cys:75 意思を決める者
「えっ?!」
レイは一瞬、自分の視界がおかしくなったのかと錯覚してしまった。
目の前で下卑た笑みを浮かべたアッシュ達が、一瞬にして膝からドッと崩れ落ちたからだ。
───急に、何が……
けれど、それを起こしたのが誰なのかは、すぐに分かった。
背中に、圧倒的オーラが伝わってきたからだ。
それは振り返るまでもなく、ノーティスのオーラ。
「レイ、大丈夫か?」
けれど、レイは振り返らなかった。
悔しくて涙を零す顔を見られたくなかったから。
───自分から行ったくせに、なんで私泣いてんのよ……
矛盾した気持ちに苛まれるレイ。
そんなレイのその背中を見つめたまま、ノーティスは静かに微笑んだ。
「間に合ってよかった」
「よくない……よくないわ!」
レイはノーティスに顔向け出来なかった。
さっきノーティスの気持ちを分からず責めてしまったし、ノーティスに最も見られたくない姿を見られたから。
───私は一体なんで……
レイは激しい後悔に背中を悲しく震わせている。
そんなレイの肩に、ノーティスは背中から片手をそっと乗せた。
「レイ……」
「……なによ」
「キミはより美しくなった。出会った時よりもずっと」
これは慰めではなく、ノーティスの本心だ。
自信に満ち溢れているレイも素敵だと思っているが、人の為に動く姿はまた別格の美しさを感じさせるから。
「俺と一緒にいてくれて、ありがとう」
「ノーティス、私……ごめんなさい」
「いいんだ。早めに確証が持てなかった俺のせいだ。レイは何も悪くない」
ノーティスの優しい言葉を受たレイは、背中を震わせて涙を零す。
むしろ、罵倒された方が楽だ。
自分が悪いのに優しくされると、より罪の重さを感じてしまうから。
けれどそんな中、ジークがズカズカ近寄ってきてレイの背中に声をぶつける。
「レイ! このバカヤロウ! こっち向きやがれ!」
その怒声を受けたレイは振り向かないが、むしろノーティスがジークの言葉に振り向いてしまった。
「おぃジーク、何言ってるんだ?!」
「いいんだよノーティス。レイはな、あのインチキ占い師みてぇなヤツの話を、真に受けてるだけなんだからよ」
「イ、インチキ占い師?」
ノーティスが驚きながらキョトンとした顔をすると、ジークはしたり顔で腕を組んだ。
「そーよ、レイはプライドが高くて気もつえーのに、ああいうのにはコロッといっちまうんだよ」
「そ、そーなのか?」
「おうよ。いや……でも、もしかしたら俺の事好きなのかもな」
「どういう事だ? ジーク」
ちょっと目を丸くしたノーティスに、ジークは得意げに告げていく。
「まぁ女ってのはよ、好きな男に顔見られんのが恥ずかしいもんだろ」
「えっ? 恥ずかしいって、裸を見られる訳でもないのにか? 顔はみんないつも出してるだろ。よく分からないな……」
女心れ〜点のノーティスは、軽く顎に手をやり真剣に考え始めた。
「顔を見られるのが恥ずかしい……うん、それなら……いや、あぁ、そういう事なら……」
ノーティスは、ブツブツ独り言を言いながら考えている。
そして、一応納得したような顔を浮かべジークを見た。
「もしそうなら、自分の職場に好きな人がいたら仮面を着けなきゃいけないな。確認しないと」
その解答に、ジークは唖然としている。
「……ノーティス、お前さん本気で言ってるのか?」
「あぁ、もちろんだ。今の話を論理的に考えればそうなるだろ。何か変か?」
大真面目な顔をしてそう答えたノーティスに向かい、ジークはマジかよという顔をして、片手を額に当てて顔を上げた。
「ノーティス、お前さんの頭の回転の速さと洞察力、なんで女心には全て無効化されるんだ? 特殊スキルか何かかい?」
「おいジーク、そんなルミみたいな事言わないでくれ」
「カッ、そりゃあの嬢ちゃんも大変だな」
ジークは呆れた顔でニヤッと笑うと、レイの事に話を戻す。
「てな訳でノーティス、レイは俺の事好きなんだよ。だから顔を見られたくねーんだ」
「そ、そんなのか」
ノーティスが戸惑った顔を浮かべる側で、ジークはニヤニヤたままレイの顔を覗き込もうとした。
「ん? そうだろレイ。恥ずかしくて、俺の顔見れねぇんだ……」
そこまで言った時、パンッ! と、いう乾いた音と共にジークの頬は張り倒された。
レイの強烈なビンタによって。
「バッッッッカじゃないのっ! 濃い顔近づけないでよ。美しくないわねっ!」
「いっーーーてぇっ! なにすんだよレイ!」
「当たり前でしょジーク! アナタが勘違いしてるからよ!」
「あん? 勘違いだぁ?」
顔をしかめたジークに、レイは勝ち誇ったようなフフンとして態度で胸を張り、綺麗な髪を片手でサラッと靡かせた。
「あのねジーク、私がいつ、アナタの事を好きだなんて言った?」
「いや、そりゃあよ、理由はねぇけど何つーか……」
「はっ? 何の理由も無しにそう思ってるって、ありえないんだけど」
間に挟まれしろもとどろのノーティスは、レイとジークの事を交互にキョロキョロ見つめている。
「あ、ありえないってなんだよ! あるだろ、そういう雰囲気みてぇなもんがよ」
「ないから! 勝手に決めないで! 私があると言えばあるし、無いと言えばないのっ!」
レイからキツくそう言われたジークは、思わず顔をしかめた。
これ以上言っても、絶対勝てないからだ。
「ったく、相変わらず姫じゃなくて女王だな」
「なによ、可愛くなくて悪かったわね!」
「いや、可愛くねぇなんて言ってねぇだろ」
「一緒よ! フンっ!」
レイはそう言い放ちジークにプイっと横顔を向けると、サロメの事を冷酷な瞳でギロッと見下ろした。
その瞳は怒りに燃えている。
「全部アンタのせいよ。このインチキ占い師!」
「くっ……なによ、アンタなんて……」
サロメがそこまで震えた声で言うと、レイはハイヒールでカンッ! と、サロメの顔スレスレの所を踏みつけた。
「ヒッ!」
恐怖に顔を引きつらせたサロメ。
レイがその瞳をジッと見つめる中、サロメは恐怖にブルブルと震えている。
「な、なに、なんなの……」
そんなサロメを見下ろしながら、レイはニヤッと軽く微笑んだ。
レイの瞳に宿る強く美しい華美な光が、キラリと輝く。
「散々好き勝手言ってくれたけど、私の気持ちは私が決めるの! アンタなんかに決めさせないわ♪」
そう言い放つと、レイは額の魔力クリスタルをパープルブルーに輝かせていった。
その輝きが周囲を強く大きく照らす。
「私の美しさを汚そうとした罰として、アナタに悪夢を見せてあげる♪ 喰らいなさい……」
そして両手を天に掲げ、レイの十八番の必殺技、エファルディス・コーディネーションのポーズを取った。
魔力クリスタルから放たれる光が、これから途轍もない技が放たれる事を、嫌でもサロメに感じさせる。
「ヒィッ!」
サロメは心からの恐怖に悲鳴を上げた。
心を読む装置を使っていなくても、レイが何を思っているかはハッキリ伝わってきたからだ。
「ご、ごめんなさいっ! 許して! わ、私……」
その時レイは技を放つのを止めて、ノーティスの方にサッと振り向いた。
サロメが謝ったからではない。
全身に感じてしまったからだ。
迫りくる、途轍もなく強大な闘気を。
「ノーティス、これは……」
「あぁ、さすがレイだ。気づいたか」
気高さを取り戻したレイ。ただそんな中、遂にシド達が……
次話はノーティスがアッシュ達に、まとめてざまぁを炸裂させます。




