cys:68 不器用な愛し方
「すまないが、この二人処分しといてくれ」
ボロボロで虚ろな表情の男達を、ノーティスは近場の自営団に放り捨てるように預けた。
「エデン・ノーティス様、こ、これは一体……」
自衛団の人達はギョッとした顔を浮かべ、男達を見つめている。
しかし、ノーティス達から軽く事情を聞くと、怒りと蔑みの顔を浮かべ、レイを襲った男達を今度はジロッと見下ろした。
「フンッ、このカスが……!」
「明日の生ゴミで出しときましょう!」
結構ムチャに思えるかもしれないが、これがスマート・ミレニアムにおける犯罪者への対応だ。
クリスタルログを確認すれば何があったか分かるのと、そもそも王宮魔導士には、悪を殲滅する特権が与えられてる為、この場合裁判にもならない。
そいつらの生い立ちがどうこうとか、そんな事はどうでもいい。
悪には罰をという、シンプルな決まりだ。
「ゴミはゴミ箱に。頼んだぞ」
ノーティスはそう告げると、皆と一緒にルミの運転する車に乗り自営団所を後にした。
その帰路につく車の中で、レイはすまなそうに軽くうつむいている。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「いや、もう気にする事はないよレイ。ケジメもつけたし明後日からはホラムだ」
「えぇ……そうねノーティス」
ケリをつけたとはいえ、レイはやはりまだ少し元気が無い。
隣でその様子をチラッと見たジークは、心の中で溜め息を吐いた。
───チッ、こういう時は恨まれてなんぼか……ったく、損な役回りだぜ。
ジークには分かっているのだ。
自分がレイを元気にする為には、ノーティスとは全く違うやり方をするしかない事を。
「あーーーらしくねーな。さっきの勢いはどーーしたんだよ。性格まで変わっちまったか? ん?」
「そんな事ないわ」
軽くムスッとしながら体を固めてるレイを、ジークは横から軽く覗き込んだ。
「いーや、変わった。お前さんはもっとゴーマンでプライドが高く人にズケズケ物言うし、美しいモノ以外は興味ないだろ」
「なによっ……」
レイは怒りで体を小刻みに震わせてゆくが、ジークは言葉を止めずに続けてゆく。
「それにブラコンだし、浪費癖もヒデーし、すーぐ自慢するし調子乗るし、プラス、いつもエロい服ばっか着て男の目をひいてるし、それに……」
ジークがそこまで言った時、レイはとうとう我慢出来ずにブチ切れた。
「あーーーーもうっ、うるさいわねっ! 人が黙って聞いてれば何なのよ!」
「だって、全部本当の事じゃねーか」
まるで悪びれる様子の無いジーク向かい、レイは怒った顔でグイッと身を乗り出した。
「はぁっ?! ジーク、アナタこそガサツで口も悪いし、乱暴な上に酒乱じゃない!」
「な、なんだよ」
「第一ね、昔、ノーティスと戦いたいからって、ルミを誘拐したでしょ!」
「うっ、それはよ……」
思わず顔をしかめたジーク。
レイの事件があったタイミングで、この話をされるのは特にバツが悪い。
けれど、レイは言葉を止める事無く、ジークをキッと強い眼差しで見つめた。
「言い訳しないで! 前から思ってたけど、あんなの犯罪よ犯罪!」
「は、犯罪って……」
「いくら悪意は無かったにしても、王宮魔導士じゃなかったら、とっくにアウトよ! そんなんだからアナタ、女の子からモテないのよっ!」
ズバズバッと、元気に返してきたレイ。
それを見て内心嬉しく思うジークは、ここぞとばかりにさらにヒールに徹する。
レイが元気になるなら、自分がレイから罵倒されるぐらい何て事は無いのだ。
まあ、正確にいえば辛い事は辛いが、耐えられると言った所だ。
「なんだとレイ。お前さん、そりゃ言い過ぎだろ!」
「なによ! やんの?」
「おお、やってやるよ」
「へぇ、やるんだ。女の子に暴力とかサイテーなんだけど! 本当にアナタって美しくないわ」
「くっの……言わしておけば」
「べーーーーっ!」
後部座席から聞こえてくる二人の声を聞きながら、溜め息つくノーティスとニコニコしているルミ。
ルミは分かっているからだ。
ジークがワザと憎まれ役を買って出て、レイを元気にしてあげてるのを。
そして、それをするという事は、少なからずジークがレイを好きだという気持ちがある事も。
───ジーク様、素敵です。レイ様との事応援してますね♪
ルミがニコッとしながらそう思う中、女心れ~点のノーティスは、困った顔をルミに向けてきた。
「なぁルミ。これ、どーすんの? 終わんないんだけど」
「いいじゃないですか♪ 元気が一番です」
「そりゃまぁ、そーだけど……」
そんなこんなをしている内に岐路に差し掛かり、ノーティスは助手席から後ろを振り返った。
「あっ、ここからどうする? レイから送って、その後ジークにするか?」
「私は後でいいわ♪ この人飲み過ぎでフラフラしてるし」
「あぁん? どこがだよ。酔っぱらってんのはレイだろーが。さっさと帰って寝ちまえ」
「なによジーク、せっかく人が譲ってあげてるのに」
「ケッ、いらねーよ」
ジークがそう言って、軽く舌打ちをした時だった。
「ここで下ろしてちょうだい♪」「ここで下ろしてくれ」
二人同時に声を上げ、レイとジークはハッと顔を見合わせた。
「なによ?」
「そっちこそなんでだ?」
「私はあの店でお水を買いたいの」
「チッ、なんだ一緒じゃねーか」
軽くフテったジークの隣で、レイはいつもらしく微笑んだ。
「あら、やっぱり酔ってたんじゃない♪」
「ハハッ。そりゃレイ、お前さんも一緒だろ」
「フフッ♪ まっ、お互い様ね」
───おおっ、いいぞいいぞ♪
そう思ったルミは、タイミング良くサッとジークに告げる。
「ではジーク様。申し訳ございませんが、レイ様を送って行ってもらって宜しいですか」
「あん? なんでだよ嬢ちゃん」
「いえ、ノーティス様もお疲れのようなので、ここからUターンさせて頂くと家まで早いモノで……」
ルミがワザと済まなそうに言うと、隣で聞いてたノーティスが全く空気を読まずに口を挟んでくる。
「いや、俺は別にそんなに疲れては……」
その瞬間、ルミは、余計な事を言うなという雰囲気を全身から溢れさせ、ノーティスを一瞬強く見つめた。
「ノーティス様、お疲れですよね……!」
ノーティスは女心は全く分からない。
けど、ここは反論をしちゃいけない事を悟り、軽く苦笑いをうかべた。
「うっ、うん。そーだな、疲れたなー」
「ですよね」
「疲れた。ホントに疲れたよ……」
「お疲れ様です。ノーティス様♪」
ようやく分かったかという雰囲気を出しながら、ニコッと笑ったルミ。
その様子を後部座席からチラッと見たジークは、胸の前で腕を組んだ。
ルミの気遣いを感じての照れ隠しで。
「あーーーそうかい。それは悪かったな。じゃあ仕方ねぇ。レイ、水買ったら送ってくわ」
「えっ、なんでアナタが?」
謎めいた顔を浮かべたレイに、ジークは腕を解き片手で頭を掻きながら答える。
「だーから、今言ってただろ。ノーティスの家はここからUターンした方が早いんだからよ」
「あ、そう……じゃあ仕方ないわね」
レイは少し残念そうに零すと、ノーティスをチラッと見つめた。
「ノーティス、今日ありがとう♪ またね。後、ルミもありがとう」
「あぁ、じゃあまた明後日な」
「レイ様、ホラムでもご活躍祈念しています」
「フフッ♪ ありがとう。アナタもね」
ルミにそう告げると、レイはジークと共に車から降り、お店で水を買って飲んだ。
酒も美味いが、酔った身体に最終的に一番美味いのは水で間違いない。
「はぁ、やっぱアルコールの分解は水だな。流石にちっと飲み過ぎたわ」
「でもジーク、そんな中今日は助けてくれてありがとう。礼を言うわ♪」
「ケッ、よせよ。あたりめぇの事しただけだ」
ジークは少し照れくさそうにそう言うと、レイの自宅へと歩き出した。
そしてレイの家の側まで辿り着くと、レイの胸元のネックレスの事に触れる。
「それって、ノーティスとお揃か」
「フフッ♪ いけない?」
「いや別に……結構似合ってんじゃねぇか」
「ありがと♪」
レイが今まで見せた事の無い顔でネックレスを見つめるのを見て、密かに胸が苦しいジーク。
そして、分かりきってはいたが、どうしても尋かずにはいられなかった。
「レイ」
「なに?」
「いや……アイツとは、ノーティスとは付き合ってんのか?」
ジークは自分からそう尋いておいて、激しく後悔している。
───ケッ、なーに分かりきった事尋いてんだ俺は。バカか。
けれど、ジークのその考えとは逆に、レイは少し切なそうに微笑んだ。
「付き合って……無いわ」
「えっ、マジかよ? だって同じネックレスしてるし、それに、今日はお前さんの誕生日だろ」
ジークが軽く疑問に思う中、レイは驚いて片手を口に当てハッと目を見開いた。
その綺麗な瞳に宿る光が、感激で揺れる。
「ウソっ、覚えててくれたの?」
「あたりめーだろ」
「でも、じゃあなんで今日誘ってくれなかったのよっ……!」
そう言われたジークは、恥ずかしそうにそっぽを向いて顔を赤くした。
「いやだってよ、恥ずかしいじゃねーか。それに、付き合ってると思ってたから、軽く三人で飲めたらって思ったんだけどよ……」
ジークの照れた顔を見て、本当に自分への好意があるのを知ったレイ。
───ジーク、アナタ……
もちろん、ジークからは以前から何度もデートの誘いがあったのだが、レイは断っていた。
けど、ジークは何度断られても全然イヤな顔をしなかったので、挨拶みたいなモノだと思ってたのだ。
───なによもうっ……
けれど、今のジークからは自分を本当に好きな気持ちが伝わってくる。
それを感じたレイは、少し切なく笑みを浮べた。
「ありがとうジーク。嬉しいわ。でも私……」
「あぁ、いいんだ。お前さんがどう思ってるかは分かってる。応援してるぜ♪」
「ジーク……」
すまなさそうに瞳を軽く伏せたレイに、ジークはニカッと笑う。
「なーに、またしみったれた顔してんだよ♪」
「だって……」
「ったく、お前さんにしんみりされたら、せっかく俺が……」
ジークはそこまで言ってハッと言葉を止めたが、レイには直感的に分かってしまった。
さっきジークが自分を元気にする為に、ワザとヒール役に徹してくれた事を。
───だから、さっきあんなに……ジーク……!
レイは思わず胸がキュンとしてしまった。
ジークの想いが、凄く嬉しかったから。
なので、一瞬考えるとハッとした顔をして、ジークの後ろの方へ指を差した。
「ねえジーク、何あれっ?」
「ん?」
そう言って後ろを振り向いた瞬間、レイはジークの頬にキスをした。
「なっ!?」
突然キスをされ顔を真っ赤に火照らせたジークに、レイは妖しく微笑んだ。
「フフッ♪ 今日のお礼よ。じゃあまた明後日ね♪」
そう言ってクルッと背を向けると、レイは嬉しそうに自宅に帰って行った。
ジークはその背を見ながら、ポツンと立ち尽くしていたが、胸元からネックレスの箱を取り出しカパッと開くと、ため息を吐いた。
レイが今日着けていたのと、同じネックレスを見つめながら。
「ハァッ……被っちまったし、それにあんな事されちゃ、どの道渡しそびれちまうだろーが。ったく、可愛い奴だぜ」
ジークは少し切なく微笑みながらそう呟くと、もう酔いもとっくに覚めた体を夜風に吹せながら、ゆっくりと帰って行った。
ジークみたいなヤツ、実際いたら結構モテそうなんだけど……
次話は遂にホラムへ出立……!




