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EP01 落ちた太陽

 その夜、轟音が目覚まし替わりに鳴り響き、ほとんどの人間が目を覚ましたとされる。


 最大級の直下型地震を上回る振動が建物を揺り動かし、世界の終焉の始まりかと想わせる恐怖を誰しもが感じたと言う。


 そして、その痕には闇夜を塗り替える光が世界を埋めた。


 運良くその光景を眼にした人間は、遥か先の山の間が赤々と燃え上がり、世界は真昼に塗り替えられたような奇妙な光景を目撃する。


 世界が昼間のように明るくなっていた時間は二十秒も満たなかったとされるが、夜が一瞬で昼間のような明るい世界に書き換わった瞬間は、まるで別の世界に迷い込んだかと錯覚するほどであり、十数秒の時間がとても長く感じたと言う。


 そして、その光が闇に呑み込まれ始めた時に、爆音と衝撃波が遅れて大地を鳴動させた。


 近くにあった湖では津波が起こり、爆風によって木々や動物が吹き飛び、近くにあった村は丸ごとハリケーンにあった如く家の基礎を残して吹き飛んだ。


 舞い上がった塵により、光で照らされた世界はあっと言う間に星の光もみえない灰色の姿に飲み込まれた。


         ◇



 身体に纏わりつく暖かい空気を感じて

アゾ二ス・F・ヴァイカートは目を覚ました。 


 風邪を引いたように全身が気だるくて熱い。


 ぼうとする意識を揺り動かして目を開く前に、鼻腔に土の匂いを感じた。


 眼の焦点を無理矢理合わせると、目の前に地面が在ることに驚く。


(土? 大地? 重力を感じる……)


 自分の現在の状況が全く把握できない。


 取りあえず、現在自分が地面に俯せに倒れていることは理解した。


 立ち上がろうと動かした左腕に激痛が走る。


 目を細めて左腕を見ると、手首より少し下辺りが嫌な方向に曲がっていた。


 骨折しているのは確実だろう。


 それを意識してから身体中に鈍い痛みが走り出した。


 熱く感じていたものは全て痛みだったようだ。


 体中が悲鳴を上げており、内臓の幾つかにも深刻なダメージを受けているのが分かる。



 無理矢理身体を回転させて仰向けになると、ぼやけた視界に薄暗い空が見えてきた。


 殆ど雲に覆われているために清々しい感じは一切ない。


 空の周りには木々が見える。 


 嫌、逆だろう。


(駄目だ。思い出せない)


 痛みで記憶を弄る事が容易ではない。


 現状把握する一番手っ取り早い方法を思い出して、それに縋る事にした。


 取りあえず視覚野に映し出される筈の、非接触インターフェースが全く写っていないコトに落胆する。


 戦術データリンクが切れたと言うよりは、仮想ディスプレイ自体が機能していないのだろう。


「データリンクは完全に途絶か……」 


 首元の通信デバイスに手を当てる。


「ディアイス聞こえるか? 現状報告をしろ」


 返事は無い。


「こちらスターリー・ドラグーン四号機、メインパイロット・アゾニスだ。現状報告をしろ!」


 再度の問いに答えは無い。


 通信機器が壊れたか、愛機のメインフレームに重大なエラーでも発生しているのか?


 どちらにしろ情報を安易に収得する手段は失ったようだ。


 大声を上げて血圧が上がったためか、貧血のように視界が揺れて吐き気が込み上げる。


(これは駄目だな。自動修復も動いている気配が無い……)


体内に組み込んでいる治療用のナノマシンも全く動いている気がしない。


 現状では怪我を直す手段が無い。


 困難な任務を受けた時点で宇宙の藻屑と消える覚悟はしていたが、まさか星の上で朽ち果てる事になるとは予想もしていなかった。


「星の上で死ねるだけマシ……か?」


 ゆっくりと瞼を閉じる。


 痛みが頭の中を埋めるように広がると、いつの間にか意識は途切れていた。





        ◇



 微睡む意識に音が響く。


 断片的な音の波長ではなく、一定に続く音の羅列。 

 

 それが、聴覚に浸透してくる頃には、女性の声だと理解できた。


「気を確かに!」


 春風のような声が意識を覚醒させる。


 重たい瞼を開けると、目の前には見慣れない服装の美少女がいた。


 長い金髪にカチューシャ、緑色の瞳はエメラルドのように輝いている。


 羽織ったマントの下には所々に装飾品を散りばめた、見ただけで上質な素材だと分かる赤い女性用の貴族服をコルセットで止めている。


 明らかに身分が高そうな人物だ。


 その少女の声で意識が覚醒したようだ。  

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