cys:65 レイの油断
「フフッ♪ ノーティス、どう? ここのワインの味は」
「あぁ、悪くない」
レイに連れらてきた場所は、奇しくも以前、ルミとメティアの三人で飲んだレストランAPEXだった。
しかも、そこのVIPルーム。
もちろん、予約などはしていなかったが、レイが来店すると丁重にそこへ通されたのだ。
それも含め得意げなレイを、ノーティスは静かに見つめている。
───前に来た事あるのは、何となく言わない方がいいかな……
そう思い、ただレイとワインを楽しんでいた。
酒はあまり得意ではないが、レイと飲む酒は美味く感じる。
けれど、そうこうしている内にあっという間に時間が過ぎ、ノーティスは少し酔いが回ってきた。
───これはヤバイな……
そう感じたノーティスは、魔力ポータルを開きルミに連絡する事に。
「ルミ、今大丈夫か?」
「はいノーティス様♪ 今大丈夫です」
「よかった。ちょっと、迎えに来てほしいんだ」
「かしこまりました♪ どちらに向えば宜しいですか?」
「あーAPEXっていうレストランだ。ちょっと飲んじゃって」
それを聞いたルミは、魔力ポータルの向こうで頭を抱えた。
「また、ジーク様ですか……」
「いや、今日はジークじゃなくてレイと一緒なんだ」
「えっ? レイ様とですか」
その瞬間ルミは嫉妬よりも戸惑った。
二人で飲んでるなんて、完全にデートだと思ったからだ。
「そ、それって迎えに行って宜しいんですか?」
「ん? だから頼んでるんだけど」
「分かりました、すぐに向かいます! 場所はどちらでしたっけ?!」
「だからAPEXだって」
「あっ、あぁそうでしたね。では!」
普段と違い駆け足で話を終えたルミを、ノーティスは不思議に感じた。
「ルミ、トイレでも我慢してたのかな……」
ここまで女心が分からないと、もはや清々しく思えてしまう。
そんなノーティスに、レイは少し酔った眼差しを向けた。
「ねぇ、なんで迎えなんて呼んだのよ」
「いや、俺酒強くないし、レイも少し酔ってるだろ」
「フフッ♪ だからいいんじゃない」
レイは誘惑するような、艶っぽい瞳で見つめている。
最高級の女からそんな眼差しを向けられ、ノーティスは顔を赤くしたが、それがレイからの誘いだとは分からない。
「良くないだろ。もう帰ってゆっくり寝なきゃ。明後日には、お互いホラムに出向なんだから」
「なによっ、まだ明後日じゃない。時間はあるわ♪」
不満そうに声を漏らしたレイを、ノーティスは優しく見つめた。
「レイ、ホラムでは激しい戦闘になると思うから、ちゃんと体調は整えてくれ。俺は万が一でも、レイに危険な目に会って欲しくないんだ」
そう告げられたレイは軽い酔いもあり、美しい瞳に軽く涙を滲ませた。
───もぅ、ムカつく! 何なの? 鈍感にも程があるわ! でも逆に、こんなに大事にしてくれた人はいないか……
「分かったわ……仕方ないから今日は帰ってあげる」
「あぁ、そうしよう。俺も今日はレイと一緒に過ごせて楽しかった」
「私もまぁまぁ楽しかったわ♪ ホラムでも、また付き合ってあげる」
「楽しみにしとくよ」
その時、ノーティスの魔力ポータルが振動した。
画面にはルミの名前が表示されている。
「ルミ?」
「ノーティス様、到着しましたっ♪」
「あぁ、ありがとう。今行く」
二人がお店を出ると、ルミが車の横で待機していた。
「レイ様、ノーティス様、お待ちしておりました♪」
「ルミ、ありがとう」
「いえ、とんでもございません♪」
ルミは満面の笑みで微笑んだ。
嬉しかったから。
ノーティスがレイと飲んでいたのに、自分に迎えを頼んできてくれた事が。
ただ、レイはルミのその笑顔を見て直感すると、車のドアの前でピタッと足を止めた。
「ノーティス、私、一人で帰るから」
「えっ?」「レイ様?」
二人から不思議そうに見つめられる中、レイはツンとした顔でソッポを向いた。
ノーティスと違いこういうのに敏感なレイは、感じてしまったのだ。
二人が互いに強い信頼で結ばれている事を。
「私の家、ここからすぐだから」
「いや、レイ。送っていくよ」
「そうですよレイ様。最近物騒な事件も起きてますし」
そんな二人をレイはキッと睨んだ。
「結構よ。私を誰だと思ってるの?」
「レイ、戦場での強さと街中での危険は別だ」
「いいの! じゃあねっ!」
レイはそう言い放つと、スタスタとその場から去っていった。
それを見て、顔を見合わすノーティスとルミ。
「ノーティス様、レイ様に何かしたんですか?」
ジトッとした眼差しを向けてきたルミに、ノーティスは戸惑いの顔を向けた。
「いや、分からない……」
「分からないって、レイ様明らかにご立腹でしたよ」
「いや、今日は買い物に付き合って、その後飲みに誘われて、時間だから俺がもう帰ろうって言ったんだ」
「それで?」
ルミにジトッと見つめられる中、ノーティスは軽く斜め上を見ながら答えてゆく。
「まだ時間あるって言われたけど、ルミに迎え頼んだら怒り出したんだ……いや、何が何だか分からないよ」
「ちなみに、そのネックレスはどうされたんです?」
「あぁ、レイが合格祝いに買ってくれたんだ」
「買ってくれた?」
「あぁ、しかもお揃いのヤツ。大事な物が増えたよ」
それを聞いたルミは、軽く唖然としてしまった。
どう考えても、レイが好意あるのは明らかなのに、ノーティスは全くそれに気づいていないから。
───ハハッ……相変わらず女心、れー点ですね。でも……
ルミは心でため息をつくと、ノーティスに向かい微笑んだ。
「ノーティス様、そこまでいくと天晴でございます♪」
「へっ、どーゆー事?」
「まっ、いいじゃないですか。取り敢えず今日は帰りましょう♪」
ノーティスは、何がいけなかったんだろうと思いながらも、胸のペンダントを見て微笑むと、車に乗った。
◆◆◆
その頃レイは、スタスタ歩いたのと複雑な感情を抱えたせいで、かなり酔いが回ってきていた。
酒にはかなり強い体質だが、今日はそうもいかない。
「もぅっ、ノーティスの奴、私があそこまで誘ってるのに……何で迫ってこないのよっ!」
───ハァッ……私も執事になろうかしら……いやいや、何を言ってるの。私、どうかしてるわ……
レイは怒りと酔いで段々フラフラしてきたので、街灯に片腕を添えてもたれかった。
しかしその時だった。
目の前に厭らしい笑みを浮べた男が、レイをジト〜〜っと、見てきたのだ。
見るからに良くないオーラを、全身から放っている。
「何よアンタ?」
レイがその男を睨んだ瞬間、レイの背中に激しい電流が流れてきた。
「!!!」
後から別の男がスタンガンを当ててきたのだ。
余りにも突然の不意打ちに、レイは悲鳴をあげる暇もなく、その場にバタッと倒れてしまった。
「クククッ……」
二人の男は気絶してるレイを車に乗せると、そこから勢いよく走り去っていった。
あまりに手慣れたやり方だ。
その光景をたまたま離れた所で目撃したジークは、一目散に駆け寄ったが間に合わなかった。
「ちくしょうっ! なんだってんだありゃよ!!」
なので、車が去った方へ全速力で走りながら、魔力ポータルを開いた。
その頃ちょうど車に乗ってたノーティス。
「あっ、ジークからだ。どーしよう。今から飲みかな……」
「ノーティス様、ちゃんとお断りして下さいね。明後日からはホラムでしょう」
「うん、分かってるって」
ノーティスはそう言って、ジークからの着信に出た。
「ジーク、今日は飲めないって……」
「ノーティス! テメェ馬鹿野郎っ!」
「な、なんだよ、ジーク。そんな怒らなくても……また、今度飲みに……」
「何でレイを一人で帰したんだよっ!」
「えっ、なんでそれを? しかもジーク、お前息上がってないか」
そう問いかけた時、ノーティスの耳を再びジークの怒声が貫く。
「レイが拐われたんだよっ!!」
「な、なんだって?!」
ノーティスは顔を青ざめさせ叫んだ。
そして、ジークに問いかける。
「ジーク、場所はどこだ?!」
そしてジークから場所を聞くと、ルミに悲壮な顔を向けた。
「ルミっ! すぐに向かってくれ!」
「はい、ノーティス様。今既にレイ様の魔力ポータルから逆探知終わりました」
「ありがとう! てか、そんな事も出来るのか?!」
「はい。私、ノーティス様の執事ですから!」
ルミはそう答えると、よりアクセルを全開にした。
───レイ様、待ってて下さい。必ずノーティス様がお助けいたします!
突然拐われたレイ。ノーティス達は間に合うのか……!
次話はレイがピンチに陥ります。




