第八話「進化の門」
工業団地は異形の「震源地」へと変貌した。黒い結晶が大地を覆い、空間すら歪む。陽一郎たちは、逆さまにそびえ立つ“進化のオベリスク”へ。扉が開き、未知の存在が顔をのぞかせるとき、彼らの運命は決定的な一歩を踏み出す。進化の門をくぐった先に待つのは――。
「すげぇ……ここが“震源地”……!」
陽一郎の目の前に広がっていたのは、まるで異世界のような光景だった。
工業団地だった場所は、今や見る影もなく変貌していた。
地面には無数の黒い結晶体が突き出し、空間そのものが歪んで見える。
「重力、変だな……」ゴローが耳をぴくつかせる。「空気も澱んでる。酸素量が不安定だ。マスクは忘れるな」
拳次とはるかが頷き、それぞれガスマスクを装着する。
「うーん、鼻がムズムズする〜。でも、ちょっとワクワクする!」
はるかは楽しげだが、陽一郎は一歩足を踏み出すごとに、背筋がじんわりと冷えていくのを感じていた。
《なんだ、この感覚……細胞が、脳が、全身が警戒してる……》
それは“進化”の領域に踏み込んだ者だけが感じる、危機感のような高揚感のような、得体の知れない震えだった。
「“オベリスク”は、もうすぐだ。油断するなよ」
拳次の声も、いつになく真剣だ。
やがて、黒い結晶の森を抜けた先に、それはあった。
「……でけぇ……」
逆さに突き立ったピラミッド──“進化のオベリスク”。
空に向かってねじれるように屹立し、まるでこの世界の理そのものをねじ伏せる存在のようだった。
表面にはびっしりと、古代文字とも回路図ともつかない文様が浮かんでいる。
「中に、何かいる……」
陽一郎が呟くと同時に、オベリスクの基部から、ズズズ……と音を立てて何かが現れる。
「門、か……」
ゴローの分析通り、それはまさに“扉”だった。オベリスクの中央が左右にスライドし、紫色の光が漏れ出す。
「進化の本拠地にして、災厄の中心地……まさにここが“門”なんだな」
「開いちまったら、戻れねえぞ」
拳次がニカッと笑う。
「いや、戻るつもりなんて、ないよ」
陽一郎はそう言って、歩き出した。
その一歩が、何を意味するのか。まだ彼らは知らない。だが確実に、世界の歯車は音を立てて回り始めていた。
進化と破壊の向こうにあるものは、希望か、絶望か――
そして、門の奥から、複数の“気配”がこちらを見据えていた。
「来る……!」
「進化の門」が開かれ、陽一郎たちは未知の領域へ。工業団地が変貌した「震源地」、圧倒的な“オベリスク”の描写で世界観が深まりました。陽一郎の「戻るつもりなんて、ないよ」という決意は、今後の物語に大きな影響を与えるでしょう。門の奥の“気配”とは?次なる展開にご期待ください。