cys:40 アルカナートの謎
───ハッ!
ルミは目を覚まして上半身をガバっと勢いよく上げると、そこはもう闘技場ではなく、ノーティスの自宅だった。
そして右側には、椅子に座ったまま腕を組んで眠っているノーティスの姿が……
ルミが眠った後、ずっとそこで見守っていた事が伝わってくる。
「ノーティス樣……」
ルミはノーティスの寝顔を見つめたまま華奢な手を伸ばし、顔をそっと近づけた。
───綺麗な寝顔……私、執事なのに、ノーティス様にはずっとお世話になりっぱなしです。
ルミの胸がトクンと波打つ。
「ノーティス様、私は……」
ルミは静かに声を漏らし、ドキドキしながらノーティスの唇に自分の唇を近づけていく……
が、その時、部屋のドアがガチャっと開き、ルミは慌ててノーティスからバッと飛び退いた。
「あっ、お姉ちゃん起きてたんだ! よかったー♪」
「う、うん。エ、エレナ。お、おはよう!」
「ん? お姉ちゃん、どうかしたの? それにまだ夜だよ」
「ううんっ、何でもないよ。いやー、凄く寝ちゃったなーって思って」
間一髪見られなかったものの、慌ててしろもとどろのルミ。
起きたばかりなのに、全力疾走したかの如く心臓はバクバクだ。
エレナはそんなルミを、ふーんといった顔をしてまじまじと見つめる。
「お姉ちゃん……」
「な、なに?」
「顔真っ赤だし、汗だくだよ。まだ体調良くないの?」
「あっ、あぁ。ちょっと疲れたまってかもー」
「だよね。じゃあ、ここにお粥置いとくから、よかったら食べてね」
「ありがとう、エレナ」
ルミがそう言うと、エレナは少し切ない笑顔でルミを見つめながら、ドアをパタンと閉めた。
そして、ドアを背に当てたまま切なく零す。
実はさっきの場面、一瞬見てしまったから。
「あーーあっ。やっぱり好きなんじゃん。それに、何かお似合いだったな……」
エレナがそう呟いたのも知らないまま、ルミはドキドキしながら、ベットの中からノーティスの横顔を見つめていた。
◆◆◆
「んっ……」
ノーティスが目を覚ましベットを見ると、そこに寝ているハズのルミはいなかった。
───あれ? ルミいつの間に……
そう思い居間の方へ行くと、テーブルの上にはズラッと朝食が並び、ルミが席についてノーティスに微笑んでいる。
「ノーティス樣、おはようございます♪」
「おっ、ルミ。もう大丈夫なのか? それにこの朝食は……」
「はいっ♪ お陰様でもう大丈夫ですので、作っておきました」
「そっか……よかった。ありがとうなルミ」
ノーティスはそう言って席につき、ルミと大きなテーブルを挟んで食事を始めた。
「ノーティス様、紅茶のお味はいかがですか?」
「うん、美味しい。やっぱルミが煎れてくれた紅茶が一番だよ」
するとルミは紅茶を綺麗に口につけながら、チラッと上目遣いでノーティスを見た。
嬉しくドキドキする気持ちを、紅茶を飲んで落ち着ける。
「……ありがとうございます♪」
そして紅茶をソーサーにカチャッと置くと、ノーティスに満面の笑みを向けた。
「ノーティス様♪ ギルド検定試験に合格、おめでとうございます!!」
「……ありがとう! ルミのお陰だよ」
優しく微笑んだノーティス。
それに、またドキッとしてしまったルミは軽く瞳を伏せた。
「いえっ、私は何も……むしろ、色々ご迷惑おかけしちゃって……」
「いや、ルミがエレナを守ってくれたからこそ、俺は合格出来たんだ」
「そんな……エレナは私の大切な妹ですから当然の事をしただけです」
軽く瞳を伏せ静かに微笑むルミに、ノーティスは優しい眼差しを向けている。
「ルミ、今から俺の故郷に一緒に行ってほしい」
「えっ?」
「ルミと一緒に行きたいんだ。師匠とセイラに会いに」
「あ、あの方々にですか?」
脳裏にアルカナートの事が浮かんだ。
ノーティスが王都に来る際、執事としての契約の為に一度顔合わせをしたからだ。
けれど、セイラとはまだ会った事が無かった。
───そういえば、セイラ様とはまだ直接お会いした事はなかったっけ。どんな人なんだろう……? ほとんど一緒に暮らしてるような感じだって聞いたけど……
ルミがその事に想いを巡らせていると、ノーティスがサラッと告げてくる。
「あぁ。二人にちゃんと報告しておきたいから」
───ほ、報告っ?! そ、それって……
ルミはドキッとして、食事を喉に軽く詰まらせた。
そして、火照らせた顔でノーティスを見つめる。
「えっ! あの、報告って何を?」
「ん? 何って、合格した事をさ」
サラッとそう答えたノーティスに、完全に肩透かしを喰らったルミ。
一瞬体をピタッと止めて、納得しながら話す。
「あっ、あーーそう、そうですよね。ハイ。報告しなきゃいけないですね……」
「あっ、あぁ……そうだよ」
どうしたんだ? という顔でノーティスが見つめる中、ルミは、一瞬別の事を期待してしまった自分を罵る。
───あーーもうっ、私ったら何を考えてるのよ。でも、ノーティス様の言い方も、ちょっと紛らわしいですよ……
心でそうボヤいたルミは、紅茶を片手でクイッと飲むと、サッとソーサーに置いてスッと立ち上がった。
こんな事はルミにとって日常茶飯事。
いちいち気にしていたら、ノーティスの執事は務まらない。
「よし、じゃあ行きましょう! ノーティス様♪」
◆◆◆
車を飛ばして早二十五時間……
途中休憩を挟んだとはいえ、プラチナゴールドエリアからブロンズエリアまでは遠い。
一つ一つのエリアは広大だし、何十区画にも分かれているからだ。
なので、だいぶ時間がかかってしまった二人は、車から降りると大きく伸びをした。
「んーーーノーティス様、お疲れ様でしたー♪」
「おーーーっ、ありがとうルミ。やっと着いたな」
「はい♪ 長旅ご苦労様でした」
ルミがニコッと微笑む側で、ノーティスは少し懐かしそうに周りを見渡すと、ルミと並んで歩き始めた。
直接車で行ってもいいのだが、少し歩きたいとノーティスが言ったからだ。
そして少し歩いた所で、ルミはちょっと不思議そうな顔をノーティスに向けた。
「けれどノーティス様、あの方々、本当にブロンズエリアにお住まいなんですか?」
「うん。まあ一応そうだよ」
「う〜ん。あの方々なら、プラチナゴールドエリアにも住めるハズなのに……」
少し唸ったルミに、ノーティスは補足する。
「あぁ。けど、師匠は自由の剣で人を助ける為に、色んなエリアに行ってるし、家も幾つもあるような無いような……」
「ハハッ、さすがスケールが違いますね……あっ、でも、確かあの方は剣を置いたのでは?」
すると、ノーティス少し切ない顔を浮かべた。
端正な横顔に少し影が差す。
「うん……勇者としては」
「どういう事ですか?」
そう問いかけられたノーティスは、少し切ない横顔を向けたまま一瞬目を閉じた。
「……勇者として剣を持つ資格はない。師匠は俺と初めて出会った時に、そう言ってた……」
「そんな……剣聖とまで言われた方なのに、一体なぜですか?!」
悲しく謎めいた顔を浮べたルミ。
けれど、それも仕方ない。
もしアルカナートが勇者失格なら、一体誰が相応しいのか分からないから。
また、あの傲岸不遜なアルカナートが言うセリフとは思えないのだ。
「セイラはそれを知ってるけど……師匠に口止めされてる」
「そうなんですか……でもやはり知ってますよね。セイラ様はアルカナート様が率いていた、伝説のパーティのお一人ですもんね」
「あぁ……けど、師匠は昔言ってくれたんだ。一人前の勇者になったら教えてやるって」
「では……!」
サッと身を乗り出したルミに、ノーティスは力強く微笑む。
「あぁ、今日聞けるかもしれない」
「そうですね……!」
ルミは精悍な顔で笑みを浮かべると、今度はフワッとした笑顔で尋ねる。
「そういえば、セイラ様ってどんな方なんですか?」
するとノーティスは表情を変え、懐かしさと愛しさが混じった顔をルミに向けた。
「セイラは、思いやりがあって愛に溢れてる、可愛くて綺麗な大人の女性だよ」
「ふーん、そうなんですね」
ちょっとふてったルミ。
ノーティスがセイラの事を、自分の前で大絶賛するからだ。
けれど、女心れ〜点のノーティスは、そんな事は全く分からず話を続けいく。
「それに、孤児達を救う為に、シルバーとブロンズの境目で寮を営んでるんだから凄いよな。まあ言ってみたら、明るい女神様かな♪」
「す、素敵な方ですね」
嫉妬しつつも怒れないルミ。
セイラの素晴らしさは認めるしかないからだ。
───セイラ様って本当に凄いな。そりゃノーティス様も好きになるわよね……
そんなルミの心も知らず、楽しそうにセイラの話を続けるノーティス。
悪気0だから始末に負えない。
「それに、セイラの所には色んな人が来るし、師匠も俺の修行時代には当然毎日来てたよ。修行は厳しかったけど楽しかったなー♪」
ノーティスは嬉しそうな顔を浮かべ、ルミに修行時代の事を話しながら歩いていたが、そんな中、不意に後ろから呼びかけられた。
「ノーティス……?」
その声にノーティスはハッと振り向いた。
すると、なんとその目に飛び込んできたのは、嬉しそうに目を大きく開け、自分を見つめているセイラの姿だった。
「セイラ!」
久々の再会……!
次話はセイラとルミを交えたほのぼの回です。




