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第十二話「記録の渦、その名はムー」

激闘の果て、陽一郎の意識は“記録空間”へと引き込まれる。

そこで彼が目にしたのは、失われた超古代文明「ムー」の断片と、自らが“選別される存在”であるという衝撃の真実だった――。

変容する自我、目覚める力。

物語は新たな段階へ突入する。

――光が、世界を包み込んだ。


拳次の火炎が収束し、はるかの剣が閃光と共に貫いた瞬間、門番たちの肉体は崩壊した。だが、その“死”には違和感があった。まるで、すべては計算された演出だったかのように、静かに、整然と散っていったのだ。


「……終わった、のか?」陽一郎が息を呑んで問いかける。


「いや……何か来るぞ!」ゴローの警告と同時に、戦場の中心、門の奥から霧が噴き出す。それは煙ではなかった。記号のような粒子。構造化された“情報の渦”だった。


「情報……?」はるかが眉をひそめる。


その瞬間、陽一郎の頭が割れるように痛んだ。視界が白く染まり、意識が断ち切られ、彼の身体は地面に崩れ落ちる――


◆  ◆  ◆


気づけば、彼は空中にいた。


“ここ”は重力のない空間。無限に広がる星図のような背景に、無数の円環が漂っている。輪のひとつひとつが、記憶や歴史の断片を映し出していた。


「……どこだ、ここは……?」


その問いに答えるように、眼前に巨大な輪が浮かび上がる。その内部には、見覚えのある都市風景が映っていた。


「これは……地球?」


だが、何かが違う。建築様式は人類のものに似ていながら、明らかに高度で洗練されていた。都市の中心には巨大な黒い塔――“オベリスク”がそびえ立ち、その頂からエネルギーの光が空へと伸びている。


「これは――ムーだ」


不意に、背後から声が聞こえた。


振り返ると、そこにはかつて戦った“少年の姿”があった。だが、その姿は以前とは異なる。髪はより白く、服は神官のような意匠へと変化している。


「君は……あのときの門番!」


「正確には“記録体”だ。君たちが門を越えたことで、私は“次の段階”を起動した」


「次の段階……?」


少年は頷くと、指を一本立てた。すると無数の記録円環が周囲に現れ、陽一郎のまわりを高速で回転しはじめる。


「これは君に与えられる“知識”だ。そして、選択でもある。……ムーという存在が何なのか。進化とは何を意味するのか。その起源を知る覚悟があるか?」


陽一郎は目を細めた。戦いの記憶が脳裏をよぎる。門番との激突、仲間たちの力、そして――“呼ばれた”ような感覚。


「教えてくれ。俺は……俺たちは、何と戦っている?」


少年は静かに語り出した。


「かつて、この星に高度文明が存在した。“ムー”と呼ばれるその文明は、遺伝子と精神、記憶のすべてを操る技術を持っていた。だがある時、彼らは決断した。“進化”を加速させるという選択を」


「加速させる?」


「あらゆる生命は淘汰され、再構成された。強く、美しく、効率的に――そして、ある種の“意志”が生まれた。進化を監視し、選別する存在。“オベリスク”はそのための装置だ」


陽一郎の喉が鳴る。


「じゃあ、俺たちは……その選別にかけられてるってわけか?」


「そう。君たちは、“試される側”だ。そして、その先にあるのは……」


少年が手をかざすと、空間の奥に巨大な球体が浮かび上がる。それはまるで、地球そのものを模したような構造をしていた。


「“記録の核”だ。ムーの最深部、すべての記録が集約される中枢」


「そこに行けば……すべてがわかる?」


「否。“行く”のではない。“呼ばれる”のだ」


「……呼ばれる?」


「君が何を選び、何を見て、何を信じるか。それが、君たちの“進化”を決定づける。記録はその都度、書き換わる。未来もまた、変動しうるのだ」


陽一郎は拳を握った。自分たちはただの漂流者ではない。見極められている。いや、世界そのものから“問い”を投げかけられているのだ。


「俺は……進むよ。どれだけ痛くても、怖くても、確かめたい。俺たちの“存在理由”を」


少年は微笑んだ。


「その意志、記録した」


彼の身体が淡く光りはじめる。空間が収束し、視界が再び白に染まっていく。


「……一つ、忠告を」


「なんだ?」


「次に目覚めたとき――君は“変わっている”。それでも、その力を恐れないでくれ。君はもう、“ただの人間”ではない」


◆  ◆  ◆


「よういちろう……! 起きて!」


遠くから声がする。まぶたが開かれ、現実の色が戻ってくる。


「……ここは?」


「大丈夫か? 急に倒れて……心配したぞ!」拳次が焦り気味に叫ぶ。


「記録を見たのか?」はるかが静かに問いかける。


陽一郎は、ゆっくりと頷いた。


「“ムー”の全貌の一部……そして、選別の始まりを」


手のひらを見ると、そこに光の粒子が滞留していた。かつてなかった感覚。彼の内側で、何かが変わり始めている。


「行こう。まだ……これは始まりにすぎない」


彼の目は、門のさらに奥、見えない遥かなる“中心”を見つめていた。

進化の門を越えたその先に待つのは、真の「問い」。

“試される側”としての運命を知った陽一郎は、それでも歩みを止めない。

この世界の記録とは何か。ムーとは何者か。そして、自分は……。

次回、「核心領域」へ!

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