cys:46 バルガスへの真罰
「あっ……あっ……あぁっ!」
顔を悲愴にグニャっと歪め、その場にドシャっと跪いたバルガス。
今まで威張りちらしていたオーラは完全に消え失せている。
ノーティスはそんなバルガスに踵を返しロバートの側に行くと、力強い笑みを向けた。
「ありがとうロバート。キミのお陰だ」
「何言ってんだよノーティス。全部アンタのお陰だぜ」
ロバートが嬉しそうに軽く頭を掻くと、ノーティスはその場の皆に大きな声で告げる。
「皆さん、彼らの協力のお陰で何とか街を守れました! ただ、一番はフェクターを発生させない事です。なので皆さん日々色々あると思いますが、極力心穏やかに過ごして下さい」
街の人達がノーティスの言葉に頭を下げる中、感動で目を丸くするロバート。
「ノーティス……! お前さん、この為にワザと俺達に一斉射撃をさせたのか」
そんなロバートに、ノーティスは澄んだ瞳を向けた。
「いや、ロバート達の協力が無きゃ俺も技を放てなかった。この街を救ったのはロバート達だ」
「ノーティス……!」
感謝に目尻を下げたロバート。
ノーティスはそんなロバートに軽く微笑むと、メイの側に行き跪いた。
そして、ニコッと笑う。
「メイ、よかった」
「うん、ありがとう! ノーティスのお陰だよ♪」
「あぁ。でも俺が戦えたのは、ロバートのおじちゃん達が協力してくれたお陰なんだ。だから、ロバートおじちゃん達に感謝してくれ」
「わかった♪」
メイはニコッと笑うと、ロバートに駆け寄りバッと抱きついた。
「ロバートおじちゃん、ありがとう♪」
「メイ! ハハッ、よかった。本当によかった……!」
ロバートは嬉し涙を滲ませながらメイを抱きしめ、同時に誓う。
───もう、二度とあんな悲しい抱きしめ方をしない為にも、今日から再度猛特訓だぜ。ノーティス。本当に、本当にありがとうな……!
けれどロバートは、次の瞬間驚愕して目をカッ! と、見開いた。
「ノーティスよけろっ!」
「えっ?」
ノーティスがその叫びにハッとして振り向いた瞬間、瞳に飛び込んできた。
短剣を突き立ててくる、バルガスの姿が。
「死ねーーーーっ!!」
ザシュッ! と、いう音と共に、短剣から血がポトリポトリと流れ落ちる。
「ノーティス!」
「ノーティス様っ!」
顔を青ざめ叫びを上げた、ロバートとルミ。
だがノーティスは、バルガスを哀しく見つめたまま静かに告げる。
「もうよせ、バルガス」
けれど、バルガスは顔を歪ませノーティスを憎悪に満ちた瞳で睨みながら、ググッと力を込めている。
ノーティスの左手に掴まれた短剣に。
「……黙れっ! お前さえ……お前いなければ、後はどうにでもなるんだ。まだ完全に勇者になってない、お前を消せば!」
バルガスはそう言い放ち、憎悪と狂気に満ちた眼差しで短剣に力を込める。
そんなバルガスを、真摯な瞳で受け止めるノーティス。
「バルガス……まだ分からないのか。必要なのは肩書じゃない。人を守る気持ちと力なんだ!」
「うーーーうるさいっ! 黙れ黙れ黙れっ! 俺様は貴族なんだ! 他の奴らとは違うんだ!!」
必死の形相で睨みつけているバルガスだが、その時バルガスの腕に着けているマジックポータルが振動した。
「くそっ、こんな時に一体誰だ?!」
バルガスが憤りながらマジックポータルの画面を見ると、そこにはバルガスの父親の名前が。
「お、お父様?!」
バルガスは目を見開いて応答ボダンを押した。
その瞬間、父親の罵声がバルガスの耳を貫く。
「バルガスっ! キサマ、何て事をしてくれたんだ!!」
「えっ……! ど、どういう事ですかお父様」
顔が狂気から恐怖に変わりひきつる中、バルガスの父親はさらに怒鳴りつけてゆく。
「キサマ、市民に蛮行を働きフェクターを発生させた挙句、レイ様とロウ様達がお認めになった、勇者になる方の就任式まで邪魔しおって!」
「な、なぜそれを?」
慌てふためくバルガスだが、もう遅い。
全て見抜かれている。
「レイ様から散々言われたわ! 勇者になる方の執事から、さっき連絡があったと言われてな」
バルガスはルミをチラッと見て、ギリッと歯を食いしばった。
───あの女……!
ルミを一瞬睨みつけたが、それどころではない。
「ちなみに、よもやとは思うが、勇者になる方に粗相はしていないだろうな?」
「ま、まさか、お父様。そんな事は……」
バルガスがこの期に及んで言葉を濁すと、ノーティスがその横からサラッと言ってくる。
「本日勇者になるエデン・ノーティスです。今、バルガスさんに刺されそうになって、左手で短剣を掴んでいる所です」
それを聞かされたバルガスの父親は、マジックポータルの向こうで愕然した。
ノーティスから告げられたあまりの内容に、全身からブワッと冷や汗が吹き出す。
「な、なんですと?! た、た、大変申し訳ございません!」
「まあ、僕はまだマシなんですけど、バルガスさんは罪もない一市民を斬りつけましたので、その方への賠償もお願いします」
「き、斬りつけた? 罪も無い一市民を?!」
「はい。目撃者は街中の人と、証拠は衛生兵のクリスタルログに残ってます」
「……な、なんと……」
あまりにもムチャクチャ過ぎて言葉を失うバルガスの父親に、ノーティスはさらに告げる。
平然とした顔をしたままで。
「これがバレたら大問題ですけど、もしこれを隠蔽しようとしたら、お家取り潰しは避けられないでしょうね」
「あっ、あぁ……そう、ですね……」
そこからしばらく沈黙が流れた後、先に口を開いたのはノーティスだ。
「まあ、そこはアナタにお任せします。ちゃんとご子息様の犯罪を認め謝罪した上でご子息様を切るか、それとも隠蔽ようとしてバレて、お家取り潰しになるかは」
「うぅっ……!」
嘆きを零す父親の気持ちが、魔力ポータルの向こうから痛いほど伝わってくる。
なので、ノーティスはそんな父親に余り言いたくは無かった。
声と話し方から、彼の人格が伝わってきたから。
けれど、皆の為に敢えて心を据える。
「……ちなみに申し訳ないですけど、自分もみんなも素直に証言しますよ。さぁ、どちらを選びますか?」
ノーティスがそう尋ねると、バルガスの父親はスッ表情を落としバルガスに告げる。
バルガスにとっての処刑宣告を。
「バルガス。お前は今日で貴族の身分と財産を剥奪し、我が家から追放処分とする」
「そ、そんな! お父様っ!」
「馴れ馴れしく呼ぶな! お前みたいな奴は、もう……息子ではない!」
バルガスの父親はそう告げると、マジックポータルの向こうでノーティスに深々と頭を下げた。
「大変申し訳ございません。この事の公表と皆様への賠償はこれからさせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
そう言われたノーティスは、みんなにこれでいいかと問うと満場一致で賛成だった。
「大丈夫です。後、賠償額もかなり大きくなりそうなので、王様には取り潰さないよう自分から伝えておきます」
「おおっ! な、なんと! かたじけない……!」
「いいんです。皆への賠償と、バルガスさんの事だけちゃんとして頂ければ」
ノーティスはそこまで言った時、ピンと閃いた。
「あっ、ちなみにお父さん、こういうのどうでしょう?」
「なんでしょうか?」
「バルガスさんの事、追放した後は騎士団に預けてほしいんです」
「騎士団に?」
「はい。もちろん、身分と財産は没収しての事なので一兵士からですが。それで、騎士団のみんなからちゃんとした人間になったと認められたら、戻してあげてもいいと思うんで」
「それはいいですな! 素晴らしい!」
明るい声で賛同したバルガスの父親に、ノーティスは少しキツめの口調で言う。
締める所は、ちゃんとしとかないとダメから。
「その代わり、バルガスさんがそこから逃げる事は許さないで下さい。更生するまで何年でも、何十年でもです」
「分かりました。本日からそう致します」
その会話を聞いているバルガスは、あまりの恐ろしさにヒイッ! と、悲鳴を上げた。
バルガスにとって、こんなの考えただけで気が狂いそうになる事だから。
けど、そんなバルガスとは真逆に、騎士団の皆はニヤニヤしながら見つめている。
「バルガ~~~ス、入団おめでとう。歓迎するぜーーーー♪」
「ハハッ、よかったなバルガス。正式に認めてもらえて♪」
「まあこれから何年か、もしくは何十年の付き合いになるからな……みっちり仕込んでやるよ!!」
騎士達からそんな言葉と眼差しを向けられ、バルガスの心は絶望と共にパリンッと割れた。
「うあ……あっ……イヤだ……イヤだ……イヤだーーーーーーーーーーーーーー!!!」
バルガスは再びその場にへたり込んで絶望に嗚咽を漏らすが、同情の余地はない。
これから更生するまで、死ぬ以外には逃げる事の出来ない罰を受けなければいけないのだ。
それこそがバルガスへの真罰……!
それを見て全て収まったと感じたノーティスは、スッとルミを見つめた。
「ルミ、さすがよく分かったな。さっきのアレ」
「とーぜんです! 私はノーティス様の執事ですから♪ それに、救護班等も要請済です」
「そっか。ほんっっと、頼りになるなルミ。ありがとう!」
ノーティスはそう言ってニカッと笑ったが、ハッと思い出し気まずそうな顔に変わった。
さっきまでとは違い、少年らしい顔に。
「ちなみに、就任式どうする? もう本当に時間無いんだけど……無理かな、やっぱ」
「そんな事はありません。とりあえずゴールドエリアまで行けば何とかなりますので、もう行きましょう」
「分かった!」
ノーティスがそう言って車に乗ろうとすると、メイとロバートが声をかけてきた。
「ノーティス、ありがとう♪」
「ありがとうな、ノーティス……さん」
「ロバート、さんなんかつけるなって」
「いや、今から勇者様だろ? だからなんかよ……」
ロバートはそう言ってガラにも無くドモってしまった。
元々豪快な性格ではあるのだが、根は真面目で律儀な所もあるからだ。
ノーティスはそんなロバートに微笑む。
「俺らは一緒に戦った戦友だろ。だからまた会おう、ロバート」
「あぁ、またな……ノーティス!」
◆◆◆
みんなに見送られながらその場を後にしたノーティスに、ルミは運転しながら尋ねる。
「ノーティス様、さっきのは一体何だったんでしょう?」
「さっきの?」
「はい。先程、メイという子の父親が呟いてた件です」
ルミからそう尋ねられたノーティスは、前を見ながら思い返していた。
あの場から去る直前に、メイの父親は確かに呟いていたからだ。
───確かに何だったんだろう? 彼は仰向けになりながら、空に何かが飛んでるって言ってたけど、俺もロバートも何も見えなかった……クリスタルが破壊された事による幻覚? いや、それとも……
「ノーティス様?」
「あっ、あぁ。多分、ただの幻覚だろ」
「幻覚、ですか……」
「メイの父親以外、誰も何も見えなかったし……」
そう答えるノーティスの横顔をチラッと見たルミは、ノーティスが、何か別の事を考えているような気がした。
ルミ自身上手くは言えないが、何となくだ。
けれど、今はそれ以上詮索しなかった。
必要があれば、きっとノーティスは言ってくれると信じてるから。
「じゃあノーティス様、飛ばしますよ♪」
ルミはそう言ってほほ笑むと、アクセルをより強くギュッと踏んだ。
ルミの微笑みがノーティスを支える。
次話は遂にノーティスが就任式に。




