかるわけねぇだろ!」
顔が熱くてたまらない。恥ずかしさで死にそうだ。
「シンボルが使いたかったもん? ……そういえば、まだシンボルの力を発表してなかったもんね」
恥ずかしさ真っ盛りの俺に、ぴょこんと跳ねながら、かみのこが近づいてきた。
「それじゃあ発表するね! ロリコンさんの神力は守護のシンボル。空間にあらゆる物を通さない、絶対無敵の防御壁を生み出す保護者の力もんよ!」
「おおっ!」
ガーディアン……確か書類にもそんなことが書いてあったな。
ガーディアンって事は、守護者ってことだろうか。
女神の守護者……うむ、悪くない響きだ。
女神の守護者である俺の能力は、絶対無敵の防御壁を生み出す力。要するにバリアか。
つまり俺の能力は、バリアを張る能力ってことか。
うんうん、なるほど。バリアねぇ………。
「……ん!?」
ちょっと待て、バリアでどう戦えっつうんだ?
別にバリアを馬鹿にしているわけじゃない。
むしろ、能力としては当たりの部類だろう。
実際、アニメや漫画で強キャラがバリアで敵の攻撃を防ぐシーンなんて山の様に思い浮かぶ。
強キャラの持つ能力の一つと言えば、バリアと言っても過言ではないだろう。
……でもその多くはバリアが強いとかではなく、バリアを使う本人が強いのであって、決してバリア単体で何か出来るわけじゃない。
ステータス開示で、最弱だった俺がバリアを貼る能力を得たところで、異世界無双なんてできるわけもない。
いや待て。冷静になるんだ。
だとしたら、何でコイツは俺を呼んだんだ……?
なんだかイヤな予感がする。
俺は今までのかみのことの会話、手に入れた情報の全て振り返ってみた。
まずかみのこは、幼女で精神的には未熟な神様。
言葉にはちょいちょい毒があって、司る力は再生だから再生の女神。
天真爛漫で細かいことは考えていない。
書類に書いてあった「守って欲しい」という言葉………。
「あ」
集めた情報を元に、俺は一つの結論に辿り着いた。
それを確認すべく、かみのこに問いかける。
「な、なぁかみのこ。もしかして、もしかしてなんだけどさ。俺を連れてきた理由って、モンスターが怖いから守ってもらうため……とかだったりしちゃいます? ほら、バリアで守ってもらえれば安全だから〜とかそんな感じだったり……?」
「もんもん! その通りだもん!」
「やっぱりかっ!!」
考えることなく答えたかみのこの即答に、今日一番のツッコミが俺の口から放たれた。
ダメだ、この幼女神。思考が極端にも程がある。
守ってもらうために、バリアを張る能力を持った俺を連れてきた?
発想自体はわからなくはない。わからなくはないけどさ……。
それなら、もっとすごいチート能力の持ち主を引っ張ってこいよ!
攻撃も防御もできる、創造とか破壊の能力持った万能型の能力を持った奴をさ!
バリアしか貼れない俺じゃ、守ることはできても、それ以上がないんだよ……!