cys:38 笑うジーク
「ジーク、これは?!」
ノーティスは思わず目を大きく見開いた。
ジークから受け取った小瓶の中には、何と血清ではなく小さな鍵が入っていたのだ。
「ヘヘッ……そーゆー事よ」
ジークのその笑みに、ハッと気付いたノーティス。
「まさかジーク……」
「あぁ、あの嬢ちゃんに毒なんて打ってねぇさ。まあ……演出の為に軽い睡眠薬は飲んでもらったけどな……」
苦しそうにしながらもニヤリと笑ったジークを、ノーティスは切なく見下ろす。
「ジーク、お前ってヤツは……」
「けどよ、その演出が効く前に勝負は着いちまった。ハハッ……やっぱ、小細工なんてガラにもねぇ事は、するもんじゃねぇな」
「そこまでして俺と……」
「すまねぇ。それに、嬢ちゃんにもな……けどよ、どーしても俺は、本気のお前さんと戦いたかったのさ」
ジークは負けた事の悔しさよりも、全力で戦えた事に満足気な笑みを浮かべた。
根っからの戦士で豪快でガサツな性格だが、気のいい男だというのが伝わってくる。
「ジーク……!」
切なく零したノーティスに、ジークはニッと笑う。
「早く行ってやんな。あの嬢ちゃん、あそこで寝かす訳にはいかねぇだろ」
そう言われたノーティスは、ジークから受け取った鍵をグッと握り締めた。
そして、ジークに背を向けルミのもとへ向かい手錠と縄と猿ぐつわを外す。
「ルミっ」
「ノーティス様……!」
涙を浮かべ抱きついてきたルミを、ノーティスはギュッと抱きしめた。
ルミの柔らかく華奢な体がブルブル震えている。
「ルミ、もう大丈夫だ。よく頑張った」
「うぅっ、ノーティス様……」
涙を零すルミをノーティスはしばらく優しく抱きしめると、ゆっくりレイとエレナの下へ向かった。
すると、レイはノーティスを見てニッと笑う。
「全く、危なかっかしいわね♪」
「レイ、ありがとう。ジークに勝てたのはキミのお陰だ」
「フフッ、まあでも最後はちゃんと美しく戦えたから許してあげるわ♪」
レイがそう言って微笑むと、側に立ってたエレナは涙を浮かべたまま、ルミにタタッと駆け寄り抱きついた。
「お姉ちゃん!」
「エレナ……」
ルミは自分に抱きついてきたエレナにちょっと驚き、ハッとした顔でエレナを見つめる。
「エレナ……てっきりノーティスに抱きつくと思ってたのに……♪」
「だって、お姉ちゃんあの時私を庇ってくれたもん!」
それを側で聞いたノーティスは、思わずハッとエレナを見つめた。
庇った話は聞いていなかったから。
「エレナ、どういう事だ」
するとエレナは、ルミの胸に横顔を埋めたまま涙声で答える。
「さっきね、ジークの部下に、二人とも拐われそうになったんだけど……その時お姉ちゃんが守ってくれたの『エレナに触れる事は許しません! 連れ去るなら私だけにしなさい!』 って言って。うぅっ……」
涙の乾かぬエレナ。
その涙と共に、今まであったわだかまりが溶けていく。
そんなエレナを、ルミは優しく撫でながら見つめた。
「当たり前でしょ。私はエレナの姉なんだから」
「ううっ……お姉ちゃーーん。今までごめんなさい!」
「いいのよエレナ。アナタを守れてよかった。けど、ごめんね……安心したら……なんかすごく……ねむくなっ……」
そう零し倒れ込む様に眠ったルミの身体は、エレナからズズッと離れた。
「お姉ちゃん!」
ドサッと倒れかけたルミ。
だが、ノーティスがルミをサッと抱きかかえ、そのまま近くの観客席にそっと横たわらせた。
「ノーティス! お姉ちゃんは?!」
「大丈夫。軽い睡眠薬と疲れで眠ってるだけさ」
「えっ?」
「ジークが盛ったのは、軽い睡眠薬だったんだ」
「ふぇっ、よかった〜~~」
安堵の声を漏らしその場にへたり込んだエレナ。
そんな中、レイは仰向けに倒れているジークの側へ歩み寄るとジッと見下ろした。
レイを照らす月明かりがミステリアスな後光のように輝き、まるで月の女王のようだ。
「ジーク、もう気は済んだかしら? 大分味わったみたいだけど」
「あぁ、たっぷりとな……まったく、最高のディナーだったぜ……!」
ジークが仰向けのまま目を閉じ満足そうにニッと笑うと、レイも嬉しそうに微笑む。
「ジーク、それはよかったわ♪ じゃあ、合格よね」
「ハンッ、たりめーだろレイ。もしアイツが不合格なら……誰も試験に受かるヤツなんざいねーさ」
最高の戦いの余韻を全身で味わいながら、ニヤッと笑ったジーク。
「フフッ♪ そうね。その答えは美しいわ」
レイはそう言ってジークに微笑むと、サッとノーティスの方へ振り向いた。
「ノーティス、来なさい!」
「レイ……なんだ?」
「いいから! 早く!」
レイに大きな声で呼ばれたノーティスは、レイとジークのいる場所に向かった。
「レイ、ジーク……」
何を言われるんだという顔をしたノーティスに、レイは華美な光を宿した瞳を向け力強く微笑んだ。
「ノーティス、よくやったわね♪ これでギルド検定試験は全て合格よ!」
「えっ?」
「当然でしょ♪ アナタの実技試験は、彼が担当する予定だったんだから」
レイがそう言ってニッと笑みを浮かべると、ジークも倒れたままノーティスに顔を向けて不敵に笑う。
「そうだぜ。けど……レイがお前さんの実技試験は免除だなんて言うから、こうしちまっただけだ」
「仕方ないでしょ。一刻も早く力になってほしいし、それに……」
そこまで言って言葉を止めたレイを、ノーティスはちょっと不思議そうに見つめた。
「どうしたレイ。顔が赤いけど、熱でもあるのか?」
「な、なんでも無いわよ!」
ちょっと怒鳴り顔をサッと背向けたレイを見て、ジークは軽く顔をしかめて笑う。
レイがノーティスの事を仲間としてだけではなく、男として惚れてる事が分かったからだ。
「けっ、お前さんもらしくねぇ顔しやがって」
「うるさいわね!」
背を向けたまま怒鳴ったレイと、倒れたままのジーク。
女心れ~点のノーティスには、今のやり取りの意味は分かっていない。
ただもちろん、ギルド検定試験に合格したというのは分かる。
それ自体は凄く名誉な事であるハズなのだが、ノーティスは切なく腑に落ちない顔をして二人を見つめた。
「レイ、ジーク。俺はこの合格、受ける資格が無い……!」
なぜノーティスは、こんな事を言ったのか……
次話はノーティスの気持ちと試験の真意が明らかに。




