cys:56 強引な勧誘と追放の価値
「メティア……俺達のパーティに戻って来てくれ!!」
イクタスがその言葉を吐いた瞬間、その場の皆は唖然とした顔を浮かべ固まった。
あまりにも厚顔無恥なイクタスの発言に。
けれど、イクタスはそんな事には構わず、メティアに縋るような顔を向けている。
もはや、恥もプライドも感じられない姿で。
「メティア、また一緒に冒険しよう! なっ、いいだろ?」
尚も、メティア縋るように訴えるイクタス。
「都合いい事言ってるのは分かってる。けど、俺らもどうしても上に上がりたくて焦っちゃってたんだ。だから酷い事も言っちまったけど、本当はメティアが必要なんだよ!」
その言い分を聞いていたレイとロウは、腐った生ゴミを見るような目でイクタスを見下ろした。
「イクタス……アナタ、呆れるぐらい美しくないわ」
「上に上がる云々の前に、キミは人として倫理学を学ぶべきだ」
けれど、イクタスは二人からの侮蔑は無視し、メティアに必死に懇願を続ける。
「頼むよメティア! 戻ってきてくれ!」
そんなイクタスを目の当たりにしているノーティスは、メティアの事をそっと見つめた。
「どーするメティア。決めるのはメティア自身だ。正直今の彼の言葉、ずっと欲しかったのは事実だろ?」
「うん……」
メティアが切なそうに頷くと、ロウとレイがノーティスに厳しい眼差しを向けてきた。
「ノーティス、何を言ってるんだ? 彼らの元へ行かせるなんてありえない」
「そうよ! それにこんないい子、渡せる訳ないでしょ!」
激しく叱咤されたノーティスだが一切動じず、二人に澄んだ瞳を向ける。
「ロウ。確かにその通りだけど、これはメティアのケジメなんだ」
「しかしノーティス、あの子が彼らの元へ戻って幸せになるとは到底思えない」
「確かにそうだ。けど、それは、メティアが感じる事だよ。俺達には分からない」
ノーティスがそこまで言うと、レイが再びキツく言ってくる。
「ノーティス、何言ってるの?! ロウの言う通りよ! それに、この子は間違いなく優秀で私達に必要な人材なの!」
「レイ、分かってるさ」
「じゃあなんでよ?!」
キツイ顔を向けて問い詰めてくるレイを、ノーティスは静かに見つめた。
「俺だってメティアに来てほしいさ。でも、それは俺達の都合だろ」
「えっ?」
「メティアの気持ちを無視して強引に仲間にするのは、身勝手に追放するのと変わらない」
その言葉にレイはハッとして目を大きく開くと、ハァッと申し訳なさそうに溜息を零した。
「そうね……ごめんなさい。確かにアナタの言う通りよ。そんなの、美しくないわね」
「レイ……分かってくれてありがとう。流石だよ」
ノーティスはそう零しレイに軽く微笑んだ。
そして、メティアに凛とした瞳を向ける。
「メティア、今言った通りだ。俺達はメティアを仲間にしたい。けど、決めるのはメティアだ」
「ノーティス。ボクは……」
メティアは拳をギュッと握りしめた。
自分を見つめているノーティスから、伝わってくるからだ。
自分の事を必要としながらも、この極限の場でメティアの気持ちを大切にしようとしている、ノーティスの温かい気持ちが。
───ノーティス、キミは……
メティアの心の中に蘇る。
今までノーティスがしてきた事と、イクタスがしてきた事が……
それを心の中で振り返ったメティアは、その小さな身体にググッと力を込めて再びイクタスに向き合った。
「イクタス……」
「メティア、頼む。戻って来てくれよぉ!」
あまりにも情けないイクタスの顔。
メティアを慮る気持ちなど微塵もなく、自らの欲望に駆られているだけの醜悪な顔だ。
けれど優しいメティアには、どうしても蘇ってしまう。
楽しかった思い出が。
メティアは瞳を閉じてそれを振り返ると、そっと瞳を開いてイクタスを見つめた。
「イクタス。ボクはずっと、キミからその言葉が欲しかった……パーティーを追放されてからも、いつかまたイクタス達と仲直り出来るって、心のどこかで信じてたから」
その言葉を聞いたイクタスは、パアッと救われたような表情をメティアに向ける。
「じゃ、じゃあ、戻ってきてくれるんだな? ありがとう!」
イクタスはそう言ってメティアの両腕をガシッと掴んだ。
けれど、メティアはその手をバッと振り払った。
「イクタス。残念だけどボク、戻る事は出来ないよ」
「なっ、なんでだよメティア?!」
両手を振り払われたイクタスは焦り、全身に汗をかきながらメティアに懇願する。
「あっ、あの援助金の話だろ? アレは……悪かった!」
「もういいよ、そんなん別に。それに、ボクがいなくても、ハティがもういるじゃん……」
「メ、メティア! お前が戻ってきてくれるなら、ハティなんてパーティーからソッコーで外すから!」
それを聞いたハティは怒りで眉を釣り上げると、両手を腰に当てイクタスにバッ! と、身を乗り出した。
「ちょっとイクタス! アンタそれどーゆ―事よ! 自分から誘っておいて、勝手に外すとかありえないんだけど!」
「うっせぇカス!」
「まったく、冗談じゃないわ。こんなパーティーこっちから抜けてやるから!」
「あーー勝手にしろ! お前みたいな傲慢で高飛車な女は、こっちだってお断りなんだよ!」
それを見たリィーテは、イクタスのあまりに横暴な振る舞いにキツく睨んだ。
「ちょっとイクタス! それは、あんまりなんじゃないの!」
「なんだと……!」
また同時にヒカイトも、イクタスを蔑んだ目でジッと見据えてきた。
「イクタス……お主、あまりにも節操がなさすぎだ」
「テメェ……!」
仲間達からも反抗されたイクタスは、血管を浮き上がらせてブチ切れた。
「お前らゴチャゴチャうるせーんだよ! ここのパーティーのリーダーは俺だ! どうしようと俺の勝手だろうが!!」
「うわっ、最低……」
「リィーテの言う通りだ。あまりにも哀しいぞ、イクタス」
ハティはそんな彼らに背を向けると、やれやれのポーズで肩をすくめた。
サラッと揺れた美しい長い髪から、それに似つかわしくない気ダルさが零れ落ちる。
「はぁっ……バッカみたい。私はもう抜けるわ」
そう言うと、ハティはそのまま軽く振り向いた。
「ヒカイトもリィーテも考えた方がいいわよ。この人と一緒にいたら、いつクビにされるか分からないから」
「そーね。こんな男、こっちから願い下げだわ」
「うむ、その通り。こ奴はゴミだ」
皆から蔑まれた眼差しを受け、怒りにブルブルと全身を震わせるイクタス。
「テ、テメェら……!!」
それを見たレイは、イクタスを見てほくそ笑む。
「フフッ♪ 『アルティメット・ジャンク』は、やはりアナタのパーティーにぴったりだったわね♪」
「くそったれがぁ!!」
イクタスの仲間達が去っていく中、メティアだけは不自然に冷たい瞳のままイクタスを見つめていた。
「イクタス……もう完全に戻る場所はなくなっちゃったね……」
邪心と驕りにより全てを失ったイクタス……
次話は大きな伏線回収による感動回。メティアはなんと……
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