cys:57 時を超えた2人の運命
「うぅぅ……クソがっ!!」
イクタスは再び地面に這いつくばり、悔しさに顔を歪めたまま拳をドンッ! と、地面に思いっきり叩きつけた。
叩きつけた拳から、血と涙がジワッと地面に滲む。
まるで、イクタスの裂けた心のように。
「ちくしょう……ちくしょう……」
メティアを戻し損ねたどころか、自分が作り上げてきたパーティーが一瞬で崩壊したからだ。
自らの愚かさから出たとはいえ、イクタスにとっては最悪の結果だ。
メティアは、そんなイクタスを見下ろしている。
不自然な程、冷酷な眼差しを向けて。
「イクタス、ボクはもう行くよ……ノーティス達の所へ」
「待てっ、メティア」
懇願する顔で片手を伸ばすイクタスを、メティアは変わらぬ眼差しで見つめたままだ。
「さよなら……」
メティアはイクタスに静かに告げると、クルッと踵を返した。
そして、そのまま軽く顔を伏せたままスタスタとノーティス達のどこまで行くと、なぜかそのまま通り過ぎていってしまった。
「ちょ、ちょっと……! 待ちなさいよ」
レイが焦ってメティアの背中に声をかけると、メティアはピタッと立ち止まったが、こちらへは振り返らない。
その場に立ち尽くしたままだ。
「……どうしたのかしら?」
心配するレイの側で、ノーティスはロウに目配せすると、ロウは静かにコクンと頷いた。
それを受けたノーティスは、レイの肩にポンと手を乗せる。
「レイ……」
「なに?」
「すまないが、ここは俺に行かせてくれ」
ノーティスはレイにそう告げると、立ち尽くしているメティアの背に近づき、メティアの頭にそっと片手を乗せた。
「メティア、よく頑張った」
敢えてメティアの方を見ず、真っすぐ前を向いたままそう告げたノーティス。
メティアが泣いているのが分かっていたからだ。
───無理もない。どんなにあからさまでも、自分が本当に大好きだった相手に別れを告げるのは、辛いに決ってる。メティアのように、優しい子であれば、尚の事だ……
ノーティスが思った通り、メティアは辛かった。
だからこそ、別れ際に敢えて冷酷な眼差しでイクタスを見下ろしたのだ。
そうでもしないと、イクタスの前で泣いてしまっただろうから。
「うぐっ……ごめんノーティス」
小さな体を震わし涙をポロポロ零しているメティアに、ノーティスは凛とした瞳で前を向いたまま優しく言葉をかける。
「いいんだメティア。けど、キミに依頼がある」
「うぅっ……依頼?」
「そうだメティア。『特級ヒーラー』としての初依頼だ」
ノーティスはそこまで言うと、メティアにそっとハンカチを差し出した。
「それは、このハンカチで自分の涙を拭う事だ。今メティアが一番癒さないといけない相手、それはキミ自身なんだから」
「ノーティス……」
メティアはそのハンカチを受け取ると顔に当て、溢れ出した涙を拭った。
そしてノーティスの方へ振り向くと、潤ませた瞳で見上げる。
「ノーティスごめんなさい……キミの大切な魔法のハンカチ、またグシャグシャにしちゃったね」
涙の跡を残したまま涙声で笑顔を見せるメティアに、ノーティスは優しく微笑みを向けた。
「いいんだよメティア。それを俺にくれたのはメティア、キミなんだから」
「えっ、どーゆー事? だってこれはノーティス、キミの……」
目を丸くして困惑しているメティアに、ノーティスは静かに問いかける。
「メティア。辛い事を思い出させてしまうけど、キミのお母さん、昔フェクターに襲われた事がなかったかい?」
「えっ?! な、なんでそれを! 確かにそうだけど」
「やはりか……」
ノーティスが確信した顔で軽く頷く中、メティアは光の宿った瞳を向けた。
「うん。ボク、その時お母さんを治してくれたヒーラーさんに憧れて、特級ヒーラーになるって決めたんだもん!」
メティアはそこまで言って、やはり気になった。
「でも、何でノーティスその事知ってるの? まだ話した事無いのに……」
するとノーティスは、瞳に涙を浮かべながらメティアを見つめる。
男が滅多に泣くもんじゃないと思ってるけど、どうしても涙が溢れてきてしまう。
「知ってて当然だよ……メティア、お母さんがフェクターに襲われた日、お母さんに怒られなかったかい? 無色の魔力クリスタルの人間なんかに、優しくしちゃダメだよって」
「……あっ!」
メティアはその瞬間思い出した。
昔、雨に濡れてうずくまっている無色の魔力クリスタルの男の子に、自分のハンカチを渡した事を!
「もしかしてノーティス、キミはあの時の……!」
「ああ、そうだよメティア。あの時キミが渡してくれたハンカチ。そしてあの時かけてくれた言葉」
『キミの味方もいるんだって事、覚えておいてほしいから』
ノーティスとメティアの脳裏に、あの日の憧憬がありありと甦る。
「あの時キミが俺に教えてくれた人の温かさを、俺は忘れた事はない。ありがとう、メティア」
「ううっ……! ノーティス……こんな事、こんな事って……!!」
時を超え繋がった想いと奇跡に震えるメティアを、ノーティスは瞳に涙を湛えながら見つめている。
「あぁ、メティア。キミが今までしてきた事は、何も間違ってなかったんだよ。メティアのお陰で俺は今……ここに立っていられるんだから」
「もうっ、ノーティス……キミはどこまでボクを泣かせたら気が済むんだよ♪」
「お互い様だ。俺達はもう……うずくまる事は決して無い!」
「……ノーティスーーーーーーーーーー!!!」
メティアはノーティスにギュッと抱きついたまま、その小さな体を震わせ、ノーティスの腕の中で泣きじゃくった。
心の中から沸き上がってくる、止まらない温かさと共に……
『エデン・ノーティス』と『フロラキス・メティア』
幼い頃に互いを思いやった二人の数奇な運命は、今、最高の形で交わった。
瞳から零した涙と、心から溢れ出る互いの愛で。
ここまでご覧になって下さって、ありがとうございます!
時を超えて遂に交わった二人を是非、末永く見守って下さい☆☆\(^o^ )
ここからも本当に読者様の気持ちを考えながら、素晴らしいと思って頂けるストーリー展開にしていきますので、応援よろしくお願いいたします!




