cys:32 アンリの『クリスタル・ゲート』
「えっ? 降参って……」
ノーティスは逆に戸惑ってしまった。
一体なぜアンリが突然降参してきたのか、全く分からなかったから。
けれど、アンリが完全に闘気も消したので自分も闘気を収めた。
「なぜだアンリ? なぜワザワザこんな事を……」
「ニャハハッ♪ まっ、それについては今から答えるニャ♪」
アンリがそう言ってニカッと笑うと、ルミを閉じ込めていた透明な箱がシュッと開いた。
「あっ……」
ルミは一瞬呆けた顔をしたが、すぐにノーティスに向かってタタッと駆け出した。
ルミの乾いた足音が部屋に響く。
「ノーティス様!」
「ルミ!」
ノーティスはルミがギュッと抱きついてくると、優しくギュッと抱きしめた。
「良かった……ルミ」
「申し訳ございませんノーティス様。ご迷惑をおかけしました……!」
「気にするな。あんなん防ぎようがないさ。それよりも、ルミが無事で本当によかった!」
ノーティスから安堵の気持ちが溢れ出ている。
それを感じたルミは、うるっと涙を浮かべノーティスを見上げた。
「私、ノーティス様にあんな態度取ってしまったのに……」
そんなルミに、ノーティスは澄んだ瞳を向けて優しく微笑んだ。
「ルミ、いいんだよ。ルミのそういう所も含めて、ルミは俺の大切な人だから」
「うぅっ、ノーティス様ーーっ♪」
再びノーティスの胸に顔をうずめ涙を零すルミと、そんなルミの頭を優しく撫でるノーティス。
それを見ているエレナは、バタつきたいのをグッと堪えていた。
───またお姉ちゃんバッかりズルいーーー! でも……
今はルミが無事だった事がエレナも本当に嬉しかったし、今騒いだとしても、ノーティスからは呆れられるだけど分かっているからだ。
それはエレナの望む事ではない。
───今はいいよ。それに、本当によかった……
ちょっと切なさを感じているエレナをよそに、ノーティスはルミを片手で抱きかかえたまま、アンリを精悍な瞳で見据えた。
ルミが無事で安堵はしたが、不可解な気持ちは残ったままだから。
「アンリ、ルミをさらった本当の目的は何だ?」
「すまんすまん、でも実際に危害を加えた訳でもないし、そう怒らなくてもよかろーーー」
「いやアンリ、そういう問題じゃない。ちゃんと話してもらうぜ」
するとアンリは、ノーティスをジッと見つめたまま飄々と答えていく。
さっきまでと違い、いつものアンリの雰囲気だ。
「ふむぅ……理由は二つニャ♪ 一つはノーティス。お主の光の力がどれだけのモノか、測定したかったのじゃ」
「測定? なんでわざわざ……俺は勇者志望だから、魔力測定検査は無いハズだけど」
「その理由が、二つ目の理由ニャ♪」
アンリはそう告げ、アーチがかかった大きな鉄製の扉のような物の前に行くと、それに手をそっと翳し解除の呪文を唱えた。
すると扉のような物はブワンッと消え、そこには何と円形の大きな工作物があった。
鉄製で出来ていて、真ん中には大きな穴が開いている。
「これニャ♪」
アンリが指し示したそれには、六つの位置に魔力クリスタルが配置されていた。
「アレはまさか……!」
「赤、青、黄、緑、ピンクの魔力クリスタルと、一番上には色の無いクリスタルがある……なんか、凄い作りをしてますね!」
「わぁっ、キラキラしてて綺麗だし、何か不思議ーー♪」
ノーティス達が各々の感想を抱く中、アンリは得意げな顔をグイッと向けた。
自信と悦びが全身から溢れている。
「これは私が作った、異世界への門じゃ♪」
そして満面の笑みを浮かべると、スラッとした両腕を斜め上に広げた。
「名付けて『クリスタル・ゲート』ニャ♪」
「異世界だって?」
ハッとし目を見開いたノーティス。
クリスタルの配置に意味がある事に気付いたからだ。
「アンリ、このクリスタルの配置は『六芒星』を創り出しているのか!」
「ニャニャッ! さっすがノーティスだの。そのとーりじゃ♪」
ノーティスの洞察力に感嘆の声を上げ、嬉しそうに笑ったアンリ。
そのアンリを前に、ノーティスはクリスタルゲートを興味深そうにジッと見つめている。
───異世界……ゲート……六つの魔力クリスタルと六芒星。これに通じる物は……まさか!
ノーティスが真相に辿り着き目を大きく見開くと、アンリはニッと笑い、魔力を保存する小瓶をサッと取り出して掲げた。
「そう、これが必要だったのじゃ」
「それは『マジック・アーカイブ』! と、いう事はやはり……」
「そうじゃノーティス。お主の白輝の力がどうしても必要だったのニャ♪」
アンリはその小瓶を持ちノーティス達にスッと背を向けると、クリスタルゲートの方へゆっくり歩きながら話を続ける。
「このクリスタルゲートは、クリスタルの魔力によって動くのじゃが、ご覧の通りニャ」
アンリは、ゲートの一番上の中央に設置してある白輝のクリスタルを指さした。
「この白輝の魔力クリスタルは、私が考えうる限り、お主の持つ光の魔力によってしか作動せんのニャ」
アンリはそこまで言うとノーティスに振り返り、少しすまなそうな顔をして、両手でゴメンのポーズを取った。
「じゃから、すまんのぉ。お主の光のエネルギーが、 どーしても欲しかったのじゃ」
「だから、ワザと俺を怒らせるような事を……」
ノーティスはそこまで言った時、ハッとしてルミの方へ振り向く。
「まさか、ここまでの事をアンリから聞かされていたのか?」
「いえ、ここまで詳しくは聞かされてませんが、私に危害が及ばないように、ここへ入ってろと言われまして……」
ルミがそう答えると、アンリはニヤッと笑みを浮かべた。
「万が一戦いになって、お主の大切な人に傷が一つでも付いたらいかんからの♪」
「アンリ……! 荒い口調になってすまなかった」
ノーティスがすまなそうにうつむくと、アンリはニコッと微笑んだ。
「気にするでない。私が勝手にルミを召喚して、お主をワザと怒らせたんだからの。むしろ、こちらこそすまなかったな」
「アンリ……」
「ニャハハハッ♪ まあその分、今から凄い物を見せてやるニャ♪」
アンリはそう言って笑うと、ワクワクしながらマジックアーカイブの差込口を開いた。
「じゃーーーついに、白輝の光の魔力を注入するニャッ♪」
そう宣言して、マジックアーカイブをカチャッと差し込んだ。
すると六つの魔力クリスタルがキュイーン! と、いう音共に強く光輝き、その光が六芒星の形を作り出していった。
そして、その装置から放たれたエネルギーがゲート内の空間を歪めていく。
「おおっ! やはり間違いニャかった。ついに、異界へのゲートが開くニャ! どんな世界ニャんだーーーーー?!!」
長年の研究成果が実り、歓喜に打ち震えながら異世界へのゲートを見続けるアンリ。
もちろん、ノーティス達も恐れと好奇心に彩られた瞳でゲートをジッと見続けている。
すると、スマート・ミレニアムとはまるで違う雰囲気の、巨大な四角い建物が立ち並ぶ異世界の姿が、ゲートの中に見えてきた。
「おおおおっ! これが異世界か! 凄いニャ!!」
歓喜の声を上げ瞳を輝かすアンリと、そのゲートを目を大きくして見つめているノーティス達。
が、しかしその時だった。
ノーティスは、その景色を見た瞬間襲われてしまったのだ。
頭が割れるような強烈な頭痛に。
「くっ……! な、なんだこれは……あ、頭が……」
苦痛に顔を歪め、両手で額を押さえその場にドサッと跪いたノーティス。
「ぐっ……!!」
「ノーティス様、大丈夫ですか!!」
「ノーティス大丈夫?!」
悲痛な表情でノーティスの顔を上から覗き込む、ルミとエレナ。
その姿に、アンリもハッとして顔を振り返らせた。
「ノーティス、どうしたのじゃ!」
するとその時、突如ゲートに漆黒のエネルギーがブワッと舞い込み、ジジジッ……という音と共にゲートを強制的に塞ぎ始めた。
───なっ!?
アンリは異変に気付きゲートにサッと向き直ると、それを見て驚き目をカッと見開いた。
「そ、そんな馬鹿ニャ! まだエネルギーは大量に残っておるし、どこにも不具合は無いハズじゃ!」
だがアンリの想いも虚しく、ゲートはドンドン閉じていく。
「くっ! なぜニャ……なぜニャーーー!!」
そして、完全に消えてしまった異界への扉とクリスタルの光。
その光景を見たアンリは、落胆すると同時に恐怖に戦慄した。
アンリは今の出来事の原因を脳内で高速にシミュレーションし、確信に近いモノがあったからだ。
───これは消えたのではない。誰かに消されたニャ……先程の漆黒のエネルギーは、まさか……! そんな……くっ………!
消えてしまった、いや、ほぼ間違いなく何者かに消されてしまったゲート。
それがあった虚空を、アンリはジッと見つめながら再び思考を巡らせていく。
そして、自分の出した結論に戦慄しながらも、アンリは跪いているノーティスに近寄りそっと顔を覗き込んだ。
「ノーティス、大丈夫かニャ?」
すると、ノーティスはゆっくりと立ち上がり、アンリにすまなそうな顔を向けた。
「も、もう、大丈夫です。ただ、さっき急に……」
「……『知らない記憶』が流れ込んできたのじゃろ?」
「な、なぜそれを?!」
ハッと驚いた顔を向けてきたノーティスを、アンリは一瞬目を閉じてからジッと見つめた。
「ノーティス、お主は……」
アンリはノーティスに、何をどう告げるのか……
次話はノーティスが重大な事に気付きます。




