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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第1章 闇から光に転じるまで
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cys:5 絶望を切り裂く光

次話から逆転です。

「うっ、これは……!」


 地獄のような光景とはよくいう表現だが、そこは正にその言葉がピッタリ当てはまるような光景だった。


 ノーティスがフェクターのいる場所に駆けつけると、辺り一帯は破壊された建物から巻き上がる粉塵に覆われていた。

 その中には重傷を負って血を流している人や倒れている人、さらにはフェクターに無惨にも引き裂かれた死体。

 その側で燃え上がっている炎と血の匂いが鼻をつく。


「うぅっ……」


 そして、それらを見下ろし地の底から湧きで出来たような咆哮を上げる巨大なフェクターが、その場を支配していたのだ。


「グガァァァァッ!!」


 まるで、神話のミノタウロスを更に巨大にし、全身から怒りのオーラを沸き立たせているフェクター。

 そのフェクターから人々を守りながら、命をかけて戦っているのは街の衛兵達だが、フェクターの強大な強さに、皆苦しい顔を浮かべている。


「くっそ、なんて強さだ。それに、剣が通らない!」

「矢も全然効かん。もう、こうなればスマート・ミレニアム軍に要請をするしか……」

「いや、あの方達は敵国トゥーラ・レヴォルトと戦うのが使命だ。街の平和は、俺達が守るしかないんだよ!」


 衛兵の指揮官は勇ましいが、フェクターの剛腕から繰り出された大きな一撃により、仲間達がブワッ! と、吹き飛ばされてしまう。


「うわぁぁぁぁっ!!」

「ぐはっ!」


 何とか耐えてる者達も、顔色は良くない。

 本当は逃げ出したくなるような恐怖を必死に耐え、巨大な怪物であるフェクターに剣を構えている。


「ちっ……フェクターを止めるには倒すか、暴走してる魔力クリスタルを破壊しなきゃいけねーんだよな。全く……厄介だぜ!」


 そんな絶望と粉塵の舞う中、ノーティスが必死になって目で追っていたのは、さっきのあの少女だった。


───どこだ? あの子はどこにいる?! それとも、上手く逃げれたのか……?!


 ノーティスが左右に目を凝らしていると、立ち昇っていた粉塵が少しずつ晴れてきたが、それと同時にノーティスの目に飛び込んできた。

 フェクターのすぐ近くで、倒れている母親を両手で揺さぶっている、さっきの少女が泣きじゃくっている姿が!


「お母さん起きて! このままだと殺されちゃうよっ!!」


 けれど少女の母親は、倒れたまま微動だにしない。

 まだ息はあるみたいだが頭から血を流し、相当な重傷を負っている。


「お母さんっ! お母さんっ! ボクと一緒に早く逃げようっ!!」


 少女は母親を何とか助けようとしているが、無惨にもその背後ろからフェクターが、ズシン!! ズシン!! と、大きな足音を立てながら迫ってきた。


 それは衛兵達も分かっているが、フェクターが危険すぎて近寄れない。


「隊長! このままではあの親子が……!」

「くっ……! 分かっている。だが、今のこの状態で近寄れば確実にやられるぞ」

「じゃあ、どうしたらいいんですか?!」


 彼らがそうしているのをよそに、ノーティスは少女の下へ全速力で駆け寄ると、フェクターに向かい両手をバッと横に広げて睨み上げた。


「やめろ! この人達に危害を加えるな!」


 すると、フェクターはグルルルルルッ! と、熱い吐息を吐きながらノーティスをギロッと見下ろす。

 巨体から凄まじい魔力を放ち、血のように赤い瞳にノーティスを映して。


 正に絶望とも言える状況だが、ノーティスは勇気を振り絞り、フェクターに向かい両手を横に広げたままプレッシャーに立ち向かう。


「フェクター! キミの気持は少し分かる! 俺は……無色の魔力クリスタルなんだ!! そのせいで、クラスメイト達からはもちろん、世間や親からも疎まれ捨てられ蹂躙されてきた。俺だって、好きでこんな魔力クリスタルになった訳じゃないのに……」


 フェクターに言葉が通じるハズも無い。

 元は人間とはいえ、魔力の暴走により理性は失われているのだから。

 けれど、ノーティスの訴えにフェクターは少し動きを止めた。

 その光景を衛兵達が軽く呆然とした顔で見つめる中、炎に照らされたノーティスの顔が哀しく曇る。


「キミだって、そういう意味では一緒だろ。しかもフェクターって、魔力クリスタルの故障だけじゃなくて、強い怒りや悲しみとかの感情で魔力クリスタルの回路が暴走する……それが原因の場合も多いって聞く。だから、その時の感情に合わせた姿になるんだっていうのも……」


 ノーティスはフェクターを見上げながら、さらに言葉を続けてゆく。

 ありえないかもしれないが、その姿は、本当に大切な友に語りかけているようだ。


「だから分かるんだよ。俺だって、みんなからあんな風に酷い扱い受けて、凄く憎く思う時だってあるし、正直、世界を呪った事だってある。けど……けどさ、味方もいるんだよ! どんな状況でも、頑張って生きていれば!!」


 フェクターは明らかに動きを止めていたが、ノーティスの事を怒りの眼差しで見下ろしているのは変わらない。

 なので、それを感じた衛兵の隊長は、ノーティスの背に向かい身を乗り出した。


「キミ! フェクターを説得なんて無理だ! 危ないからそこから離れて!!」


 隊長の叫びがノーティスの背に響く。

 けれど、ノーティスは振り返らずフェクターの方を向き両手を横に広げたたまま、決死の想いを振り絞る。

 

「俺が殺されたら、その隙にこの子と母親を助けてください!」

「キ、キミはなぜそこまで……!」

「この子は……俺に命を吹き込んでくれたんです! だからこの子だけは、俺の命に代えても守り抜きます!!」


 その時、衛兵の隊長は……いや、その場の誰もが思った。


───この子を死なせたくない!


 けれど無情にも、フェクターは唸り声を上げその巨大な腕を振り上げた。


「グガアッ!!」


 ノーティスに向かいフェクターの剛腕が迫る。

 その姿はまるで、ノーティスの言葉を認めたくないかのようだ。

 そしてその時、死を覚悟したノーティスは目をギュッとつぶった。

 決死の想いと共に。


「この子だけは救ってください!!!」


 その瞬間、ノーティスの魔力クリスタルが突然白く鮮やかに煌めき、強く大きな白い光を放った!

 それを見た衛生兵達は、今まで見た事のないあまりに眩い輝きに思わず目を細め、片腕で顔の下半分を覆う。


「こ、この光は……!」


 また、フェクターもその輝きを受けると、振り上げた腕をピタッと止めた。


 しかし、その輝きはすぐに消えてしまったので、フェクターは再び拳に力を込め、ノーティス目掛けて振り下ろした!


「グガァァァァッ!!」


───もうダメだ!


 その場の誰もがそう思った刹那だった。


「お前の輝きは希望の光だ! 『エッジ・スラッシュ』!!」


 という男の声と共に、ノーティスの後ろから一筋の閃光が走り、フェクターの魔力クリスタルを一瞬で貫いた。

 すると、フェクターの魔力クリスタルはパリンッと音を立てて砕け散り、フェクターはみるみる内に元の人間の姿に戻ってゆく。

 そして、その場にドサッと倒れ込んだ。


「なっ……!」


 その光景を見た皆は、ノーティスも含め一体何が起こったのか分からず唖然としている。

 あの獰猛なフェクターの魔力クリスタルを一閃するなど、正に神業としか言いようがないからだ。


「あっ……な、なんて男だ!」


 そんな中、フェクターの魔力クリスタルを一瞬で砕いた長身の男は、ノーティスにゆっくり近づいてきた。

 その流れる前髪からチラッと見える、クールで自信に満ちた艶やかな瞳を向けたまま。


「ア、アナタは……」


 ノーティスはその男が誰なのか全く分からなかったが、フェクターの脅威が去った事だけは分かった。

 そしてその瞬間、疲労感がドッと全身を駆け巡り、その場にドサッと倒れかけてしまう。


 が、先程閃光の技を放った男は、倒れかけたノーティスを片手でサッと支え抱き抱えると、ノーティスを見ながらニヤッと笑った。


「おっとぉ。地面で寝るのはオススメしないぜ♪」


 そして、虚ろな目をしたノーティスを抱きかかえたまま、凛とした眼差しで見つめる。


「よくやった。お前の魂が俺をここへ呼び寄せた。後はお前のその輝き、俺が極限にまで高めてやる。お前が俺の……後継者だ!」

「後…継……者?」


 突然そう言われても、ノーティスには一体何の事か分からない。

 ただ、今はそれを考える気力も残っておらず、ノーティスはその男の腕の中でスッと眠りに落ちた……

ノーティスを救った男は何者なのか……ここから逆転の始まりです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ショートカットの少女、とてもいい子ですね。 この子がヒロインなのか? そしてどん底でも他人を思いやれるノーティスは偉い。 ノーティスを助けた男の正体も気になります。 次回以降の巻き返しにも…
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