cys:72 シドと彼女の桜のネックレス
ホラムの王宮でノーティスが皆を連れ、カミュの元から去った頃……
トゥーラ・レヴォルト領内ではシドがこの国の正式な勇者として、大勢の仲間達と共にホラムへの遠征に旅立とうとしていた。
シドを始め、皆凛とした瞳に高い士気を持っている。
今回の遠征は特に大切なモノになるからだ。
そんな軍勢の側で、シドの事を潤んだ瞳で見つめる女がいた。
その女にシドは優しく微笑む。
「じゃあ、行ってくるよ」
シドが大勢の仲間達の前でそう告げると、シドの事を想う彼女はシドの手をギュッと握り涙を滲ませた瞳を向けた。
「シド、お願いだから無事に帰ってきてね。私は……」
胸が苦しくて言葉が出て来ない彼女を、シドは包み込むような凛とした瞳で見つめる。
「大丈夫。必ず帰ってくるから」
「シド……」
「帰ったら一緒に出掛けよう。桜もいつかキミと一緒に見たいけど、それまでも一緒に行きたい所は山ほどあるから」
シドがそう告げ彼女の手を離し旅立とうとすると、彼女は寂しそうにうつむいた。
けれど、ギュッと拳を握りバッと顔を上げシドにタタッと駆け寄る。
「待って!」
「ん? どうした」
「ごめんなさいシド。やっぱりこれだけは渡したいの……!」
彼女はそう告げるとシドの後ろにそっと周り、背中から首にそっと手を回してネックレスを付けた。
それを手にそっと乗せたシドは、思わず目を大きく開く。
「これは……」
「……貴方の好きな桜っていう花を想像して作ってみたの。きっとこんなんじゃないと思うけど、早く貴方と一緒に見たくて……」
彼女が想像しながら作った桜の形は、実際の桜とは形が違った。
それをシドは分かっている。
シドは以前、桜を見た事があるからだ。
けれど、彼女の想いがこもったそれからは、シドの眼前にまるで桜が浮かんでくるように感じる。
何よりシドは、彼女のその気持ちがたまらなく嬉しい。
なので、彼女に向かい大きな笑みを向けた。
「凄いじゃないか! これだよ。まるで見てきたようにそっくりだし、それに……綺麗だ」
「シド……! ありがとう」
「礼を言うのはこっちさ」
シドがそう言ってほほ笑むと、彼女は同じネックレスをもう一つシドに差し出した。
手作りなので多少違うが、シドが今つけてもらったのとほぼ同じだ。
「これを……私に着けて欲しいの」
彼女は恥ずかしそうにそう言ってシドに背中を向けると、漆黒の美しい髪を両手でスッと持ち上げた。
元々こういう事には奥手な彼女にとって、これは凄く勇気がいる事だ。
けれど、どうしても今シドに着けてもらいたかったのだ。
そしてシドは、彼女の美しさと儚く漂ってくる色気にドキドキしながら、彼女の背中から首にそっとネックレスを付けてゆく。
そして、彼女がクルッとこっちを振り向いた瞬間シドは、ハッ! と、錯覚してしまった。
まるで彼女が、桜の舞い散る木の下にいるように見えたからだ。
「……!」
「どうしたのシド?」
不思議そうな顔をして尋ねてきた彼女。
シドはそんな彼女に見とれてから感嘆のため息をつくと、頬を少し赤くしたまま彼女を見つめた。
「いや……今キミが、桜の中にいるように見えた」
「シド……! 私もよ。貴方が桜の中にいるように見えたわ」
彼女が嬉しそうにそう告げた瞬間、シドは大きく両腕を開き彼女の事をギュッと抱きしめた。
周りで大勢の仲間達が見つめていたが関係ない。
シドは、彼女の事が愛おしくてたまらなかったのだ。
「俺は、必ず帰ってくる……!」
「うん、待ってるから……」
彼女と愛を誓い合ったシドは仲間達から祝福される中、皆と一緒にホラムへ向かって行った。
大切な想いをその胸に抱えたまま……
そんなシドの姿が見えなくなってからも、彼女はその場に立ち尽くしたままずっと見つめていた。
シドの無事を願い、誓いを胸に刻み込んで。
───何度も言おうとして言えなかったけど、貴方が帰ってきたら必ず伝えるわ。シド……貴方を愛してる。
ノーティスとシドの運命が交叉するまで、後少し……
次話は仲間達が荒れてしまいます。




