cys:43 少女の涙と叫び
「どけっ! 貴様ら!」
邪悪な騎士のバルガスは、ロバートら衛生兵が命をかけて戦う中、逃げ惑う人々を掻き分け一目散に避難した。
そして、他の騎士達に守られている。
そんなバルガスを、恨めしそうにギリッと睨むロバート。
───くそっ! フェクターに変えた張本人のクセに、何なんだよあの野郎は!
ロバートが激しく憤る中、バルガスは周りの騎士達に向かい喚き立てている。
「お前ら俺を必ず守れよ! 俺様は貴族なんだ! お前らとは命の重さが違うんだからな!!」
お飾りで騎士をしているバルガスにとって、これは紛れもない本心だ。
貴族の息子として生まれたバルガスは、本来戦いとは無縁の場所で優雅に暮らしているが、社会勉強の一環という名目で騎士の格好をしてるだけだから。
簡単に言えば、ただの箔付け。
なので、鎧をちょっと汚されただけでメイにあれだけ激昂したのだ。
もちろん皆それを分かっているし、騎士達だって本当はバルガスの事なんて守りたくない。
───なんでこんな奴が俺等の上なんだよ! 貴族ってだけで威張りくさってるヤツが……!
ロバートだけでなく、その場の全ての人間達がそう思い憤っていると、メイは涙を流しながらロバートに訴えるような瞳を向けてきた。
メイの汚れ無き瞳から、涙がボロボロ零れ落ちている。
「ねぇ、おじちゃん! お父さん、なんであんな風になっちゃったの?!」
「メイ、それは……」
「お父さんを返して! 返してよっ! うっ……うぅっ……わーーーーーん!」
泣きじゃくるメイを前に、ロバートは悔しさで目をギュッと閉じた。
「俺だって、キミのお父さんを返してやりてぇ。けど……」
ロバートはその後の言葉をグッと飲み込んだ。
メイに言いたくなかったから。
父親の事は、もう助けられないと。
なぜなら、目の前のフェクターは剣も弓も通さない最強レベル。
だから、魔力クリスタルを破壊して救うどころか、討伐出来るかすら分からないのだ。
それを直感的に悟ったメイは、ロバートに涙を溢しながら訴える。
「お父さんが……お父さんが何をしたの?! お父さんは、私を庇って守ろうとしただけだよ! なのになんで?!」
そのあまりにも悲しすぎる訴えに感極まったロバートは、サッとしゃがみ込み、メイの小さな体をギュッと抱きしめた。
「メイ……キミのお父さんは何も悪くねぇ! 悪くねぇんだ……!」
「じゃあ、どうして! うぅっ……やだよぅ……やだよぅ……」
メイの涙で胸を濡らすロバートは、心の中で毒づく。
───ちくしょう……! なんで世の中はこんなにクソなんだ。なんであの優しい父親がフェクターになって、あのクソヤローが貴族ってだけで守られてんだよ! けど、一番許せねぇのは……
ロバートはそこまで毒づくと、自らを呪う。
───この俺の弱さだ。俺はなんでこんな無力なんだ。泣いてるメイを抱きしめる事しか出来ねぇなんて……! 俺がメイにしてあげられるのは、せめて……
自らを呪ったロバートは、メイを抱きしめていた手をスッと離すと、意を決して立ち上がった。
そして、衛生兵の隊長として皆に大きな声で号令をかける。
「お前ら! 全力でいくぞ!!」
「隊長?!」
悲愴な顔をハッと振り向けてきた部下達に、ロバートは全てを負う覚悟を持って告げる。
「……分かってる。お前らもきっと同じ気持ちだろう。けどな、俺達はこの街を守らなきゃいけない!」
ロバートは皆にそこまで告げると、手から血が滲み出るほどグググッと拳を握った。
無論、心はすでに血の涙を流している。
「だから……せめて、せめてメイの父親が苦しまないように、全力で一秒でも早く倒すんだ!」
「隊長……」
「いくぞお前ら!!」
「……オォォォォッ!!」
ロバートが部下達とフェクターに向かい突撃していった時、メイはロバートに向かって叫んだ。
「やめてー! お父さんを殺さないでーー!!」
その叫びを背中から受けたロバート達は、胸が張り裂けそうな思いに駆られながら思う。
この子の苦しみに比べたら、今から自分がフェクターにどんな攻撃を喰らおうと、その比ではないと。
───メイ。ごめん、本当にごめんな……!!!
ロバートも部下達も、己の非力さからくる怒りと悔しさを噛み締めながらフェクターに向かっていく。
が、その時だった。
ロバート達とフェクターとの間に上空から、ズドンッ!! と、いう轟音と共に男が斬撃を放ちながら舞い降り、その衝撃で辺りに砂塵が吹き上がったのだ。
「な、なんだ一体?!」
ロバートが驚きながら砂塵の向こうに目を凝らしていると、晴れていく砂塵の中に、金色の刺繍を施された白のロングジャケットを身に纏った、美青年の姿が見えてきた。
「ア、アンタは一体……?」
「砂埃を立ててしまってすまない。俺はエデン・ノーティス。剣士見習いだ。キミは?」
「け、剣士見習ぃっ?!」
ロバートは思わず声を上げてしまった。
ノーティスが叩き斬った大地を見ながら。
「お、俺は、ここの衛生兵の隊長ロバートってもんだけどよ……お前さんが見習いなんて嘘だろ?! こんな斬撃、冒険者だって出来やしねぇ」
「う〜ん、そう言われてもまだ一応見習いなんだ。けどロバート、それよりもこの状況は……」
ノーティスが辺りをチラッと見渡すと、その瞳には倒れてる衛生兵達や傷付いた人々。
そして、破壊された建物の間で、グルルルルッ!と、湿った吐息を吐きながら、自分を見下ろすフェクターが映った。
「ロバート、なぜフェクターが発生した?」
「それはあのヤローが……」
ロバートが悔しそうにそう告げ、騎士達に守られているバルガスの方をチラッと見た時、残りはロバートの隣で泣いてるメイの涙が教えてくれた。
「なるほどな……フェクターはこの子の父親か。大方、あそこで騎士達に守られてる男が、この子の父親に何かをしたんだろ」
「なっ?! なぜそれを?」
「フッ、やはりか。ああいうヤツの顔は、今まで嫌という程見てきたからな」
ノーティスは昔を思い出し一瞬瞳を閉じると、涙を流すメイの前に行って跪いた。
そして、メイを優しい眼差しで包み込む。
「俺はノーティス。剣士見習いだ。キミの名前は?」
「メイ……」
「そうかメイ。もう大丈夫だから」
「うぅっ……ノーティス、お父さんを殺さないで。お願い……」
涙をボロボロ流しながら訴えてくるメイ。
ノーティスはそのメイの気持ちを真綿で包むように、澄んだ優しい瞳を向けたまま微笑む。
「殺さないよ」
「……本当に?」
「あぁ、約束だ。メイ、キミのお父さんを、必ず元の元気な姿でメイに返すよ」
ノーティスはメイにそう告げるとスッと立ち上がり、フェクターに澄みきった瞳で向かい合った。
「フェクター……」
「グルルルルッ……!」
フェクターは生暖かい吐息を吐いて睨みつけてくるが、ノーティスは臆する事無く告げる。
敵ではなく、まるで友に語りかけるかのように。
「……キミを必ず元の姿に戻し、メイの下へ返す!」
まるで、あの日のように見据えるノーティス……
次話はノーティスらしい戦いに。
ブックマーク、評価いただけると励みになります!




