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cys:64 ハートのペアネックレス

「お、お願い?」


 ノーティスは、レイから見つめられながら少しドキドキしている。

 普段とは違う雰囲気を、レイが醸し出しているからだ。


「ノーティス、アナタに選んで欲しいの」

「な、何をだよ?」

「フフッ、アクセサリーよっ♪」

「へっ?」


 ノーティスは少しキョトンとしてしまった。

 今までのレイの買い方を見てると、この棚のアクセサリーを全部買うと思ってからだ。


「いや、いいんだけど……俺、こういうのセンスないぞ」

「そーなの?」

「前にルミと服買いに行った時もさ、俺が色々選んだの見せたら『ノーティス様、人にはそれぞれ得て不得手があります。それは恥ずかしい事ではありません』って言われたぐらいだから」

「アハハッ♪ 何それーーっ! あの子も中々言うじゃない」


 レイは話が可笑しくて笑っているが、反面、ルミの事が気になり内心ちょっとムッとしてもいる。


「あーー面白いわね。でも、買い物とかも一緒に行くんだ」

「たまにな。少なくとも俺に一人で服を買いに行かせるのは、三歳の子にお使い頼む以上に心配なんだと」

「アハハハハッ♪ あーー本当に面白い。素敵だわ」


 思わず声を上げて笑ってしまったレイは、笑い泣きで出た涙を指で軽く拭った。


「そうか? たまに、どっちが主人だか分からない時もあるぜ」

「いいじゃない、そーゆーの♪」

「んーーまぁ、だからセンスは保証出来ないぞ。それでもいいのか?」


 少し首を傾げたノーティスに、レイは嬉しそうに微笑んだ。


「いいのよ、ノーティス。アナタに選んでもらえるなら、どんな物でも♪」

「そっか、分かった。じゃあ……」


 ノーティスはショーケースの中をジッと見ながら、アクセサリーを選び始めた。

 軽く顎に手を当て、中々に真剣な表情だ。

 自分の物には執着は無いが、頼まれた事には真剣になってしまう性分だから。

 

「う〜〜ん……レイ、アレはどうかな?」

「どれ?」


 ノーティスの指差した方を見ると、そこには星とハートが重なり、その間にダイヤが散りばめられているネックレスが。


「へぇ、いいじゃない♪ 少なくとも三歳のお使いよりは上出来よ」

「ハハッ♪ それはよかった」

「でも、なんでこれがいいと思うの?」

「なんか、レイのイメージに合ってると思うから」

「えっ?」


 レイはドキッとしてしまった。

 ノーティスが造りの良さとかじゃなく、レイの事を考えてくれた事がサクッと伝わってきたからだ。


「いや、正直レイのイメージって、今までもっとこう華やかさ一色って感じだったんだけど、今日一緒に色々巡ってみて、レイはハートが似合う部分もあるなと思ってさ」


 別にノーティスは狙って言った訳ではない。

 けど、だからこそレイは恥ずかしくなり、ボッと赤くした顔をサッと反対側に向けた。


「な、何を言ってんのよっ! 私は最華の魔導士レイよ。ハートだなんて似合わないわ」

「レイ、そんな事ないさ。キミは気高く美しい中にも、純粋で可愛いハートがある。少なくとも俺はそう感じる」


 思ったままを伝えてくるノーティスに、レイは心臓がバクバクしている。

 けれど、それを隠すかのように胸に片手を添え、勝ち誇ったような表情を作った。

 簡単に好意を見透かされるのは、レイのプライドが許さないから。


「フフッ♪ それはノーティス、アナタでしょ」

「お、俺が?」

「そうよ。もぅ、仕方ないわね♪」


 レイはそう言って軽く口角を上げると、店員にサッと告げる。


「ねぇ、これ二人頂戴」

「かしこまりました」


 いきなり二つ買ったレイに、ノーティスは軽く目を丸くした。

 それなりの金額がするのは勿論だが、同じアクセを二つ買うのが分からない。


「レイ、なんで同じの二つも買うんだ?」

「ノーティス、アナタの分に決まってるでしょ」

「俺の分?」

「勘違いしないで! アナタが選んだから私の分として買うし、これはアナタのイメージに合うから二つ買うの。大分遅くなったけど、合格祝い。それだけよ」


 そう言って再びプイッと横を向いたレイ。

 赤くなってる顔を、ノーティスにこれ以上見られたくなかったのだ。


 けれど、女心に鈍感なノーティスには全く分からず、むしろ勘違いしている。


「あ、ありがとうレイ。そういう事ならいいんだけど、なんかさ……怒ってる?」

「はぁっ? 怒ってる訳ないでしょ!」

「えっ、だってさ……」


 そうこうしてる間に、店員がネックレスを持ってきた。

 ネックレスは、二つとも綺麗な箱と袋に入っている。

 レイはクリスタルで会計を済ませて店をサッと出ると、袋のまま片手で渡した。


「はい、これ。アナタの分よ」

「ありがとうレイ、大切にするよ」

「そっ、ならよかったわ♪ それよりもノーティス……」


 レイは箱からネックレスを取り出し、つまんで前にサラッと垂らした。

 買ったばかりのネックレスは、キラキラと光っている。


「これを私に付けなさい」

「えっ、な、なんで?」

「そういうモノなの。いいから」


 レイはそう言ってネックレスの付け根を外し、ノーティスにそっと渡した。


「いいノーティス、こういうのは後ろから着けるの。覚えときなさい♪」

「う、うん……」


 ノーティスはちょっとドキドキしている。

 こういうのは本当に慣れていない。


───う〜〜っ、戦ってた時より緊張する……


 そんなノーティスにレイは背中を向け、綺麗な長い髪を両手でそっと上げた。

 レイのセクシーなうなじが、ノーティスの瞳に映る。


───うっ……は、恥ずかしい。なんだよこれ……


 ノーティスはドキドキしながらも、頑張ってレイにネックレスを着けた。

 思わず心で溜め息を吐いてしまう。


「レイ……着けれたよ」

「フフッ♪ ありがとう、ノーティス」


 そう告げノーティスの方へ振り返ったレイは、そのネックレスを片手にそっと乗せ、愛おしく見つめた。


───嬉しい……♪ でも、きっとこの子はまだ気付いて無いわよね。私の気持ちに。


 レイは、嬉しさと共に少し切なく零した。

 その美貌で周りからは持て囃されているが、アルカナートにしてもノーティスにしても、本命の男からは本気で振り向いてはもらえないから。


 けれど、そう思った時だった。


「レイ、綺麗だ。とても似合ってる」

「……!」


 レイは本当に嬉しくて、ノーティスに抱きつきたかった。

 ノーティスが本気でそう思ってくれてる事が、その言葉と眼差しからハッキリ伝わってきたからだ。

 けれど、急に抱きつくなんて、やはりレイのプライドが許さない。

 なので、フンッとした感じでネックレスを着けた胸元を見せつけた。


「当たり前でしょ♪ 私は何でも似合うの。でも……これは大事にするわ。ありがとう」

「レイ、こちらこそだよ。ありがとう」


 そう言って微笑んだノーティスに、レイはネックレスの箱を開けて取り出した。


「今度は私が付けてあげるから、後ろ向きなさい」

「あっ、あぁ」


 ノーティスは再びドキドキしているが、それはレイも同じだ。

 ドキドキしながら、ノーティスの背中から手を回していった。

 けど、それを悟られないように甘美な声で囁く。


「ノーティス……これ、絶対取っちゃダメだからね♪」

「分かった……よ」

「フフッ♪ 約束よ」


 レイは何とかクールを装っているが、振り返ったノーティスの姿を見た瞬間、思わず胸がキュンとしてしまった。


───なにこれっ! 可愛すぎじゃない!


 けれど、ギリギリでプライドを保つレイは、そう言いたいのを押し殺し妖しく微笑んだ。


「まっ、いいんじゃない♪ 素敵よ」

「そ、そうかなーー。なんか、俺が着けてちゃ変じゃないか?」


 ちょっと困惑した顔でネックレスを見ているノーティスに、レイは軽く身を乗り出した。


「そんな訳ないでしょ。私がいいって言ってるんだから、それでいいのっ♪」

「わ、分かったよ」

「フフッ、分かればいいのよ♪」


 何とか平静を装う事が出来、心で胸を撫で下ろしたレイを、ノーティスは凛とした瞳で見つめた。


「俺、これはレイだと思って大切にするよ」

「な、なにを言ってるのよ?!」

「いや、このペンダントを師匠だと思ってるように、このネックレスはレイだと思っていくからさ」


───もーーーーっ、そういう事?! 鈍感! バカッ! でも……


「……好きになさい♪」

「あぁ、大切にするよ」

「失くしたら許さないから」

「もちろん。戦いの最中は鎧の下に隠しておくから。レイが傷付かないように」


───もうっ、どこまでドキドキさせんのよっ……!


 レイはその気持ちを逸らすかのように、ノーティスに問いかける。

 それに、実際ずっと気になっていたからだ。


「ねぇ、あの人は……アルカナートは今どうしてるの?」


 するとノーティスは、この前セイラと久々に会った時の事を思い出し、少し悲しそうにうつむいた。


「今、どこにいるか分からないんだ」

「えっ?」

「この前セイラに会いに行った時、最近来てないって言ってて会えなかった。セイラのとこにはよく来てたんだけど」


 それを聞いたレイは、ハッとした。


「ちょっと待って。セイラって、あのパナーケァ・セイラの事?」

「あぁそうだよ。師匠のパーティの一人だった人だ」

「そうよね。でも、そのセイラのとこにも来てないなんて、どうしたのかしら……」


 不安そうな顔を浮べたレイに、ノーティスは微笑んだ。


「大丈夫さ。師匠はデタラメに強いし、それに人は……」

「出会うべき時に会う、よね?」

「そう、さすがレイだな」


 そこまで話した時、ノーティスはもう段々日が暮れてきた事に気付いた。


「レイ、今日ありがとう」

「えっ、もう帰るの?」


 レイは驚いて目を丸くした。

 ここまで来たら、99%の男はこの後誘ってくるからだ。

 しかも、レイからあれだけサインを出していたのにも関わらずだ。

 なので、レイは軽くジャブを打つ。


「私は、もう少しいてあげてもいいけど♪」

「ダメだ」

「なんでよ?」


 少しイラッとしたレイに、ノーティス軽く叱るように言う。


「日が暮れたら危ないからだ」

「アハッ♪ ノーティス、私を誰だと思ってるの? 最強の王宮魔道士よ。襲われるなんてありえないわ」

「レイ、キミは確かに強い。でも女の子だ。何があるか分からない」

「平気よ。そんな事ありえないから!」


 レイはそう言ってノーティスを見つめ、ちょっと強引に迫る。


「今日予約しているお店があるの。だから一杯だけ付き合いなさい」

「レイ……」

「私と飲めないなら、今からジークに来てもらうわよ」


 そう言われた、ノーティスはハァッ……と、溜め息をつき片手で頭を抱えた。

 ズルいなと思いながら。


「分かったよ。じゃあ、一杯だけな」

「フフッ♪ 素直でいいわ。行きましょ」


 そう言って微笑むレイに連れられ、ノーティスは仕方なくお店に向かった。

ルミに怒られそうな展開に……

次話はレイの身に危機が迫ります。

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