cys:83 心を斬る二人の剣
ガキインッ! ガキインッ! ガキインッ!
「ハァァァァッ!」
「オォォォォッ!」
ガキインッ!!
ノーティスとシドが激しい鍔迫り合いを始めた瞬間、ブワッ!! と、辺り一体に衝撃波が広がった。
それにより周囲の木々が大きくしなると同時に、兵士達にも突風が吹き当たる。
白輝の煌めきを全身に纏いしノーティスと、高貴な銀色の闘気を全身から立ち昇らせるシドが、互いに激しくぶつかり睨み合っているからだ。
周りの誰も、この二人の戦いには入っていけない。
そしてシドは剣を大きくバチンッ! と、弾かせ間合いを取ると必殺剣の構えを取り、銀色の闘気をより強く立ち昇らせてゆく。
「消え失せろ! 偽りの光の勇者よ!」
「くっ……俺の光は偽りなんかじゃない!」
「ほざけ! 喰らうがいい。ティターン・二之牙『封神滅牙』!!」
シドが突き放った剣から放たれた銀色の闘気。
それが激しく鋭い渦を巻きながら、ノーティスに襲い掛かる。
しかし、ノーティスは精悍な瞳でそれ見据え、斜めに構えた剣に白輝の煌めきを込めていく。
「シド……師匠の光が俺の力だ! 『バーン・コミュテクス・フォース』!!』」
ノーティスの振り下ろした剣から、彗星のような凄まじい光がシドに向かい放たれた。
その輝きは決してシドの技に負けていない。
そして、シドの封神滅牙とノーティスのバーン・コミュテクス・フォースは、ドガァァァン!!! と、激しく衝突すると、そのまま中間で燻り始めた。
「ううっ……!」
「ぐっ……!」
互いに顔をしかめ、技に力を込めるノーティスとシド。
二人は光に照らされながら睨み合っている。
「シド……!」
「ノーティス……!」
そして互角の力は限界を超えると、その場でズカァァァン!! と、大きく弾け飛んだ。
「くっ……これで相打ちとは……なんて強さだ!」
「フンッ……ノーティス、貴様は何の為に戦っている」
「何のために? そんなの、このホラムを……師匠の想いが込められた、このホラムを守る為に決まってるだろ!」
シドはそれを聞き届けると、剣を構えたまま一瞬スッと瞳を閉じた。
「クククッ……ハハハッ……ハーッハッハッハッ!」
「何がオカシイ?!」
訝しむ顔を向けたノーティス。
シドが、なぜ突然笑い始めたのか分からないから。
そんなノーティスをシドはキッと睨みつけた。
「ふざけるなっ!」
「シド……」
「守る? 守るだと? 貴様は……貴様らは、この俺達からどれだけのモノを奪ったと思っている!!」
「ど、どういう事だシド!」
困惑しながら怒鳴りつけたノーティスを、シドは無言のままジッと見つめた。
まるで、ノーティスの心の奥を探るように。
そして、フッとため息を漏らすとノーティスを再び睨みつけた。
「やはり、偽りの光と歴史にまみれた国の者には、何も見えていないようだな」
「偽りの光と歴史……?」
「……どうせ分かりはしないだろうから、質問を変えてやる。貴様の師はイデア・アルカナートだな」
「そうだ。師匠は、無色のクリスタルとして蔑まれてきた俺を救ってくれたんだ」
「フッ、ならば知っているか? そのアルカナートが、俺の父さんを殺した事を!」
「……!」
ノーティスは一瞬目を見開くと、静かにシドを見つめた。
少しだけ心当たりがあったからだ。
「シド、まさか……キミのお父さんは、かつてトゥーラ・レヴォルト最強の勇者といわれた、アルベルト・サガか?!」
「そうだ……しかし、貴様がなぜそれを知っている」
謎めきながら憤るシド。
なぜそれが今ノーティスに分かったのかが不可解だからだ。
そんなシドを、ノーティスは真っ直ぐ見据えている。
「昔、師匠から一度だけ聞いた事がある。トゥーラ・レヴォルトに、誰よりも誇り高く強い勇者がいた事を」
そう告げられたシドは、剣の柄をギュッと握りしめた。
凄く胸が苛立つからだ。
自分の戦いぶりから偉大な父親を感じさせたのは誇りに思うが、その反面、ノーティスがそれを感じた事が許せなかった。
剣が怒りと共に震えていく。
「よくもぬけぬけと……そんな父さんを、貴様の師アルカナートは惨殺したんだぞ!」
その叫びを受けたノーティスは、片手を斜め下に広げて哀しい瞳をシドに向ける。
「惨殺っ?!」
「そうだ!」
「違う! そんなの何かの間違いだ! 師匠は正々堂々と戦った!」
「フンッ、正々堂々? 幼い頃、お前達スマート・ミレニアム軍の罠にかかった俺を救う為に瀕死になった男を……不意打ちする事がか!!」
シドは怒りに涙を滲ませながら、ノーティスに怒声を浴びせてきた。
だが、その怒りと内容に驚愕しながらも、ノーティスは怯まない。
「違うシド! 師匠はそんな事は絶対しない!」
「デタラメをぬかすなっ!」
「本当なんだ! 確かに師匠は無愛想だし、超絶自信家だし、修行の途中に寝ると悪夢を見せるし、それに、酒豪の上に女泣かせだし、後……」
ノーティスがそこまでズラズラ言うと、シドは呆れた顔でため息をついた。
「おい、ヤツはお前の師匠だろ。いつまで続くんだ」
「あっ、すまん。ついな」
ノーティスは軽く失笑を零すと、再び真剣な眼差しでシドを見つめる。
「けど、師匠は絶対に不意打ちなんてしない! 傷ついている相手なら尚の事だ!」
「嘘だ……そんな事……」
「嘘じゃないんだシド! 俺をモンスターから救ってくれた時も、ドラゴンを相手にした時も、いつだって師匠は真正面から向かい合ってきた!」
「黙れ……」
怒りに体を震わすシド。
悔しいが感じてしまうから。
ノーティスが決して嘘を言っていない事が。
理屈ではなく、魂によって。
───そんなバカな! ありえない……ありえないんだ、そんな事!
シドは魂を締めつけられるような痛みと共に、ノーティスをギリッと睨んだ。
決して認める訳にはいかないから。
そんなシドを、ノーティスは哀しく見つめている。
「シド……」
痛い程伝わってきたからだ。
シドが何を想いここまで戦い、強くなってきたのかが。
またこれまでシドが、どれだけその想いに苦しんできたのかという事も。
剣とは違い、音を立てずにぶつかり合うノーティスの真実とシドの真実。
もちろん、ノーティスも哀しみを感じたが、それ以上にシドの方が哀しかった。
ノーティスの言葉とその眼差しに、何一つ嘘や誇張を感じられなかったから。
───だとしたら……だとしたら、俺は今まで何の為に……!
この光景を、ジークはメティアに手当てをされながら見つめている。
「ったく……さっきバチバチやってた時よりも、お互いよっぽど辛そうだぜ……クソったれが」
また、レイとメティアも哀しい瞳を向けていた。
「美しいけど、胸が苦しいわ……」
「ボクの回復魔法でも、あの傷は治せないよ……」
メティアがそう零した時、シドはそっと瞳を閉じた。
───父さん……アイツが言った事は本当なの? アルカナートは、父さんと正々堂々と戦ったの?
シドの問いかけに、心の中でサガは微笑んだ。
けれどその直後、桜が一瞬にして枯れ果ててキースの最後の顔が思い浮かぶ。
───キース……!
そして、浮かんできた最愛の彼女の姿。
───シド、必ず無事に帰ってきてね……!
その全てを受け止めたシドは、スッと目を開き澄んだ瞳でノーティスを見つめた。
「ノーティス、貴様の゙真実と俺の真実。どちらが本当なのか、この技で見極める……!」
シドのその言葉に、ノーティスも澄んだ瞳で真っ向から答える。
「シド……キミの想いに勇者としてだけではなく、師匠の弟子として……真っ向から受けさせてもらう!」
シドとノーティスは心からの言葉と想いを交わすと、互いに剣を構え柄をギュッと握りしめた。
そして、二人から絶大なエネルギーが立ち昇ってゆく。
白輝のオーラと銀色の闘気が互いを照らす。
両者は互角だ。
その凄まじさに皆驚愕しているが、シドに向かい合うノーティスだけは感じていた。
シドから放たれている圧倒的オーラに、微かに混じる儚さを……
シドは敵ではあるが、悪ではない。むしろ……
次話、決着。




