cys:49 涙の回復士『フロラキス・メティア』
「行かなきゃ……」
パーティから突然追放宣言をされたメティアは、もう、その場にうずくまりたかったが、グッと堪えてその場に立ち尽くした。
悲しすぎて立っているのも辛かったけど、ここでうずくまったら、もう動けなくなってしまいそうだったから。
「行くんだ……」
メティアは魂の抜けたような表情でフラフラとしながらも、ギルドの受付まで向かう。
そんなに離れていないのに、とてつもなく遠く感じながら。
そして重い足取りで何とか受付まで辿り着くと、消えかけるような声で受付に声をかける。
「……すいません。『スカーレット・イグニス』の退会手続き、お願い、します……」
すると受付の男性リューイは、驚いて目を丸くした。
「えっ、えぇっ? 退会手続き? なんでメティアちゃんが抜けるの?! あのパーティーが合わなくなったとか?」
「……いえ、違います。リューイさん、ボク……追放されたんです。お前は何もしてない、役立たずだって言われて……」
虚ろな瞳をうつむかせたメティアに、訳が分からないという表情を浮かべたリューイ。
同情や慰めでなく、本当に意味が分からないのだ。
「はいっ? メティアちゃんが追放? 役立たず?! マジで意味が分からん!」
リューイは、まるで自分の事のように声を荒げ憤り訝しむ顔をした。
「あのパーティーは、メティアちゃんがみんなを完璧な形で支援してるから成り立ってるんだよ! それが無きゃむしろ並みの戦力でしかないのに、彼らは勘違いも甚だしい!!」
「……いえ、いいんです。ボクは一生懸命やってきたつもりでしたけど、イクタス達には伝わらなかっただけなんで……」
「いやいや、おかし過ぎだろ!」
リューイの興奮は収まらない。
「だってメティアちゃんは、ダンジョンのトラップを探知して発動事前に魔力で止めてたし、それに、彼らが魔物を難なく倒せるのも、メティアちゃんが魔物の認識力を下げる魔法で、魔物を隙だらけにさせていたからだろ?」
リューイにそう問われたメティアは、残念そうにうつむいたまま消えそうな声で答える。
「うん……後は、みんなに守護の魔法をかけてたから、多少の攻撃を喰らっただけでは傷が付かないようにもしてたんだけど……」
「だろう。そんなん、メティアちゃんの冒険記録の『クリスタル・ログ』見れば一発じゃないか!」
リューイはそう怒気を吐いた時ハッとし、額からツーっと冷や汗を流した。
「メティアちゃん、まさか……!」
「うん。みんなには見せてなかったよ……」
「なんで?!」
メティアはそう問いかけられると、哀しくうつむいたまま瞳を潤ませた。
「ボク……イクタス達の事が好きだから、みんなに自信を持って冒険していってほしかったの……」
けれど、その想いはイクタス達には全く通じる事無く、完全に裏目に出てしまったのだ。
「メティアちゃん……イクタス達、酷すぎるよ!」
涙を滲ませながら憤るリューイだが、メティアは彼らを許すように一生懸命笑顔を作ってリューイに微笑みを向ける。
「リューイさん……いいんです。それに、イクタス達も冒険者としてより高みをめざしてるから、きっと……焦りもあってああなっただけだと思うし」
「そんな……」
「だから、リューイさんの気持は嬉しいですけど……イクタス達の事、あまり悪くは言わないで下さい……」
すまなそうに言葉を零したメティア。
それを目の当たりにしたリューイは、ここまでされても仲間を庇おうとするメティアの気持に、胸がギュッと締め付けられた。
───メティアちゃん、本当は今すぐ大声で泣きたいぐらい辛いハズだろ。なのに……!
「ぐすっ……メティアちゃん。キミならきっと、きっと素敵な仲間に出会えるから!」
「リューイさんありがとう。でも泣かないで。ボク、リューイさんのお陰で元気出たし、これからも頑張るから♪」
メティアはリューイに明るく笑顔でお礼を言うと手続きを済ませ、クルッと踵を返しその場を後にした。
明るい雰囲気を保ったまま。
もちろんメティアはリューイが思った通り、本当は大声を上げて泣きたかった。
けれど、リューイの前では涙を見せたくなかったのだ。
リューイの応援を無駄にしたくなかったから。
そんなメティアは、ギルトの外に出てしばらく歩くと道の隅にうずくまり、これまで一緒に冒険した事を思い出していた。
───そうだよ。昔、ボクが冒険者になって初めてギルドに来た時、イクタスが声をかけてくれたんだよね……
メティアは小さな体をうずくまらせたまま、これまでのイクタス達との思い出に浸っている。
みんなで一緒に飲みに行ったり、騒いだりした事。
大好きな仲間達を守る為、ダンジョンから帰ってきた後も日々密かに特訓し魔法の腕を磨いた事。
パーティーが段々有名になってきた時は、みんなで一緒に喜んだ事。
───楽しかったな……
メティアの心の中でキラキラした思い出がグルグルと回った後、そんな大好きなイクタス達から追放を告げられた光景がメティアの心を黒く覆った。
『お前は役立たずだ』
───イクタス、ヒカイト、リィーテ……ボクは、キミ達と一緒にいれて幸せだったよ……!
悲しみを堪えきれなくなったメティアは、その場にうずくまったまま大粒の涙をボロボロ零しながら、大きな声を上げて泣き続けた……
あまりにも優秀だが、周りに分かってもらえない。
この点で、メティアはかつてのノーティスと同じだ。
けれど、勇者として教皇から認められたノーティスと、片やパーティー追放されたメティア。
二人の数奇な運命は、メティアから流れる涙と共に今、交わろうとしていた……!
ノーティスとメティアはどう出会うのか……
次話からノーティスとルミの登場です。




