cys:77 誠の皇帝
「あーーーーっ、喰った喰った♪」
ニカッと笑うジーク。
ガッツリ食べてご満悦だ。
そんなジークを、レイは微笑ましそうに見つめている。
「ジーク、アナタ本当によく食べるわね♪」
「まっ、ちゃんと食っとかなきゃな♪ でもよ……」
チラッとノーティスを見たジーク。
それにつられてレイも見ると、ジークは呆れたようにため息を吐いた。
「ノーティスの食いっぷりには敵わねぇよ」
「フフッ♪ そうね」
「ん?」
ノーティスはみんなとはケタ違いだ。
もう、何皿も積み上げた挙句、未だ食べ続けている。
そんな中、二人からの視線に気づき、ノーティスは食べる手を一旦止めた。
「いや、普通だろ」
「いやいや、普通じゃねーよ。その細い体にどんだけ入んだ」
「美味いもんは幾らでも食えるだろ♪」
「いや、そーゆー問題じゃなくてだな……」
「ジークだって酒は樽ごと飲むだろ。アレと一緒だよ」
ノーティスはそう言って、またモグモグと食べ始めた。
ビュッフェ形式だが、ノーティス一人で全部食べてしまいそうな勢いだ。
その姿を見て、レイは羨ましそうにため息をついた。
「ハァッ、いいわよね二人とも。幾ら食べても太らないし、酔い潰れないし」
「レイも食べればいいじゃん」
「女の子はそういかないのっ! 太りたくないから」
「そっか、大変だな。でもメティアは、甘いもんメッチャ食ってるけど……」
その瞬間、メティアはドキッと顔を火照らしノーティスの方へ振り向いた。
可愛い小動物みたいに、口にお菓子をいっぱい詰め込んでいる。
「うっ、うぐっ……だ、だって、甘い物美味しいんだもん……!」
「いや、いいんじゃないか。人のを取らなきゃ」
「もうっノーティス、それは言わないでよ〜〜」
「ハハハッ♪ あっ、ほっぺに生クリームついてるぞ」
「あわわわわっ」
「メティアは本当に可愛いな♪」
そう言ってまたひたすらモグモグ食べ続けるノーティスに、ロウがハーブティーを飲みながらスッと流し目を向けてきた。
いっぱい食べるノーティスと違い、ロウはまるでカフェにでも来てるような雰囲気だ。
また、その慧眼な瞳には精悍な光が宿っている。
「で、ノーティス。そろそろじゃないのか」
静かにそう問いかけられたノーティスは、ミルクティーを一口飲むとソーサーにゆっくり置いた。
◆◆◆
その頃アッシュ達は、シドの゙率いるトゥーラ・レヴォルト軍を相手に一方的に押されていた。
「くっ……分かっていたけど、コイツらやっぱり半端じゃないネ」
「チッ、クソったれ……! あんなデカブツ、どーやって倒したらいいんだよっ!」
「ああもうっ、早すぎてレーザー全く当たらないんだけど! デカいのには当たってもビクともしないし!」
「アリーシア! 救護を頼むっ!」
「ダメですグローリー。負傷者の数が多すぎて、追いつきませんっ……!」
「なんだと! うぅっ、まさかこれ程とは……」
指揮官のグローリーはそう零し、額からツーっと冷や汗を流し顔をしかめている。
そんな中、巨人が更に二体召喚され巨大な投石器が運び込まれてきた。
しかも、それだけではない。
シドの側には幻獣達も脇に付き添っているし、空にはこの世の者とは思えない翼竜のような存在が羽ばたいているのだ。
グローリー達からみれば、それはまさに地獄絵図。
───これだけの相手、一体どうしたらいいのだ?! 作戦云々ではく、戦力が違いすぎる。
また、その中でも何よりも強いのはシドだ。
シドの放つ剣の一振りで、一度に大量の兵士が薙ぎ倒されていく。
その地獄のような光景を、玉座のディスプレイから見つめるカミュは顔をしかめ、ギリッと歯を食いしばった。
───おのれっ……! このままでは、我がホラムは今日で消滅だ……!
カミュはそれを全身にヒシヒシと感じている。
そして、ディスプレイで王宮内を見渡すと顔を玉座からガタッと立ち上がり、そのまま皇帝の間からズカズカと出て行った。
◆◆◆
アッシュ達が苦戦しカミュが焦りに身を焦がしている中、ノーティスはソファーに座り背を預けたままゆったりしている。
くわっぁっ……と、アクビをして、まるでリゾート地にでも来てるような雰囲気だ。
そんなノーティスを、ロウは静かに見下ろした。
「ノーティス。そろそろじゃないか?」
「ん? まぁ、確かにもうそろそろかな~~~」
眠そうに目を擦ったノーティスに、レイは少し不安そうな顔を向けた。
アッシュ達の事をさっきは確かに見捨ててきたし、ムカついたのも事実。
けれど、もう流石にやりすぎなんじゃないかと感じているからだ。
「ノーティス、アナタ本当にこうしてていいの?」
「逆にダメな理由があるのか?」
ノーティスは、ソファーに深々と座り両手を後ろに組んだまま答えた。
レイが言わんとしてる事は分かっているが、まるで態度を変える気はない素振りだ。
そんなノーティスに、ジークも怪訝そうな顔を向けてきた。
「ノーティス。お前さん、ちょっと冷た過ぎやしないか。確かに、アイツらが気に食わないのはわかるけどよ……」
だが、ノーティスの表情は変わらない。
「別に、そんなんじゃないさ」
「いや、明らかにそーだろ。アイツらも今頃苦戦して、俺等を追い返した事後悔してるに違ぇねぇ。だからよ、もう充分じゃねぇか?」
ジークはそう言ってノーティスに両手を広げ、訴えかけるような眼差しを向けてきた。
けれと、ノーティスは寂しげな面持ちを浮かべ、静かに零す。
「足りないさ……」
その言葉はアッシュ達に対する制裁の意味ではなく、もっと別の意味があった。
それをノーティスが説明しようとした時、レイがキッと睨んできた。
「ノーティス、確かに私のせいよ。でも……こんなの美しくない! 例え相手が間違ってても、私は正しく美しさを貫くわ!」
レイのその言葉にジークも続く。
「そうだぜノーティス。それに、この国は先生の想いがこもってるんだ! お前さんだって、同じ気持ちだろ?!」
ジークもレイと一緒に再び訴えると、ノーティスは手を前に組んで軽くうつむいた。
二人にちゃんと説明しなきゃいけない時期だと思ったからだ。
「レイ、キミの気持ちは正しく美しい。それに、ジーク。俺も同じ気持ちだ。けど、だからこそ待ってほしい。今こうしてるのは……」
「もういいっ! 私一人でも彼らを助けにいくわ!」
「ノーティス、俺も分からねぇよ……!」
二人がノーティスの言葉を最後まで聞かずに出て行こうとした時、メティアが二人に向かって身を乗り出した。
「レイっ! ジークっ!」
「なによ……」
「メティア、お前もノーティスと同じかい?」
二人とも、メティアの事を顔をしかめながら見つめている。
そんな二人の事をメティアは悲しく見上げた。
「待ってよ二人共。気持ちは分かるけど、今度はノーティスを信じて! お願いだから、まずは最後まで話を聞いてよ……」
涙を滲ませたメティア。
その瞳に見つめられ、レイとジークがどうしていいか分からなくなった時、ノーティス達の前にザッ! と、現れた。
皇帝イフリート・カミュが!
そして、カミュはノーティスの前にドカドカと近寄ると、怒りに満ちた眼差しで見下ろした。
「キサマ……こんな所で何をしている!!」
怒りと威厳に満ちた声がその場に響いたが、ノーティスはソファーから起き上がりもせず、むしろ再び両手を後ろに組んでふんぞり返った。
「見て分からないのか? 食後の休憩だよ」
「よくもぬけぬけと……キサマは今、外が……我が国がどうなっているのか分かっているのか!」
「知ってるよ。凄いヤツが攻め込んで来てるよな」
「だったらなぜ動かぬ! キサマはそれでも勇者か!」
カミュは怒鳴りつけてきたが、ノーティスは全く臆する事なく静かに見返す。
「勇者だよ。アナタに戦力外通知をされ契約を解除された、王宮魔道士達のリーダーだ」
「キサマ……だったら今すぐ命ずる。奴らを倒してこい!」
「フッ、それは聞けないな」
軽い笑みを向けてきたノーティスに、カミュは怒りに顔を歪ませた。
「何だと……キサマ! 皇帝の俺の命令は絶対だぞ! 分をわきまえろっ!!」
カミュからは、激しい怒りのオーラが立ち昇っている。
今にもノーティスの事を吊し上げそうな程に。
そんな中、ノーティスはソファーからスッと立ち上がりカミュを見据えた。
ノーティスとカミュの眼差しが、静かに熱くバチバチバチッ……! と火花を散らす。
「カミュ……アナタは勘違いをしているようだ」
「勘違いだと?」
「あぁ、そうだ。俺はアナタに戦力外通知をされ、その時点で仕事は終わった。だから、俺は今皆と旅行を楽しんでるのさ」
「……キサマ、何が言いたい」
そう問いかけきたカミュを見据えながら、ノーティスはニヤリと笑みを浮かべた。
全てを見透かすような、不敵な笑みを。
それを見たレイは、一瞬片手で目を擦った。
───ア、アルカナート?
レイが一瞬見間違えてしまうような笑みを浮かべたまま、ノーティスはカミュを見据えている。
「分かってんだろ。仕事が終了した以上、俺の従うべきはカミュ、アナタじゃない。我がスマート・ミレニアムの教皇だ」
「ぐっ……」
「その教皇から、契約後以降の指示は出ていない。だから、アナタの命令は聞けない」
「お、おのれキサマ……」
「ただカミュ、安心しろ。俺にはこの件で、教皇からの代理権を授与されてる」
「なっ、代理権だと?! まさかキサマ……」
怒りに震えるカミュ。
それに臆する事無く、ノーティスは真っすぐ見据えたままだ。
「命令は聞けないが、頼みなら受けてやってもいい」
「……この俺様が、キサマに頼むだと」
「あぁ、もちろん無理強いはしないさ。ただ、早くしないと頼む事すら出来なくなるぞ」
その言葉に戦慄したカミュにノーティスは近寄り、耳元で静かに囁く。
これは、ノーティスにとっても賭けであり、本当は早く皆を助けに行きたいのだ。
さっきは確かに怒っていたし、レイ達に二度と手を出させないようにキツい態度を取ったのは事実。
でも、本当に見捨てるような事はしたくない。
けれど、カミュをこのままにしておいてはダメなのだ。
いつまた、同じような事をされるか分からないから。
「カミュ、分かっているだろ。国が……民が失くなれば、お前はもう皇帝ですらないんだ」
「うっ……ぐうっ……!」
「どうするんだカミュ……今すぐ決めろ! プライドの為に全てを失うか、それを捨てて国を守るかを!!」
ノーティスがそう叫んだ時、カミュの脳裏に幼き頃の記憶が浮かんだ。
『父さん、何で下々の者にあんな優しい顔を見せるのですか?』
『……カミュよ、皇帝に必要な物は何だと思う?』
『そんなん決まってますよ。権力と民から畏怖される事です』
『ふむ、確かにそれも大事だ。けれど、一番大事な物はそれではない』
『えっ?』
『カミュ、お前は賢い。政治の才能もあるだろう。ただ、大事なのはそれを誰の、何の為に使うかだ』
『誰の、何の為に……?』
それを思い出したカミュは愕然とした表情を浮かべ、ガクッと片膝を折るとノーティスにひれ伏した。
「国を……我がホラムの民を、守ってくれ。頼む……!」
その姿からはつい先程までの傲慢な雰囲気ではなく、民を想う気持ちが溢れている。
それ目の当たりにしたノーティスは、すぐさま片膝を折りカミュを澄んだ瞳で見つめた。
「カミュ、数々のご無礼お許しください。プライドよりも民の命を守る決断をしたアナタは、誠の皇帝です!」
「ノーティス……!」
カミュがハッと顔を上げた瞬間、ノーティスはサッと立ち上がり皆にバッと片腕を振り向けた。
全身から、精悍なオーラが立ち昇っている。
「ロウ、レイ、ジーク、メティア。偉大な皇帝カミュ様からの依頼、俺達が必ず成し遂げる! そして、この国をトゥーラ・レヴォルトから守るんだ!」
その号令に皆奮い立ち、凛とした瞳を輝かせた。
これから戦う為の気合を、充分過ぎる程感じさせる表情だ。
「そうだな。この国の素晴らしい技術、ヤツらに潰される訳にはいかなしな」
「フフッ♪ ノーティス、美しいわ。アナタもカミュも」
「よっしゃ、いっちょやってやるぜ!」
「ボクも、全力でみんなとこの国を守るよ!」
ノーティスはそんな皆を見つめながら微笑むと、クルッと背を向け背中のマントをバサッと靡かせた。
「よし、行くぞっ!!」
皇帝に原点回帰してもらう事が、ノーティスの真意……!
次話は戦いの中でアッシュ達が改心します。
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