cys:63 レイの爆買いデート
「レイ、これ変じゃないかな〜〜?」
王宮の控室で普段着に着替えたノーティスとレイは、二人で街に繰り出していた。
ノーティスは、レイから渡されたサングラスを付けている。
お忍び用だと渡されたのだが、優しげな目が隠れると、また全然違う雰囲気だ。
ただ、決して悪くはない。
レイは、そんなノーティスをチラッと見ながら内心ドキドキしている。
───格好良すぎよっ♪
けど、それを表には出さない。
「別に、悪くはないわよ♪」
「そっか。まっ、だったらいいんだけど……ちなみに、これからどこに行くんだ?」
隣を歩きながら尋ねると、レイは艷やかな流し目を向けてきた。
「フフッ♪ そんなの決ってるじゃない。こっちから誘ったのに分からないの?」
レイはその美しさ故に、ファンもメチャメチャ多い。
なので、レイから妖しい瞳でそんな事を言われると、いくらノーティスでもドキッとしてしまう。
「決まってるって……」
ちょっと顔を火照らせながら戸惑っているノーティスを、レイはジッと見つめている。
ノーティスがその眼差しに息が詰まりそうになっていると、レイはフゥッとため息をついた。
「お買い物よ」
「えっ、お買い物ぉ?」
「とーぜんじゃない。明後日にはスマート・ミレニアムからホラムに暫く出向なのよ。それまでにこっちで色々揃えておかなきゃ♪」
そう言われホッとしたが、同時に肩透かしを喰らったような気持ちになったのも否めない。
「あっ、あぁ……まっ、そうだな」
「フフッ♪ 顔赤くしちゃってどうしたのかしら?」
「い、いや別にーー」
顔を赤くしたまま気まずそうなノーティスを、レイは微笑みながら覗き込んだ。
「今日は色々と回るからよろしくね♪」
「分かったよ」
そう零し歩くノーティスの隣で、レイは涼し気な顔をしながら内心ドキドキしていた。
───まったくもぅ。剣の腕は超一流なのに、女心に対しては初心すぎなんだから……♪
そんな二人がまず入ったのは、プラチナエリアの超高級ブティックだ。
「いらっしゃいませー♪」
爽やかに挨拶してきた女性店員に、レイがサングラスをスッと下げて店員にウインクすると、店員はレイに深々とお辞儀をした。
全身から緊張感が漂っている。
「よ、ようこそおいで下さいましたっ!」
レイは再びサングラスを上げツカツカと店内へ進むと、高級な服がズラッとかけられた棚を一瞥して軽く微笑んだ。
「この棚の服、全部もらうわ♪」
「あ、ありがとうございます!」
「今日中に全て届けてちょうだい」
「かしこまりましたっ!」
店員が深くおじぎをすると、レイはノーティスを下着のコーナーへ連れて行った。
「ちょ、ちょっとレイ」
ノーティスは照れて顔を赤くしている。
こういうのには慣れていないから。
けれどレイは、そんなノーティスの顔を覗き込みながら妖しく微笑んだ。
「ねぇ、ノーティスはどんなのが好み? 白? 黒? それとも情熱的な赤かしら」
「い、いや、俺はそういうの分からないって!」
「何赤くなってるの? ほら、ちゃんと見てよ♪」
「レ、レイ!」
ノーティスは顔を真っ赤にして両手を向けた。
もちろん、ルミとはほぼ毎日一緒にいるし女の子が苦手とかは全然ないのだが、こうあからさまな感じがある物にはどうも苦手だ。
そんなノーティスの性格をレイは分かっていて、ちょっと意地悪しながら楽しんでいる。
「もぅ、見てくれなきゃ分からないじゃない♪」
「いや、でもさ……」
そんなこんなをしながら、レイは下着も全色買い、クリスタルから支払いを済ませて店を出た。
「ふーーーっ♪ これで服は大丈夫ね」
「ふ、服は?」
「そうよ。次は靴とアクセ買いに行くわよっ♪」
「えーーーーーーっ!」
「ほらっ、早く♪ グズグズしてると、ジーク呼ぶわよ」
「……分かったよーー」
そこから、他のお店を回ったレイとノーティス。
レイは靴も一気買いだったが、アクセはノーティスを側に呼んで、一緒に顔を並べて見ている。
「ねぇ、ノーティス。アナタはアクセ付けないの?」
「ん? アクセは……」
ノーティスは首から下げているペンダントを、ジャラッと手に持ちレイに見せた。
「俺はコレが一番大切だから」
「えっ、これは……!」
「そう、師匠がくれた『卒業の証』さ。レイ。キミも持ってるだろ」
ニコッと微笑んだノーティス。
けれど、レイは寂しそうにスッと瞳を伏せた。
「……私は、持ってないわ」
「えっ?! だってレイ、キミは……」
「そうよ。私もアルカナートの弟子よ。でも私だけじゃない。ロウもジークもアンリも貰ってないわ」
「なんで?」
「あの人、急に剣を置いて出ていっちゃったから……」
レイからは切ないオーラが零れている。
さっきまでの勢いが、まるで嘘のようだ。
そんなレイの姿を前にしたノーティスは、申し訳無さそうに軽くうつむいた。
「そうだったのか……知らなかったとはいえ、すまなかった」
そう零したノーティスに、レイは切なく微笑んだ。
「ううん、いいのよ♪ それよりコレ、ちょっと見せてもらっていいかしら?」
「あぁ、かまわないよ」
レイは卒業の証を手に取ると、自分が欲しかった宝物のようにジッと見つめた。
卒業の証ペンダントは黄金で出来ていて、綺麗な装飾が施されている。
そして、中央に置かれたクリスタルが、レイの美しい顔をキラリと照らした。
「凄く綺麗なペンダントね……美しいわ♪」
レイはうっとりした声を漏らし見つめていたが、クルッと裏を向けると、思わず吹き出しそうになってしまった。
「えっ、ちょっと何これ♪」
「あぁ、それな」
裏面には、何とアルカナートがニヤッと笑った似顔絵が彫られていたのだ。
「フフッ♪ まったく、あの人らしいわ……」
レイは嬉しそうにそう零しながら、フト気付いた。
「ねぇノーティス。この日付ってもしかして」
「あぁ、そうだよ。俺が師匠の最終試練を突破して卒業した日さ」
「そっか……でも、どうやってその日に……まさかっ」
レイが目をハッとと大きく開く中、ノーティスは懐かしそうに笑みを零し、あの日の事を脳裏に思い描いてゆく。
もうあれからしばらく経つが、あの日の事は色褪せない。
「師匠はさ、俺がこの日に合格すると信じて、最初から作ってくれてたんだ」
「そう……さすがあの人ね」
「あぁ。最終試験の前に師匠から『今のお前に欠けているモノを見つけない限り、最終試験は受けさせん』って言われて、三日間の猶予を貰ってさ」
「三日間の猶予?」
「そう。それでその3日間の間に、俺を育ててくれた寮母のセイラのお陰で何とか答えに辿り着いて、俺は師匠との最終試験に臨んだのさ」
ノーティスの話に、レイは目を輝かせて聞き入っている。
敬愛するアルカナートと、自分の運命の人だと信じているノーティスの話だからだ。
「最終試験は師匠との一騎打ち。もちろん、それまでにも師匠にはいつも鍛えてもらってたけどさ」
「ちなみに、それまではどんな修行だったの?」
「色々あるけど……100キロの重りを着けられて100キロ走って、それからボロボロになるまで剣術の稽古」
「はっ? 100キロ?」
「そう。100同士でキリがいいだろって言われて」
「ハハッ……」
いきなりの事に唖然とするレイに、ノーティスは話を続ける。
「で、それが一日のスタートで、斬撃は師匠がいきなり岩を剣で砂に変えて、これをやってみろって言われて」
「えっ?」
「1秒間に1億回の斬撃を繰り出せば出来る。けど、まずは1秒間に100回からだ。みたいな感じだ」
「はぁ……」
ノーティスは、目を点にするレイにさらに続ける。
「後は……そうそう、ぶつかった場所が爆発する威力で投げられた石を、上手く避けろって言われたりとかもあったな。それもだんだん、避けずに撃ち落とせに指示が変わっていって……」
「ノーティス、分かった。もういいわ」
レイはやれやれのポーズをしながら、ため息を零した。
同じアルカナートの弟子でも、ノーティスの受けた授業は格別だったから。
「アナタの強さの理由が、よーく分かったわ。で、最後の一騎打ちはどうなったの? まさか、アルカナートに勝ったの?」
再び興奮気味のレイに、ノーティスは切なくも嬉しそうな顔を浮かべ、首を軽く横に振った。
「いや……勝てなかったよ。白輝の力を超えた力を放ったけど、師匠の肩に一撃入れる事しか出来ずに、吹き飛ばされたから」
それを聞いたレイの気持ちが、複雑な想いで揺れる。
ノーティスに勝ってほしかったと思う反面、最強のアルカナートが負ける事も許せなかったから。
───何なのよ、この気持ちは……
ヤキモキしながらうつむいているレイを、ノーティスは軽く覗き込んだ。
「レイごめん。つい、俺の話ばかりしてしちゃった」
「いいのよ。凄く楽しかったし、聞かせてくれてありがと♪」
その瞬間、ノーティスはさっきよりもドキッとしてしまった。
いつもと少し違い、まるで少女のような純粋な光が混じったレイの瞳を受けて、純粋に可愛いと思ってしまったからだ。
「そ、そうか。そう言ってくれると嬉しいよ」
そう言ってちょっと焦るノーティスに、レイは顔を少し火照らせそっと見つめてきた。
レイの艶っぽい瞳に宿る光が、波打つように揺れる。
「ねぇ、ノーティス」
「な、なんだよ?」
「お願いがあるの……♪」
レイのお願いとは一体……
次話はノーティスのれ〜点が久々に炸裂です。




