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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第3章 白輝の勇者エデン・ノーティス
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cys:43 少女の涙と叫び

「どけっ! 貴様ら!」


 邪悪な騎士のバルガスは、ロバートら衛生兵が命をかけて戦う中、逃げ惑う人々を掻き分け一目散に避難した。

 そして、他の騎士達に守られている。


 そんなバルガスを、恨めしそうにギリッと睨むロバート。


───くそっ! フェクターに変えた張本人のクセに、何なんだよあの野郎は!

 ロバートが激しく憤る中、バルガスは周りの騎士達に向かい喚き立てている。


「お前ら俺を必ず守れよ! 俺様は貴族なんだ! お前らとは命の重さが違うんだからな!!」


 お飾りで騎士をしているバルガスにとって、これは紛れもない本心だ。


 貴族の息子として生まれたバルガスは、本来戦いとは無縁の場所で優雅に暮らしているが、社会勉強の一環という名目で騎士の格好をしてるだけだから。


 簡単に言えば、ただの箔付け。

 なので、鎧をちょっと汚されただけでメイにあれだけ激昂したのだ。


 もちろん皆それを分かっているし、騎士達だって本当はバルガスの事なんて守りたくない。


───なんでこんな奴が俺等の上なんだよ! 貴族ってだけで威張りくさってるヤツが……!


 ロバートだけでなく、その場の全ての人間達がそう思い憤っていると、メイは涙を流しながらロバートに訴えるような瞳を向けてきた。

 メイの汚れ無き瞳から、涙がボロボロ零れ落ちている。


「ねぇ、おじちゃん! お父さん、なんであんな風になっちゃったの?!」

「メイ、それは……」

「お父さんを返して! 返してよっ! うっ……うぅっ……わーーーーーん!」


 泣きじゃくるメイを前に、ロバートは悔しさで目をギュッと閉じた。


「俺だって、キミのお父さんを返してやりてぇ。けど……」


 ロバートはその後の言葉をグッと飲み込んだ。

 メイに言いたくなかったから。


 父親の事は、もう助けられないと。


 なぜなら、目の前のフェクターは剣も弓も通さない最強レベル。

 だから、魔力クリスタルを破壊して救うどころか、討伐出来るかすら分からないのだ。


 それを直感的に悟ったメイは、ロバートに涙を溢しながら訴える。


「お父さんが……お父さんが何をしたの?! お父さんは、私を(かば)って守ろうとしただけだよ! なのになんで?!」


 そのあまりにも悲しすぎる訴えに感極まったロバートは、サッとしゃがみ込み、メイの小さな体をギュッと抱きしめた。


「メイ……キミのお父さんは何も悪くねぇ! 悪くねぇんだ……!」

「じゃあ、どうして! うぅっ……やだよぅ……やだよぅ……」


 メイの涙で胸を濡らすロバートは、心の中で毒づく。


───ちくしょう……! なんで世の中はこんなにクソなんだ。なんであの優しい父親がフェクターになって、あのクソヤローが貴族ってだけで守られてんだよ! けど、一番許せねぇのは……


 ロバートはそこまで毒づくと、自らを呪う。


───この俺の弱さだ。俺はなんでこんな無力なんだ。泣いてるメイを抱きしめる事しか出来ねぇなんて……! 俺がメイにしてあげられるのは、せめて……


 自らを呪ったロバートは、メイを抱きしめていた手をスッと離すと、意を決して立ち上がった。

 そして、衛生兵の隊長として皆に大きな声で号令をかける。 


「お前ら! 全力でいくぞ!!」

「隊長?!」


 悲愴な顔をハッと振り向けてきた部下達に、ロバートは全てを負う覚悟を持って告げる。


「……分かってる。お前らもきっと同じ気持ちだろう。けどな、俺達はこの街を守らなきゃいけない!」


 ロバートは皆にそこまで告げると、手から血が滲み出るほどグググッと拳を握った。

 無論、心はすでに血の涙を流している。


「だから……せめて、せめてメイの父親が苦しまないように、全力で一秒でも早く倒すんだ!」

「隊長……」

「いくぞお前ら!!」

「……オォォォォッ!!」


 ロバートが部下達とフェクターに向かい突撃していった時、メイはロバートに向かって叫んだ。


「やめてー! お父さんを殺さないでーー!!」


 その叫びを背中から受けたロバート達は、胸が張り裂けそうな思いに駆られながら思う。

 この子の苦しみに比べたら、今から自分がフェクターにどんな攻撃を喰らおうと、その比ではないと。


───メイ。ごめん、本当にごめんな……!!!


 ロバートも部下達も、己の非力さからくる怒りと悔しさを噛み締めながらフェクターに向かっていく。


 が、その時だった。


 ロバート達とフェクターとの間に上空から、ズドンッ!! と、いう轟音と共に男が斬撃を放ちながら舞い降り、その衝撃で辺りに砂塵が吹き上がったのだ。


「な、なんだ一体?!」


 ロバートが驚きながら砂塵の向こうに目を凝らしていると、晴れていく砂塵の中に、金色の刺繍を施された白のロングジャケットを身に纏った、美青年の姿が見えてきた。


「ア、アンタは一体……?」

「砂埃を立ててしまってすまない。俺はエデン・ノーティス。剣士見習いだ。キミは?」

「け、剣士見習ぃっ?!」


 ロバートは思わず声を上げてしまった。

 ノーティスが叩き斬った大地を見ながら。


「お、俺は、ここの衛生兵の隊長ロバートってもんだけどよ……お前さんが見習いなんて嘘だろ?! こんな斬撃、冒険者だって出来やしねぇ」

「う〜ん、そう言われてもまだ一応見習いなんだ。けどロバート、それよりもこの状況は……」


 ノーティスが辺りをチラッと見渡すと、その瞳には倒れてる衛生兵達や傷付いた人々。

 そして、破壊された建物の間で、グルルルルッ!と、湿った吐息を吐きながら、自分を見下ろすフェクターが映った。


「ロバート、なぜフェクターが発生した?」

「それはあのヤローが……」


 ロバートが悔しそうにそう告げ、騎士達に守られているバルガスの方をチラッと見た時、残りはロバートの隣で泣いてるメイの涙が教えてくれた。


「なるほどな……フェクターはこの子の父親か。大方、あそこで騎士達に守られてる男が、この子の父親に何かをしたんだろ」

「なっ?! なぜそれを?」

「フッ、やはりか。ああいうヤツの顔は、今まで嫌という程見てきたからな」


 ノーティスは昔を思い出し一瞬瞳を閉じると、涙を流すメイの前に行って跪いた。

 そして、メイを優しい眼差しで包み込む。


「俺はノーティス。剣士見習いだ。キミの名前は?」

「メイ……」

「そうかメイ。もう大丈夫だから」

「うぅっ……ノーティス、お父さんを殺さないで。お願い……」


 涙をボロボロ流しながら訴えてくるメイ。

 ノーティスはそのメイの気持ちを真綿で包むように、澄んだ優しい瞳を向けたまま微笑む。


「殺さないよ」

「……本当に?」

「あぁ、約束だ。メイ、キミのお父さんを、必ず元の元気な姿でメイに返すよ」


 ノーティスはメイにそう告げるとスッと立ち上がり、フェクターに澄みきった瞳で向かい合った。


「フェクター……」

「グルルルルッ……!」


 フェクターは生暖かい吐息を吐いて睨みつけてくるが、ノーティスは臆する事無く告げる。

 敵ではなく、まるで友に語りかけるかのように。


「……キミを必ず元の姿に戻し、メイの下へ返す!」

まるで、あの日のように見据えるノーティス……



次話はノーティスらしい戦いに。

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