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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第3章 白輝の勇者エデン・ノーティス
42/251

cys:42 名より実

「セイラ、ありがとう」

「セイラさん、ありがとうございました!」


 みんなでワイワイ騒いだ翌朝、ノーティスとルミが支度を済ませお礼を言うと、セイラは両手を腰に当て、二人にグイッと身を乗り出した。


「二人共、また来なさいよ♪」

「あぁ、また来るよ。師匠にも宜しく」

「伝えとくわ」


 セイラはそう答えると、ルミの耳元に顔を近づけそっと囁く。


(ノーティスの事、今度押し倒しちゃいなさい♪)

(えっ、そ、そんな事出来ませんっ!)

(いーのよ。この子、女心、れ~点なんだから♪)

(セイラさんっ!)


 ルミが顔を火照らすとセイラはスッと顔を離し、孤児達と一緒に元気に手を振った。

 そのまま車に乗り込み、王都へ戻るノーティスとルミ。


「セイラさん、明るくて綺麗な人でしたね」

「あぁ……修行時代、あの明るさに何度も救われたよ」


 懐かしそうに零すノーティスの横顔を、ルミは運転しながらチラッと見た。

 二人の間に固い絆があるのが伝わってくる。


───でも私は……


 ルミがそう思った時、ノーティスは前を見ながら静かに告げる。


「一緒に戻ろう王都へ。これからが、俺とルミの本番だ」

「……はいっ!」


◆◆◆


 二人を乗せた車は、シルバーエリアとゴールドエリアの境目近くまで辿り着いた。


「ヤバイなルミ。昨日、休憩所で寝すぎたな」

「申し訳ございません、ノーティス様! 私とした事が……」


 ルミは申し訳ない気持ちに顔をうつむかせたまま、昨夜の事に想いを馳せている。


───ヤバい。昨日、ノーティス様の寝顔見てて、なかなか寝れなかったせいだ。あーもー私のバカッ!


 ルミは心で自分を叱りつけながらも、気持ちを押さえ車を飛ばす。

 今日は正午からノーティスの『勇者就任式』があるからだ。

 初日から遅刻なんて、それこそあり得ない。


───ただ、このスピードで行けばまだ間に合うハズ。


 ルミがそう思った時だった。

 ルミの左手前方の少し離れた場所から、ドンッ!! と、いう爆音が鳴り、その場所から噴煙が立ち上がったのだ。


───えっ、何?

───何が起こった?


 ルミとノーティスががそう思った時、車に備え付けてある魔力ポータルに、その答えが表示された。


『シルバーエリア・東北東・8739番地にフェクター発生』


 ルミはそれを見ると、大変な事が起こったと思う反面、内心ホッとした。


───こんな風に思うのもよくないけど、でも、王都へのコースじゃなくてよかった。


 けれど、そんなルミにノーティスは静かに告げる。


「ルミ……現場へ向かってくれ」

「えっ?! ノーティス様。あそこへ向かってしまったら、就任式に間に合いませんよ!」

「かもな」

「かもな、じゃないですよ。ノーティス様!」


 ルミがそう叫び運転する中、ノーティスは一瞬目を閉じアルカナートから言われた事を思い返していた。


『ノーティス。どっちか迷ったら、人を救う方を優先しろ。それが勇者だ』


───師匠……そうですよね。ありがとうございます。


 心の中で礼を告げたノーティスは、スッと瞳を開きルミに精悍な眼差しを向けた。

 ノーティス瞳が光に揺れる。


「ルミ、行くぞ。困ってる人を見捨てて、勇者になるなんてありえない!」

「ノーティス様、お気持ちは分かりますが……」

「ルミ……俺が名より実を取る事、知ってるよな」


 そう言われたルミは、ハァッと溜息をつき観念した。

 確かにノーティスはそういう人だから。

 けれど、同時に思う。


───でもノーティス様。私、アナタがそういう人だから、大好きになっちゃったんですよっ♪


 ルミは心でそう呟くと、力強くサッとハンドルを大きく切った。


◆◆◆


 ルミが勇ましくハンドルを切る三十分程前。


 穏やかな陽気に包まれている広場で、衛生兵の隊長ロバートは泣いているメイという少女を見つけた。


 話を聞くと、どうやら父親とはぐれ迷子になったらしい。

 なのでメイを肩車して一緒に探していると、メイは道の反対側に父親を見つけたので肩から降り、ロバートにニコッと笑った。

 屈託の無い天使の様な笑みを。


「ありがとう♪ おじちゃん」

「あぁ、今度ははぐれんじゃねぇぞ」


 ロバートはそう言ってニカッと笑うと、持ち場に戻る為に踵を返して歩き始めた。

 心の中で、まだおじちゃんって年じゃないんだけどなと零し、微笑みながら。


 が、次の瞬間だった。


「この、無礼者が!」


 という罵声が広場に響き渡り、その直後、広場に少女の泣き声がこだましたのだ。


「何だ一体?!」


 ハッとしたロバートは声の方へ駆けていくと、その瞳に映ったのは穏やかな陽気とは真逆の光景だった。


 大きな声で泣き叫んでいる少女を、父親が抱きしめながら守っていたのだ。

 二人の事を怒りに震えた冷酷な眼差しで見下ろす、邪悪なオーラを放つ騎士から。

 しかもその少女は、さっき自分が助けたメイだったからたまらない。


「メイっ!」


 そう叫んで駆け寄ろうとしたロバートだが、その場にいた人達に強く掴んで止められてしまった。


「ロバートさん、ダメだ!」

「なんでだよ?!」


 憤るロバートにその場の人達が言うには、まずこのトラブルの原因は、メイが手に持ってたジュースを行進中の騎士団の一人に間違えてかけてしまった事らしい。

 メイが道の反対側に父親を見つけ走って行った時、たまたま騎士団とぶつかってしまったのだ。


 しかも、そのジュースをかけてしまった騎士はただの騎士ではなく貴族の息子バルガス。


「だからロバートさん。今出てったらアンタまで処罰されちまうよ」

「けど、黙って見過ごせねぇだろ!」

「頼む。ロバートさんは処罰されてほしくないんだ」

「くっ……!」


 ロバートが引き止められている間、メイの父親はバルガスに向かい土下座をしていた。


「申し訳ございません! 私のせいです。ただ、娘には手を出さないで下さい!」

「はあっ? そうはいくかよ。その娘に、この私を侮辱した罰を与えなければ気がすまん」

「そこをどうか! どうかお願いいたします!」


 父親はバッと体を起こし、膝をついたままま両手を広げて娘を守り、バルガスを懇願する眼差しで見上げている。

 けれどバルガスは許さない。


「そこをどけ。どかないなら叩き斬るぞ!」

「どうかご容赦を!」

「チッ、だったら死ねよっ!!」


 バルガスは剣を片手で振りかぶり、勢いよく振り下ろした。


 ザシュッ!


「グハァッ!!」


 肩から胸にかけ大きく斬り裂かれ、血しぶきを上げドサッ! と、うつ伏せに倒れたメイの父親。

 バルガスはそれを見て、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

 そして、そんな父親の側で震える少女に手を伸ばす。


 が、何とか致命傷を免れた父親は、うつ伏せに倒れ大量の血を流したまま、バルガスの手をガシッと掴んだ。

 娘を助けたい一心で。


「娘には……手を、出すな……!」


 けれど、バルガスはそんな父親の顔を、まるで汚物を見るような目つきで睨みつけた。

 

「我らに守られてる分際のくせに……薄汚い手で触るな! この死にぞこないがあっ!」


 その咆哮と共に蹴り飛ばしたつま先が、少女の父親の顎をガシャッ! と、いう音共に砕く。


「グハッ!」


 蹴り飛ばされた父親は口から血を吐いた。

 しかし、それでも尚グッと体を起こそうとしている。

 娘を守りたい一心で。


「う……ぐっ……」


 しかし、そんな父親の瞳に映る。

 バルガスの魔の手が迫り、娘が泣き叫ぶ姿が。


「お父さーん!」

「うっ……ううっ、メイ……っ!!」


 最愛の娘を助けたいのに助けられない。

 その余りにも強く大きい悲しみのエネルギーが、クリスタルの魔力回路を駆け巡る。


「うぐっ! あっ……あっ……」


 ノーティス達のように強力な戦士であれば、大きな悲しみでもクリスタルは制御出来る。

 けれど、メイの父親のような一般人はそうはいかない。

 あまりにも強い感情の爆発が、魔力回路を狂わせ暴走させてしまうのだ。


「グ……グ……グガァァァァァッ!!」


 そして、メイの父親はフェクターになってしまった。

 暴走した魔力クリスタルを破壊するか、その命を絶たない限り、決して元に戻れない残酷な姿に……


◆◆◆


 そんな事情があったのは知らないノーティスだが、ルミの運転に揺られながら思い出していた。

 あの日、少女から貰った『魔法のハンカチ』を見つめながら。


───キミは今、何をしているのかな……元気かな……俺はあの時キミから吹き込んで貰った命と、師匠に授けてもらった力で、これから人を必ず救ってみせる……!


 ノーティスがそんな想いを馳せる中、フェクターは人と街を破壊していた。

 体ではなく、心から血を流したまま……

ノーティスは間に合う事が出来るのか……

次話は少女の涙をノーティスが止めます。

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