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願い叶える剣の王 第一章 第二話

二話目の投稿です。



「すぐに動かせる兵はどれくらい居る?」

「通常時の数分の一、と言ったところです」

「そのくらいが限度か……」

「主戦力はほとんどロキ山の方面に出ています。

 ノーデンス様や若様がいらっしゃることが幸いですが……」

「圧倒的に兵数が足りないな」



 通常であれば、"山降り"には最低でも万単位の兵を動員する。

 しかし主戦力はロキ山の方へ遠征している。

 今残っている留守番の部隊、それも動員できる兵数となると一万にも届かない。

 ノーデンスは勿論、オードも並みの兵士では相手にならないほどの使い手だ。

 しかし――あくまでも"個人"の力でしかない。

 数の暴力の前に屈することは想像に難くない。



「周りの領主から兵を借りようにもなぁ……」

「このオーディア領の兵はミーミル帝国でも屈指の強さを誇ります。

 他からいきなり兵を連れて来ても足手まといになるかも知れません。

 それに先々代の皇帝陛下の"文武別道"を唱えられて以来、

オーディア領以外では最低限の兵を除いて戦力を持たないことになっていますから……」

「―――実際はそうでなくとも兵は出さない、か……」



―――先々代の皇帝が唱えた"文武別道"。

 要はニヨルド皇国の相手をするオーディア公爵軍以外の兵なんて要らないだろう、

ということである。

 勿論、領主の護衛や盗賊団の討伐、魔物の退治などのために最低限の兵は残す。

 だが、他の人員は産業の発展などに回した方が国が潤う。

 そういう理由でミーミル帝国では軍縮が進んでいる。

―――政府に隠れて私兵を多数保持している貴族もいるが。



「とりあえず、今の戦力で出陣するぞ。まずは侵攻を食い止めることが重要だ。

 父上たちが戻ってくるまで持ち堪えれば何とかなるだろう」

「そうですね。このまま領地に侵攻を続けられるわけにはいきませんから」

「出陣は何時までに出来る?」

「遅くとも明日の昼までには」

「では明日、準備が出来次第出陣するぞ」

「承知しました」




 翌日の夜、オード率いる"山降り"討伐隊はリフェルン山脈へと続く街道の途中、

少し街道から離れたところで野営をしていた。

 オードは野営している軍を見ながら呟いた。



「―――本当はもう少し進んでおきたかったんだがな」

「仕方がありませんぞ、若。

 着いたら即戦闘という可能性はかなり高いのですからな」

「あまり魔力の無駄遣いは出来ないか……。

 そもそも《発現》を使えるやつは少ないしな」



 その呟きに近くに来ていたノーデンスが応えた。

 彼も少し歯痒そうな表情を浮かべている。

 オードは改めて今回の人員不足を嘆いた。

 オード達は此処まで行軍速度上昇のために《発現》使ってきた。

 しかし、魔導兵の兵数はこの討伐隊の十分の一程度に過ぎない。

 到着すれば戦闘になることは間違いないために、

少しずつ使用を控えていかなければならない。



「とにかく、出来るだけ早く目的地に向かう以外出来ないからな、今は。

―――場所は魔族の集落の近くだったよな」

「監視していた兵からはそのように報告されていますな」




―――魔物と魔族。

 この二つの種族は魔力を糧にして生きるという共通点を持つ種族である。

 前者は獣の姿をしており、全体的に知能が低い。

 後者は人の姿をしており、人と同等の知能を有している。



「魔物と魔族は天敵同士だからなぁ……」

「戦闘となれば、被害が大きいでしょうな」



 今回、"山降り"が確認されたのはその魔族たちが住む集落の近くだ。

 魔物も魔族も魔力を糧としており、どちらも総じて魔力量が多い。

 どちらにとっても格好の獲物なのだ。




「―――若、そろそろお休み為されよ。明日からも行軍は続くのですからな」

「分かったよ。……このペースで行けば二、三日の内には着けるか?」

「早ければ明後日の日が暮れる前には着きましょう」



 少し会話を続けた後、オードは自分の天幕へと向かっていった。




SIDE:ノーデンス IN

 若がご自分の天幕に向かわれるの確かめた後、私は一人その場で夜空を見上げていた。



「なんとも不思議な縁よな。まさか、こんな形であの土地に向かうことになるとは……」



―――あの土地にはいい思い出が無い。

 在るのは、飢えと戦いの記憶のみだ。



「―――いや、一つだけ在ったな」



 飢え手傷を負い、今にも死にそうであった私を救ってくれた主との出会いが……。



『―――我が前に、後ろに、そして隣に在れ。

 我が敵を屠る槍として、

我が宝を守る盾として、

そして我と共に歩む剣として在るがいい』



 それ以来、私は"そう"在った。槍として、盾として、そして剣として。

 主は私に全幅の信頼を与えてくれた。

 私はその信頼に応えるために全身全霊を注いだ。

 自分に流れる血の性にも逆らい、ただ全てを主に捧げた。



「願わくば――若にもそんな出会いが在って欲しいものだ……」



 私は夜空に輝く星々に願った。

―――まるで私の願いを聞き入れた証のように星が一つ、夜空に流れる。

 私はそれを見た後、自分の天幕へと向かった。

SIDE:ノーデンス OUT




SIDE:オード IN

 俺は自分の天幕に入ると、寝床に横たわった。

 そして眼を閉じ、意識を己の内に埋没させていく。

 俺の意識が浮上すると久しぶりな光景が広がっていた。



「久しぶりだな――本格的に"コレ"を使うのは……」



 俺の前に広がるのは――――


――――本。本、本、本本本本……


 大きさや厚さ、装丁の違いこそあれど、そこに在るのは本ばかりだった。

 周囲に円状に配置された本棚にびっしりと本が詰め込まれている。

 そして、その本棚は遥か高く――果ても見えないほど高くに向かって伸びている。

 その本棚に囲まれた中心――そこに在るのは"祭壇"。

 円状の台、それを囲むように何本もの円柱が同じく円状に並び、

台の中心には円柱状の壇。

 その壇の上には――神秘的な光を放つ球体。

 この世界こそが―――――俺の精神世界。

 《理解》によって、アカシックレコードから写し取られた世界中の、

いや平行世界や異世界も含めたありとあらゆる全ての叡智。

 この世界に存在する"本"は本にあらず、純粋な知識や記録の集合体だ。

 その"本"を収める本棚とそれを俺に捧げる"祭壇"。これらから成るのがこの世界だ。



「―――やっぱり、そう都合よくは行かないか……」



 今回の"山降り"の原因を知れないかと思った。

 だが――如何せん、情報量が多すぎて調べられない。

 ここの情報は人間にとって多すぎるがために、

下手に取り込むと脳が耐え切れなくて死の危険があるのだ。

 俺は今回の"山降り"についての情報だけを集めたのだが……

それでも恐ろしい量の"本"が俺の周りに集まっている。

 これ以上絞り込める条件が無いので、俺は"山降り"についての情報は諦めた。

 次は――魔法だ。

 俺が使えるのは、《発生》と《創造》。

 元々、このノルン大陸で一般的なヴィリヴェー式魔法は

一人につき《発現》か《創造》のどちらかしか使えない。

 本来は《発現》の方が《創造》に比べて使い手が多い。

 だが――中途半端に前世の記録などが残っているせいか、

俺の才能は明確に形作ることが必要な《創造》の方に傾いたらしい。

 だが《創造》を使えると言っても、何でも造れるわけではない。

 《創造》の使い手は大体一人につき、一種類の物とそれに関連する物しか

《創造》することは出来ない。これが《創造》においての"属性"だ。

 俺の属性は"武具"。

 "武具"というのは武器から鎧などまで戦いに用いる道具のことだが、

このように自由度の高い属性の使い手はあまり大成しないことが多い。

 ほとんどの使い手が全てを極めようとして器用貧乏になってしまうのだ。

 自由度が高いということは、それら全てを生かすには

一点集中型の《創造》の使い手に比べて遥かに多くの知識を必要とするということだ。

 俺の"武具"で言うなら、

一生の内に剣の鍛冶師として比肩する者が居ないくらいの領域に到達し、

かつ槍の鍛冶師としても比肩する者が居ないという領域に達そうとするようなものである。

 《創造》によってある程度は経験を省略できるとは言え、

知識が無ければ出来るのはスカスカの張りぼて。

 人間の一生程度ではいくつも《創造》を極めることは不可能なのだ。


―――本来ならば。


 俺には、この世界がある。

 この世界のおかげで知識には困らない、むしろ多すぎて困るくらいだ。

 全く、この世界と俺の"眼"は使い方を工夫しないと勝手が悪すぎる。



「さて、今日はどれを取り込もうかな」



 精神的な疲労を考えつつ、俺は魔法に必要な知識を取り込んでいく。

SIDE:オード OUT




SIDE:???? IN

―――た……け……。


 オナカ ヘッタ。


―――……け……て。


 イッパイ イタ エサ ナクナッタ。


―――……嫌……だ……。


 アタラシイ エサ サガシニ イク。


―――誰……か…………止め……て……。


 シタ イケバ エサ イッパイ アル?


SIDE:???? OUT





魔法設定を少し公開。


読んでくれた方々、本当にありがとうございます。

次は……一週間後までに投稿しようと思います。


言い忘れてました。

明けましておめでとうございます!

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