cys:87 ルミの憂鬱
「ノーティスーーー早くこっち来てよー♪」
静かに決意を抱えるロウとアンリとは対象的に、暑い陽射しの下、海岸にメティアの元気な可愛い声が響く。
メティアが可愛い黄色の水着姿でノーティスに手を振り、天真爛漫な笑顔を向けたのだ。
「分かったメティアーー今いくよーーー♪」
そう言って微笑みながら手を振ったノーティス。
その隣でルミは顔を火照らし、手を下へピンッと伸ばしてモジモジしている。
白く眩しい水着姿の格好で。
「まったくもぅっ! ノーティス様、なんで私までこんな格好を……」
「いやルミ、海だから当たり前だろ」
ノーティスは海パンに半袖のシャツを羽織った姿でサラッと答えたが、内心ルミの水着姿に結構ドキドキしている。
───う〜ん、やっぱルミは可愛いよな……ハァッ。
ルミの事は可愛いと思いつつも、執事という関係上想いを告げる事が出来ない。
自分の変に固い性格を恨めしく思う。
そんな事は夢にも思っていないルミは、モジモジしながらチラッと横目でノーティスを見上げた。
「ノーティス様。第一、これは何なんですか?」
「いや、ジークがレイと海行きたいって言うからさ……」
ノーティスがそうボヤく先には、紫色の水着を着たセクシーなレイとガタイのいいジークが、楽しそうに海で遊んでいる姿が。
それを見て、ルミはより顔を火照らせた。
自分とノーティスがああやって遊んでる所を、二人に重ねて想像してしまったから。
「そ、それは分かってますけど、なぜ私達まで……」
ルミは色んな意味で恥ずかしく、タジタジしている。
ノーティスは、そんなルミに困った顔を向けて片手で頭を掻いた。
「仕方ないさ。ジークの奴、一人じゃレイを本気でデートに誘えないから、ダブルデートにしてくれって頼んでくんだもん。まったく、デカい体に似合わずシャイというか……」
ノーティスがそうボヤく中、ルミはカーッと顔を赤くしながらドキドキしている。
まだ海に入ってないのに、体が汗で濡れてしまうほどに。
───ダ、ダブルデートという事は、そーゆー事なんですかっ!
もちろん、ノーティスはただジークの頼みを聞いてあげただけで今デートという意識は無い。
まぁ、ちょっとは気にしたけど、女心れ〜点なノーティスは、まさかルミが自分を好きだとは思っていないから。
なので、汗をかいてるルミが心配になってしまう。
「どうしたルミ、顔赤いけどもう陽に焼けたのか? 汗もヤバいぞ」
そう言ってスッと顔を覗き込んできたノーティスに、ルミは慌てて両手の平を向けて振った。
「や、や、焼けてませんっ! 見ないで下さいっ!」
恥ずかしいやら何なのか分からず、ルミは頭がゴチャゴチャだ。
そんなこんなで慌てたルミは、段差からガクッと足を滑らせてしまった。
「きゃっ!」
けどその瞬間、ノーティスが片手でガシッとルミを支え、抱きかかえて見つめる。
「大丈夫か、ルミ」
ノーティスに至近距離から顔を覗き込まれ、ルミは恥ずかしさにカァー―――っと顔を赤くした。
「あ、ありがとうございます! ノーティス様!」
「ん? やっぱルミ、熱でもあるんじゃないのか」
そっと頬に片手を当ててきたノーティスから、ルミはサッ! と、離れた。
これ以上こんな事されたらドキドキし過ぎて、それこそ倒れてしまいそうだったから。
「いえっ、ノーティス様。大丈夫です!」
「ホントに?」
「ホ、ホントですよ。それにほら! そう、メティアが呼んでたじゃないですか。早く行ってあげて下さい!」
早口でそう告げてきたルミに、ノーティスは片手をスッと差し出し優しく微笑んだ。
「ほらルミ、危ないからメティアのとこまで一緒に行こう」
「ノーティス様……」
「ルミにケガしてほしくないし、それに……」
ノーティスはちょっと顔を赤くして、小声でハッキリ言う。
「今日は一応、ダブルデートっていうていだしさ」
「……はいっ♪」
ルミは照れながらもニコッと笑うと、ノーティスの手の平にそっと手を乗せキュッと握った。
ノーティスの手から強さと優しさが伝わってくるのを感じ、ルミは胸をときめかせている。
───ノーティス様……大好きですよ♪ 早く気付いて下さい。
ルミは顔を火照らせたままノーティスに手を引かれ、メティアの側まで歩いて行った。
端から見たら、完全にカップルにしか見えない。
そんな二人を浜辺に座ったまま見上げたメティアは、ちょっと小悪魔チックな笑みを浮かべた。
「あーーーっ、二人とも仲いいんだねーーっ♪」
「あっ、これは違うの! 私が転びそうになったから、ノーティス様が……♪」
慌てて手を離したルミは、顔が真っ赤に火照っている。
そんなルミを前にメティアは顔を横に向けて、ワザとちょっとツーンとした表情を浮べた。
「へーーーっ、じゃあボクも転んじゃおうかなー♪」
「メティアさんっ」
「だってボクも、ノーティスの事だーーーーーい好きだもんっ♪」
メティアはそう言って笑顔で振り向くとノーティスにパッと抱きついて、ニコニコしながら見つめている。
そんなメティアを、妹のように可愛がるノーティス。
「おいおいメティア、まったく元気だな」
「えへへー♪ ノーティスはボクの事好き?」
「あぁ、もちろん大好きだよ」
「わーーーいっ♪ ボクも大好きだよっ!」
よりギュッと抱きつくメティアの姿に、ルミはイラッとした。
ただの嫉妬だと分かっているが、これについては気持ちをなかなか抑えられないのだ。
「お二人とも、仲良さそうでなによりです……!」
そう言って顔を引きつらせながら笑みを浮かべると、ルミは二人にクルッと踵を返し海の方へスタスタと歩き出した。
「ん? おーい、どこ行くんだルミ」
ノーティスに背中から声をかけられたが、ルミは振り返らない。
怒った顔を見せたくないからだ。
「海に来たんだから泳ぎに行くんです! 泳いじゃいけませんかっ!」
プンスカしながら海に向かうルミをノーティスは不思議そうに見つめたまま、メティアに問いかける。
「なぁメティア。ルミ、急にどうしたのかな?」
「さぁー? ボクには分からないよー♪」
もちろん、メティアにはルミの気持ちが分かっていたが、まだノーティスに抱きついていたかったので、敢えてイジワルに言ってみた。
それに、メティアはノーティスに恋心を抱きながらも、同時にルミの事を応援してるので、これなら流石にノーティスもルミの気持に気付くと思ったからだ。
けど、女心に疎すぎるノーティスには全然分かっていない。
メティアのピュアで複雑な気持ちはもちろん、ルミの分っかりやすい気持ちも。
「う〜〜ん、急に怒ったのは……」
ノーティスは謎めいた顔をしながら考えていたが、突然片手で頭を抱えて顔をしかめた。
「あーーーそういう事かっ! 何で分からなかったんだ!」
かなり後悔しているノーティス。
その姿を見たメティアは、目をパチッと見開いた。
───おっ、ノーティス遂に気付いたんだね♪ 遂にこれでルミさんと結ばれるのか……まっ、キミが幸せならボクはいいよ。頑張ってね……♪
メティアは切ない笑みを浮かべている。
けれど、ノーティスは全然分かっていなかった。
「ルミ、すっごく泳ぎたかったんだな……ハァッ、俺がグズグズしてたから……」
「ノーティス?」
何を言ってんだ? と、言う顔でメティアが見つめる中、ノーティスは晴れやかな顔を浮かべ胸を張った。
「でも分かってよかった♪ 前進した! これで女心の試験も合格だ。だよな、メティア!」
「ノ、ノーティス……ハハッ」
唖然とするメティア。
ノーティスはギャグで言ってる訳じゃなく、真剣に考えた結果がこれだからだ。
───ノーティス、キミはこの二年でより強くなったけど、女心は、れ〜点のままだね。ハァッ……いいのか悪いのか、何だか複雑だな……
メティアが心でため息を吐いた時、レイとジークは砂浜でビーチベッドに寝そべっていた。
そして、海に入っていくルミの姿を見ると、ジークはそのままルミに声をかける。
「おーい、嬢ちゃん! ノーティスはどーした?」
ルミは一瞬ピタッと体を止めたが、背中を悲しく怒らせたままパシャパシャと海に向かっていく。
「知りません! ビーチで誰かと抱き合ってるんじゃないですか!」
そう答えたルミに、レイがジークの隣で敢えてイジワルな笑みを浮べた。
無論、今の会話で何があったのかを察したからだ。
「ねぇ! ノーティスに言っといて! 次は私のとこに来て頂戴って♪」
「それは……申し訳ないですけど、レイ様ご自身で言ってください!」
「あらそぅ♪ 分かったわーーーー言っておくから♪」
するとジークがビーチベッドからガバッと上半身を起こして、レイに両腕を広げた。
「おいおいレイ、そりゃねぇだろ。お前さん、全部分かってるくせによ」
「あら、アナタこそあの子が気になってるじゃない♪ 私といるのに」
「いやいや、んな訳ねーだろ。俺はお前さんしか見てねーよ」
「フフッ♪ ならいいけど」
そんな中、ルミは悲しくてその場に足を止めてうつむいた。
分かってはいるのだ。
メティアもレイも、みんないい人だと。
それに、ノーティスの事になると、すぐに妬いてしまう自分が本当にイヤだった。
でも、やっぱり気持ちはどうにもならず、腹が立ってしまう。
───ノーティス様のバカっ! 私だって、ノーティス様の事大好きなのに……!
ルミがギュッと瞳を閉じて涙を零すと、レイが後ろからルミの肩にそっと片手を乗せてきた。
「ルミ、ごめんなさい。ワザとイジワル言っちゃったわ」
「レイ様……」
スッと振り返ったルミを、レイは凛とした美しい瞳で見つめる。
「ルミ、アナタは聡明で可愛い女よ。でも、形に囚われすぎちゃダメ。恋愛は自由よ♪」
「でも……」
「好きならちゃんと想いを伝えなきゃ。特にあの人、そういうの超が付く鈍感なんだから♪」
そう言われ軽くうつむくルミに、レイは軽くフフン♪ と、した態度で見下ろした。
全身から、セクシーで挑戦的な色気が立ち昇る。
「まっ、アナタがそうやってグズグズしてるなら、私が取っちゃうわよ♪」
「レイ様っ!」
「フフッ♪ でも安心なさい。ノーティスが……」
レイがそこまで告げた時、急に浜辺がざわつき始めた。
ザワつく浜辺で一体何が……
シリアスなシーンに進む前に、ちょっとコミカルな展開が続きます。
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