cys:62 遠征と疑惑
「ジーク、レイ、ロウ、メティア、アンリ、そしてノーティス。皆、よく集まってくれた」
皆にそう告げたのは、スマート・ミレニアムの統治者である教皇『ヴェルテ・クルフォス』だ。
兜型の仮面を被ったまま、玉座から威厳に満ちた眼差しで、見下ろしている。
跪いているノーティス達の事を。
「お前達も知っての通り、近日中にトゥーラ・レヴォルトが侵攻してくるとの情報が入った。しかも今回は、あのホラムにだ……!」
クルフォスはスッと一瞬目を閉じると、ノーティス達を再び見つめた。
「あの都市はまだ出来てから二十年足らずだが、魔力クリスタルの最新技術を使った、実験的なスマート・シティ。この都市の発展は、我が本国の発展にも重要な場所だ。よって、今ここを破壊される訳にはいかぬ」
そこまで話すと、クルフォスは玉座からサッと立ち上がった。
纏っている法衣が揺れる。
「なのでお前達には、これからホラムへ出向してもらう。そして、魔力クリスタルの救いを拒否した蛮族国家トゥーラ・レヴォルトから、ホラムを必ず守るのだ!」
「ハッ!!」
跪いたまま返事をしたノーティス達に、クルフォスは片手をバッと伸ばした。
そして、大きく威厳のある声で皆に告げる。
「ユグドラシルとクリスタルに、永遠の忠誠を!」
その号令と共に、ノーティス達は胸の中央で拳と手の平をパシンっと合わせた。
これは、教皇に対する誓いのポーズだ。
「ユグドラシルとクリスタルに、永遠の忠誠を!」
それを満足気に聞いたクルフォスは、アンリの事をスッと見据えた。
「アンリ。お前は万が一の為にこっちに残ってもらう」
「わかりました♪」
「アンリ達以外は各自明日中に準備を済ませ、明後日からホラムに出向するのだ!」
「ハッ!!」
「では、そなたたちの働きに期待している。我がスマート・ミレニアム最強の王宮魔導士達よ」
クルフォスはそう告げると、玉座の後ろの幕の外へとフッと姿を消した。
その姿を確認して立ち上がった皆は、フゥッと大きくため息をついた。
「やっぱ、教皇様の圧は半端ねーな」
「そうね。私達を束ねる統治者なだけあって、荘厳な美しさがあるわ」
「ボク緊張して、ずっとドキドキしっぱなしだったよー」
「アハハ、メティアは初めてだし仕方ないさ」
ノーティス達が談笑する中、アンリは顎に手を当て唸っていた。
「う~む……」
そんなアンリに静かに声をかけるロウ。
「どうした? アンリ」
ロウは少し気になって声をかけたが、アンリはそのまま前を向いたままだ。
「いや、なんでもない」
「……そうか」
いつもと違うアンリの口調にロウは何かあると感じたが、それ以上追及するのをやめた。
アンリがそう言う以上、今はまだ確信的な事ではないのだろうと思ったし、何よりロウ自身少し思う所があるからだ。
───教皇クルフォス。確かにアナタはこの国の最高権力者であり、善政を行っているが……
ロウが思いを巡らせていると、アンリがロウにパッと明るい顔を向け、いつもの口調で話しかけてきた。
「まぁ、とりあえず私はこっちに居残りだし、ゆっくりさせてもらうニャ♪」
「あぁ、でも万が一の時は頼むよ」
「ニャハハッ♪ 任せておけーーいっ」
そう言って笑うと皆の事を皆の事をキョロキョロ見渡し、楽しそうに片手を振った。
「明後日は魔法陣から見送るから、みんなお土産よろしくニャ♪」
そんなアンリに向かい、皆ニヤッと笑みを浮かべる。
「オッケー任せときな♪」
「フフッ♪ アナタが喜びそうな物見つけてくるわ」
「ボクは、すっごく美味しいお菓子買ってくるからねっ♪」
「フッ、それはメティアが食べたいだけだろ。まっ、いつかみたいに俺の分取るよりはいいけどさ」
「もーーノーティス、それは言わないでよーーー」
メティアがそう言って可愛く口を尖らす中、アンリはノーティスに近付きそっと囁く。
(ノーティス、気を付けるのじゃぞ)
「えっ? どういう……」
その瞬間、アンリはサッと姿を消した。
───気を付ける? 何に……
心で今言われた意味を考えてみたが、アンリが何を言いたいのかは分からない。
ただそんな中、ジークが横からガシッと肩を組んでニヤッと笑いかけてきた。
「ノーティス、今から飲みにいこうぜ!」
アンリからのそれと違い、物凄く分かりやすい。
けど、だからといって、それに乗るかは別の話だ。
「いやジーク、明後日出発だぞ。それにこの前酔い過ぎて、ルミにこっぴどく怒られたばっかだし……」
「かぁーーーっ、なんだノーティス。お前さん、もう尻に敷かれてんのか」
「いやいや、別にそういう訳じゃないけど……」
気まずそうに口ごもるノーティス。
明後日の事もあるが、酒はあまり強くないのだ。
けれど、ノーティスと違って酒好きのジークは諦めない。
「いーや、そんなんじゃダメだぜ。なぁ? レイ」
ジークから突然話を振られたレイは、ハァッと呆れたように溜め息を零して二人を見つめた。
───どっちもどっちね。けど……
ノーティスの事を密かにずっと想っているレイは、これを上手く使う事にした。
「あら、ノーティス。今日はこれから、私に付き合ってもらう約束してたわよね♪」
「えっ?」
一瞬キョトンとしたノーティスに、レイは軽くウィンクした。
妖しげな瞳が可愛く光る。
───あっ、そういう事か!
ノーティスは即座に悟り、ジークにすまなそうな顔を向けた。
「すまんジーク。そういう訳で、今日はレイと先約があるんだ」
「チッ、なんだそーゆー事かよ」
先約があるなら仕方ないと思い、バツが悪そうに片手で頭を掻くジーク。
ただ、実はレイに好意を持ってるジークは、ノーティスに軽く意地悪な顔を向けた。
「って事はノーティス、あの嬢ちゃんがいながらお前さん、浮気って事だよな♪」
「ち、違うだろジーク」
少し顔を赤くしたノーティス。
もちろん、ルミとは付き合ってもないから浮気でも何でもない。
それに、レイがただ助け舟を出してくれた事だっていうのも分かっている。
ただ、ルミの事を思うとジークに言われた事が、何となく当てはまる気もしてしまったのだ。
ノーティスがそんな風にちょっと慌てる中、レイは艶やかな瞳でジークを見つめた。
「ねぇジーク、アナタもしかして妬いてるの?」
「バ、バカ言え。んな訳ねーだろ」
ジークは顔を軽く火照らせ体を反らしたが、レイは見つめたまま妖しく微笑む。
「フフッ♪ 可愛いわね。今度飲みに行ってあげてもいいわよ」
「うっ……」
ジークは顔を火照らせたまま、大きくため息を吐いた。
「あーーもう今日はいいや。そん代わりノーティス、あっち行ったら酒付き合えよ」
「あぁ、分かったよジーク。まぁほどほどにな」
「んじゃ、俺は明後日の支度でも始めますかね」
ジークが背を向け去っていくと、ノーティスはレイをスッ見つめた。
「レイ、ありがとう。助かったよ。流石に遠征前に苦手な酒はキツいからさ」
「フフッ♪ じゃお礼に、今日少し付き合ってもらうから」
「えっ?」
「あら、もしかして、ジークに飲まされる方がよかった? ジー……」
「分かった分かった! 付き合うよ」
「最初からそう素直になればいいのよ♪」
やられたと思った顔してるノーティスにレイは微笑むと、広間の出口に向かって歩き出した。
ただ、ノーティスはすぐには向かわずメティアに話しかける。
「メティア、明後日から遠征だけど大丈夫か?」
「うん♪ ノーティス達と一緒なら平気だよ」
「よかった。もし何かあればいつでも連絡してくれ」
「分かった♪ ありがとうノーティス」
メティアがニコッと微笑むと、レイが出口近くでノーティスを呼んできた。
「ノーティス、行くわよ!」
「あぁ、今行く」
そう告げると、ノーティスはメティアに微笑みレイの方へ向かった。
少し怒ってるレイに軽く謝っているのが、何とも微笑ましい。
そんな各々の姿を優しく見つめていたロウは、メティアに話しかけた。
「メティア、よかったら軽く甘い物でも食べに行こうか」
「えっ、ホントに! 行くーーーっ♪」
「フッ、じゃあカレッタをご馳走するよ」
「わーい♪ ありがとうロウ」
そんな風にはしゃぐメティアと一緒に出口まで来たロウは、スッと玉座の方へ顔を振り返らせ、聡明な眼差しを向けながら密かに思う。
奇しくも、アンリが考えていたのと同じ事を。
───教皇クルフォス、貴方は何を隠している……我ら王宮魔導士の頂点に立つ貴方から、微かに感じた邪悪な影は一体……
ロウはそう思いを巡らせると、スッと一瞬瞳を閉じてから王の広間を後にした。
教皇は一体何を隠しているのか……
次話はノーティスとレイがデートです。




