cys:61 熱い剣と冷たい剣
スマート・ミレニアム領地の、一般人禁制区域内……
ガキインッ!
ガキインッ!
カガンッ!!
シドの遠征が決まった頃、ただっ広い草原に金属同士が激しくぶつかり合う音が響いている。
ノーティスとジークが、魔力クリスタルの煌めきを纏い激しく戦っているからだ。
「ハァァァァッ!」
「オォォォォォ!」
ドガァァンッ!!
眩い煌めきを纏った剣と斧が激しくぶつかり、それにより辺り一面にブワッと走った衝撃波が、周囲の木々を大きく揺らす。
そんな中、二人は鍔迫り合い状態のまま睨み合うと、
バチィンッ!!
と、互いの武器を弾かせ間合いを取り、互いを力強い笑みで見据え合う。
「ジーク、相変わらず凄まじい威力だな。全身が砕けるかと思ったよ」
「ハンッ、俺様の斧を剣で受けれるなんざ、お前さんぐらいしかいねぇよ♪」
互いにニヤリと笑みを浮かべた二人。
今やノーティスもジークも、戦うたびにより強さを高め合える、最高のライバルであり友になっていた。
そして、先に動いたのはジークだ。
ジークは斧をジャキッと構え直し、ノーティスに勢いよく飛び掛かっていく。
「うらぁっ、いくぜっ!」
巨大な斧を軽快に振り回し放つ乱打が、ノーティスを襲う。
ガキィン! ガキィン! ガキィン!
それを剣で全て受け捌くノーティスに向かい、ジークはさらに乱打のスピードを速めていく。
超重量級の戦斧ハルバードを、まるで軽い棒切のように軽快に振り回す。
「オラオラ、どーしたノーティス! 捌いてるだけじゃ変わらねぇぜ!」
「くっ……!」
ジークは乱打を目眩ましにしながら、斧の構えをサッと変えた。
そして、大きく振りかざした斧に真紅の輝きをグワッ! と、集約させると、それをノーティス目がけ勢いよく振り下ろす。
「うらぁっ! 喰らいやがれノーティス! 『ギガント・アックス』!!」
ドゴォォンッ!!
轟音と共に大地は大きく抉れ、凄まじい爆風が吹き上がった。
が、それと同時に、ジークはイラッと顔をしかめる。
全く手応えが無かったからだ。
「チッ……! 躱されたか」
ジークは左右をササッと向きながらノーティスを探すと、その体が突然陰に覆われた。
それにより思わずハッ! と、上を向いたジーク。
そこには、宙に舞い剣を振りかぶるノーティスの姿が!
「こっちだジーク!」
「ちっ、マージかよ」
ニッと笑ったジークに向かい、ノーティスは空中で白輝の煌めきをより強く輝かせていく。
「ジーク! いい一撃だった。でも、俺も負ける訳にはいかない。雷光のように轟け! 『シェル・スラッシュ』!!」
「ちいっ!」
斧を頭上に構え防御態勢に入ったジークだが、ノーティスの必殺剣で体ごと大きく吹き飛ばされた。
「う……うぉぉぉぉぉっ!」
スザァァァッ! と、大地に背を擦りつけ、そのまま大の字で空を見上げたジーク。
いつぞやのように、悔しさはありながらも満足気な笑みを浮かべている。
「ヘヘっ……ったく、いー気分だぜぇ……」
ノーティスはそんなジークにゆっくりと歩み寄ると、上から軽く顔を覗き込みながら、スッと手を差し伸べた。
「大丈夫か? ジーク」
「へっ、バカ野郎……大丈夫じゃねーから、こうして寝転んでるんだろうが」
ニヤッと笑ったジークに、ノーティスは凛々しい顔を向ける。
「フッ、すまない。ジークが相手だと俺も手加減が出来ないんだ」
「ハンッ、上手く急所を外しておいてよく言うぜ」
軽く目を閉じて微笑んだジーク。
するとノーティスはその場にドッと腰を下ろし、倒れているジークをそっと見下ろした。
「でもジーク、どうして急に誘ってきたんだ? 俺と本気で手合わせしたいなんて」
「別に……俺は常に強い奴と戦いてぇのさ。第一お前さんにはあれ以来、まだ、一度も勝ってねぇしな……」
そう零したジークは、ふと思い出したかのようにノーティスをチラッと見た。
「そういえば、あの嬢ちゃんは元気か?」
ジークが言った嬢ちゃんとは、ルミの事だ。
ノーティスは、昔ジークがルミを狂言誘拐した事を思い出し、懐かしさにそっと笑みを浮かべた。
「あぁ、あれ以来元気さ。むしろ、小言が多くて説教される事もある。たまに、どっちが主人だか分からないぐらいだ」
「そうかい。そいつはよかった。じゃあ、今度は本当に拐っちまおうかな♪」
するとノーティスは、軽く目を閉じて笑みを零す。
「いや、それは厳しいな。ルミは俺より強い」
「ハハッ、ちげぇねぇ。男より女の方が強ぇからな」
ジークはニカッと笑うと、スッと神妙な面持ちに変わった。
「ノーティス。今日お前さんを手合わせに誘ったのは、もう一つ理由がある」
「もう一つの理由?」
ノーティスがそう尋ねると、ジークは仰向けの姿勢からゆっくりと体を起こした。
「あぁ……お前さんも当然聞いてるだろうけどよ、トゥーラ・レヴォルトの方で、何やらきな臭い動きがあるらしい」
───アレの事か……!
これは、ついこの前噂されていたトゥーラ・レヴォルトの侵攻の情報だ。
斥候によると、どうやら近々彼らはまたスマート・ミレニアムに侵攻を開始する予定らしい。
「あぁ、聞いている。アイツらがまた攻めてくる事だよな」
「その通りだ。しかも、これはついさっき聞いた情報なんだけどよ、奴さん達、今度は第三壁外都市『ホラム』に侵攻予定らしいぜ」
それを聞き、驚きと怒りに顔をひきつらせたノーティス。
「なんだって?! あのホラムにか?」
「そうだ。恐らく奴らに一番近い所から叩こうって目論見だろ。だから、今までよりも、さらに力を入れてくるぜぇ」
ノーティスは、その瞬間怒りが込み上げ拳をギュッと握った。
ついさっき和やかだった雰囲気が、一気にシリアスな物に変わってゆく。
「トゥーラ・レヴォルトの奴らめ、許さない。あの都市は昔、師匠が敵の強大な戦士を倒して、ようやく造れた都市だ。それを……!」
この話は、ノーティスがアルカナートから直接聞いたモノではない。
けれど、スマート・ミレニアムの歴史で伝えられていたのだ。
アルカナートが勇者だった頃、敵国の強大で邪悪な戦士を打ち倒した事により、この都市の建設が出来たと。
また、ノーティスも昔敵国側に偉大な勇者がいた事は、アルカナートから聞いた事はあった。
───師匠が命をかけて皆を守り造られたあの都市を、アイツらなんかに奪われてたまるか……!
そんな怒りに震えるノーティスに、ジークも精悍な瞳を向けた。
ジークもアルカナートの弟子だ。
その意味で、ノーティスと気持ちは変わらない。
「あぁノーティス、俺も同感さ。先生達のパーティーが命懸けで造ってくれた俺達の希望の都市を、トゥーラ・レヴォルトの奴らなんかに壊させてたまっかよ!」
「ジーク……!」
同じ志を持つ二人は互いを見つめ、力強い誓いの眼差しを交叉させた。
「まっ、でも確信したぜ。俺とお前さんが共に戦えば、奴らがどんな手できても、侵攻を食い止める事が出来るってな」
「あぁ、その通りだジーク。頼りにしてるよ。俺も必ずこの国の勇者として、奴らの侵攻を止めてみせる!」
ノーティスはそう言うとスッと立ち上がり、青い虚空に想いを馳せる。
アルカナートへの誓いと共に。
───悪魔に支配されたトゥーラ・レヴォルト。俺はお前達には決して負けない。師匠達が造ってくれた希望を守る為に!
◆◆◆
同時刻、トゥーラ・レヴォルト領内。
シドは鞘から剣を少し抜き、その刀身に映った自分に語りかけていた。
冷えた刀身にシドの精悍な瞳が映っている。
「父さん、もうすぐだよ……あの憎いスマート・ミレニアムの奴らに復讐が出来る」
シドはそこまで言うと、スッと剣を収めた。
まるで、燃え盛る自分の気持ちを、今は敢えて収めるかのように。
「父さんを殺したアルカナートは、今どこかに身を潜めてるみたいだけど、あの都市を完膚無きまでに破壊すれば、ヤツも出て来るしかないハズ……」
シドはそう零すと、怒りと悲しみの宿る瞳に涙を滲ませた。
───俺は取り戻すよ。父さんが見せてくれた、あの桜を!
スマート・ミレニアムの勇者エデン・ノーティスと、トゥーラ・レヴォルトの勇者アルベルト・シド。
彼らの想いは狂った運命と共に、悲しい調べを奏でようとしていた……!
両者の剣は、その刀身に何を映していくのか……!
次話は、ロウとアンリが国家の闇を感じ取ります。




