cys:70 クロエ再び
「わーいっ、ボクが一番乗りっ♪」
メティアはそう言ってビョンっと魔法陣から飛び出すと、ノーティス達に可愛く笑顔を向けた。
それを優しく見つめるノーティス達。
「よかったな、メティア」
「うん♪ ノーティス。どんな街なのか楽しみーーっ♪」
小躍りするメティアの側で、ノーティスはふと気になった。
「ロウ、そういえばここにも王様はいるのか?」
「あぁ、教皇ではないが皇帝はいる」
「じゃあ、挨拶に行かないとな」
「あぁ、僕もそう思っていた所だ」
ロウがそう答えると、横からレイがスッと入ってきた。
「そうね♪ それに、どんな人なのか気になるわ。ロウは会った事あるの?」
「いや、僕は昔先生に少しお供させてもらっただけで、直接会った事はないんだ」
「そう。どんな人なのかしら……」
レイが少し不安そうに声を漏らすと、ジークが気合の入った声を上げる。
「まぁ、どんなお人か知らねぇけど、一丁バシッと挨拶しにいこーぜ!」
「ハァッ。アナタはホント、単純ね」
「んだよレイ」
「でもまぁ、今はアナタの単純さに救われたわ♪」
そう言ってジークに微笑むと、レイはノーティスの背中を両手で押した。
「行くわよノーティス♪ アナタは勇者なんだから先頭歩いて」
レイは少し切なく微笑んでいる。
そんな中、ノーティスはちょっと慌てながらレイの方へ振り向いた。
「ちょっとレイ、分かったから押すなよ」
「じゃあ、ちゃんとして」
そして背中を押しながら、そっと囁く。
(ずっと好きでいさせてよ)
「ん?」
ノーティスはレイの゙声が上手く聞き取れず尋き返したが、レイは頬を赤くしたまま答えない。
なので、再び尋き返す。
「レイ、今何か言った?」
「何でもないわよっ!」
「そ、そっか」
ちょっと困惑したノーティスが部屋から出ると、外にホラムの女兵士が跪いて待機していた。
「うわっ、ビックリした」
「お待ちしておりました♪ 本国の王宮魔道士様」
その姿からは清楚で高貴なオーラが立ち昇っている。
そんな彼女の事をノーティスはジッと見つめた。
「キミは……」
「私はホラムの一等騎士『フランソワ・クロエ』と申します。お久しぶりです♪ エデン・ノーティス様」
ニコッと微笑んだクロエ。
その瞬間、ノーティスは驚いて目を大きく開いた。
「キミは、あのクロエか!」
「はい♪ ギルド検定試験以来ですね」
数年ぶりの再開に見つめ合う二人。
ノーティスとクロエの脳裏に、あの日の事が蘇る。
「クロエ、あの時は本当にありがとう」
「こちらこそ♪ ノーティス様のお陰で助かりました」
「いや、あの時はすまなかった。測定機バラバラにしちゃって……ハハッ」
ノーティスが軽くうつむき片手で頭を掻くと、クロエはニコッと微笑んだ。
「いいんですよ♪ あの後ルミさんからちゃんと連絡頂きましたし、あの日のお陰でこうしていられるんですから」
「ん? それはどういう事?」
ノーティスがそう尋ねると、クロエは綺麗なブロンド色の髪を軽く揺らしながら、スッと立ち上がった。
「私、ノーティス様のお陰でここに来たんです」
「あっ、その前にクロエ、俺に対して様とか堅苦しくなくていいよ」
「でも……」
「確かに、今はホラムの人間として俺達を案内する為にいるんだろうけど、俺が勇者になれたのはキミのお陰でもあるんだから」
そう告げられたクロエは、頬を少し赤くしてノーティスを見つめた。
久々の再開だからというだけではなく、ノーティスへの好意が顔にありありと表れている。
無論ノーティスは気付かないが、それ以外の皆は一瞬でそれを感じ取った。
───フム、あの日ノーティスが壊したのは、測定機だけでは無かったみたいだな。
───まったく、相変わらず無自覚な野郎だぜ。どうしてこうもモテやがんだ。しかも、いい女からばっか……まっ、らしくていいけどよ。
ロウとジークは心でそう呟いて見つめるだけだが、レイとメティアはそうはいかない。
「ねぇアナタ、ノーティスのなんなの?」
「レ、レイ様私は、元ギルド検定試験会場の補助官です。同じ補助官のリリーさんとは仲良くしていましたが……」
「リリーと?」
見を乗り出してきたレイに、ちょっと圧倒されたクロエ。
レイはただでさえ美しい瞳に目力があるのに、それを近づけられると存在感が凄まじいからだ。
「は、はい。思い出していただけましたか……」
少したじろぐクロエを、レイはジッと見つめたまま思い返してゆく。
「あぁ、思い出したわ。アナタが辞めて、リリー少し寂しそうだったし」
「それは失礼しました……」
「けどそうじゃなくて、アナタ、ノーティスと何があったの?」
「えっ?」
再び困惑した顔を浮かべたクロエに、今度はメティアも加わってきた。
「そーそーボクも気になるなーー♪」
軽く目を閉じてそう言ったメティア。
もちろん、レイと違ってそこまで問い詰めたりする気は無い。
メティアはノーティスをどうこうしようとかではなく、ただ純粋に好きなだけだから。
けどこうなった以上、ちょっと知っておきたい気持ちもある。
でも、そこまでは流石に分からないクロエからしたら、自分を責める相手が加わったのと何ら変わりない。
───ど、どうしよう。連絡先交換したとか言ったら、メチャメチャ怒られそうだし……
クロエが軽く顔を引きつらせながら考えていると、ノーティスがレイとメティアの間にサッと入って来た。
「恩人だよ」
「え? 恩人ですって?」
「へぇーー、恩人なんだ?」
少し疑った顔をするレイとメティア。
恩人という雰囲気とは、ちょっと違う気がしたから。
けれどノーティスは、そんな中平然とした顔で話していく。
「うん。ギルド検定試験の時も説明凄く分かりやすかったし、俺が測定機バラバラに斬り刻んじゃったのも、上に何とか掛け合ってくれたんだ」
「ふーん、そうなんだ……」
「お優しいんですね♪」
「いえいえ、アハハ……」
クロエは苦笑いをしながら、あの日の事を思い出す。
ノーティスがバラバラにした測定機を、どうするか試験官に尋ねた時の事を……
『あの、エデン・ノーティス様は、弁償なさると仰ってましたが……』
『Nooooooo! バカモン! 死ぬ気か?!』
『いえ、決してそのような事は……』
『いいかクロエ、騙されるな。奴はサイコパスだ!』
『サ、サイコパスって、そんな……』
『分からんのか! 弁償しろなんて言ってみろ。それは奴に……殺人の許可を与えるのに等しい!』
『そ、そんな。彼は……』
『待ってるんだよ奴は! だから、関わっちゃいかん。測定機も今日中に全額こちら負担で直すのだ!』
『は、はい』
『急げ! 測定機は直せても……命は直せないぃぃぃぃぃぃっ!!』
『……』
───こんな事あったなんて、言える訳ないしな〜〜。
クロエは心でそう呟き、レイとメティアを見つめる。
二人とも完全にではないものの、ある程度は納得してくれたような表情だ。
その事にとりあえず安堵したクロエ。
「まあ、そういう事もありまして、私もノーティス様のように強くなりたく転職したんです」
「そうなの……よく分かったわ♪」
「ボクもーーーっ♪」
「ありがとうございますっ」
心でホッと胸を撫で下ろしたクロエは、このタイミングを逃さずゆっくり歩き出し案内を始めてゆく。
「では皆様、こちらです♪」
そう告げられ歩き始めたノーティス達は、ホラムの城内の造りに少し驚きを感じ、キョロキョロ見渡しながら進んでいた。
ノーティス達の王宮は大理石で荘厳な感じで作られているが、ホラムの壁は大理石ではなく、何か別の素材で作られているからだ。
「わぁっ! 壁が真っ白だね♪」
「変わってるけど、なかなか美しいじゃない♪」
「フム、この素材はまさか……ロンズデーライトか」
ロウがハッとすると、クロエが尊敬の眼差しを向けてきた。
「さすがロウ様、博識でいらっしゃいますね♪」
「いや、それよりこれはどうやって加工してあるのだ? この白さを出すには、何か別の力を加えるしか無いと思うのだが……」
するとクロエは更に驚き、ハッとした笑みを浮かべる。
ロウの聡明さに好意と敬意を抱いたからだ。
───さすが、本国一の天才王宮魔道軍師といった所ね♪
そう思ったクロエは、ロウの質問に答えていく。
「ロウ様♪ この壁に限らず、我がホラムでは素材に魔法ではなく、科学を用い加工製造しております」
「科学か……」
「えぇ。もちろん、クリスタルからのエネルギーは使用していますけど、それを科学的に応用しているんです」
少し得意気に話してくるクロエに、ロウは平然と答える。
「本国でも、通信やクリスタルログ等のインフラに充てている」
「そうですね。ただ、我が国ではそれを軍事的利用にも充てております」
「フム、と、いう事は……」
ロウが興味深そうな表情を浮べた時、ノーティスがクロエにサッと質問を挟んできた。
「クロエ」
「なに? ノーティス」
「いや、ちょっと気になって」
「このお城の事?」
「いや、キミの事さ」
「えっ、わ、私の事っ?」
予想外の質問に慌て、少し顔を赤らめたクロエ。
蒸し返さないでと思うと同時に、やっぱり嬉しいからだ。
「あぁ、何で本国じゃなくてホラムで騎士になったのかと思ってさ」
「あっ、あーーーそーゆー事ね……」
クロエは、予想してたのと全然違ったノーティスの問いかけに軽く残念に思ったが、フッと笑みを浮かべ、扉の方へ腕をサッと伸ばした。
「こちらでございます。それも含め、続きは我が国の皇帝よりお話があるでしょう」
皆にそう告げると、クロエは前を向いたままノーティスの側で囁く。
(アナタの質問の答え、今から分かるわ♪)
(えっ?)
(応援してるから♪)
そう囁かれたノーティスは、皆を後ろに引き連れ皇帝の間へと足を踏み入れた。
が、その瞬間、ノーティス達は圧倒されてしまった。
「こ、これは?」
「想像以上だな」
「本当に変わった美しさね♪」
「なんじゃこりゃ?」
「ピカピカ光ってるーー♪」
ノーティス達が驚嘆の声を漏らすのも無理はない。
スマート・ミレニアム本国とは、まるで違う雰囲気だからだ。
余りにも滑らかな床と壁には光が動く線が幾つも走り、玉座の後ろからは、エメラルドグリーンの大きな光が立ち昇っている。
また、左右の半透明な球体からは、半透明な画像が幾つも映し出されているのだ。
───師匠の家にもああいうのあったけど、他では見た事ないな……
ノーティスがそう思い返す中、その部屋の奥の中央の玉座に座る皇帝は肩肘をついたまま、ノーティス達を軽く睨みつけている。
服装はノーティス達と似ているが、この奇妙な空間になぜかしっくり合っているのが不思議だ。
また、整った顔立ちとは裏腹に、全身からは好戦的かつ高圧的なオーラが溢れている。
いわゆる、暴君的な雰囲気だ。
「フンッ、お前らが本国からの王宮魔道士達か」
皇帝はぶっきらぼうにそう言い放つと、そのままウザったそうに話を続ける。
「俺はこのホラムの皇帝『イフリート・カミュ』だ。わざわざ本国からご苦労」
皇帝だから仕方ないとはいえ、その尊大な態度と物言いに少しイラッとしたノーティス達。
だが、カミュはまるで意に介さずそのまま告げる。
「とは言え、お前らがする事は何も無いんだがな。クックックッ……」
久々のクロエとの再会。ただこの皇帝、何を考えている……
次話はホラムの戦士達が登場します。




