cys:31 アンリの魔法陣
「召喚って……」
ノーティスは、少しゾクッとしながらエレナを見つめた。
召喚といえば聞こえはまあアレだが、そんなん誘拐以外の何物でもないからだ。
しかも、正体手掛かり共に全くの不明ときてる。
───けど、落ち着け俺。焦るよりも考えろ。少なくとも、師匠やセイラならそうするハズだ。
逸りそうになる気持ちを抑え、顎に軽く手を当て視線を落とすノーティス。
そんな中、エレナは人差し指を立ててノーティスに真剣な眼差しを向けた。
「うん。もちろん普通はちゃんと魔法陣書いて、そこと繋がった魔法陣同士が移動出来るんだけど、超一流の魔導士なら、一瞬で召喚する事も出来るって聞いた事あるし」
「あぁ、という事は……」
「うん。王宮魔導士の誰か。しかも間違いなくSランクね。じゃないと不可能だもん」
手掛かりが掴め、少しだけ安堵したノーティス。
───Sランクの王宮魔導士の誰か。けど、ルミだけを召喚したのはなぜだ……
そんなノーティスの脳裏に、咄嗟にロウとレイの二人の顔が思い浮かんだ。
───ロウか? いや、ロウは急にそんな事する人だとは思えない。だとしたらレイ? いや、レイならこんな事せずに直接出向いてくるハズだ。だとしたら……
ノーティスがそこまで思考を巡らせた時、ノーティスとエレナの目の前に、突然アンリが現れた。
「ヤッホー♪ この前ぶりじゃの」
「アナタは、王宮魔導士のアンリ!」
「えっ、マジでアンリ様だ! ノーティス、アンリ様とも知り合いなの?」
瞳をキラキラさせながら、ノーティスを見つめているエレナ。
元々ノーティスの事を大好きな上に、ミーハーな気持ちにも拍車がかかる。
ノーティスは、そんなエレナに少し困惑した顔を浮かべ、片手で後頭部を軽く掻いた。
「いや、知り合いというかこの前少しお世話になって……」
「やっぱそうじゃん♪ すごーい!」
胸の前で両手を組み、ノーティスとアンリをキラキラした瞳で見つめるエレナ。
そんなエレナを前に、アンリは少し呆れた顔を浮かべた。
「ノーティス、この子は誰じゃ?」
「この子はルミの妹の……そう、アンリ様、ルミが突然消えたんです!」
ノーティスがそう叫ぶと、アンリはニッと笑う。
「ノーティス、お主のルミは私が預かっておるニャ♪」
「えっ? なぜアンリ様が……」
「まあ、これからちゃんと話すニャ♪」
「いや、今すぐ話してもらう。ルミをどこへやった!」
ノーティスからキッと睨まれたアンリは、口をへの字に曲げて残念そうな表情を浮かべる。
「なんじゃ。せっかくお主らとちょっと遊んでから行こうと思ったのに、せっかちなヤツじゃニャ」
「ルミの安否が確認出来ないまま、遊びに行ける訳ないだろ!」
そう言い放ったノーティスに、アンリはヤレヤレのポーズを取って軽く目を閉じた。
「フゥッ。この前の事といい、お主はあの子の事になると、目の色が変わるのぅ♪」
───まっ、だから召喚したんだけどニャ♪
心でほくそ笑むアンリを、ノーティスはキツく睨んでいる。
「アンリ。もし万が一でもルミに危害が加えられていたら、例えアナタでも決して許さない!」
そんな怒りを滾らすノーティスに、アンリは飄々とした雰囲気で微笑む。
「まったく。言葉遣いも荒くなりおってからに、仕方のないヤツじゃ。では行くかニャ♪」
その瞬間、ノーティスとエレナの足元がボヤっと光ると、あっという間にその場から移動した。
◆◆◆
「ここは……!」
「えっ、マジでなんなの?! 凄〜〜い!」
驚いて周りを見渡すノーティスとエレナに、アンリは笑顔を向け両手を大きく斜め上に広げた。
「ようこそ! 我がマジックルームへ♪」
アンリから歓迎された二人だが、ノーティスの瞳にはそれよりも、その奥の透明な箱に閉じ込められている、ルミの姿が目に飛び込んできた。
「ルミっ!」
「ノーティス様っ!」
透明な縦長の箱に閉じ込められ、内側から助けを求めるルミ。
防音性のようで声は聞こえないが、ルミの姿を見たノーティスは、アンリをキッと睨んだ。
「アンリ!これはどういう事だ!」
エレナも、ルミの姿を見て驚き目を見開いた。
「お、お姉ちゃん!」
そんなエレナの隣で、ノーティスはアンリを睨みつけているが、アンリはニヤニヤ邪な笑みを浮べたまま答えない。
「くっ……アンリ。もしアナタを倒さなければルミを救えないのなら、俺は全力で戦わせてもらう!」
ノーティスは腰に下げてる鞘から剣をスッと抜き、両手で持ちアンリに構えた。
剣先がノーティスの怒りを示すかの如く、キラリと光る。
けれどアンリは臆するどころか、むしろそれを待ってましたとばかりにニヤッと笑みを浮かべた。
「かかってくるニャ♪ ただし、私はこれでもSランクの王宮魔導士、全力で来ないと無事じゃ済まないぞーーー♪」
アンリはそう言うと天井の方へ人差し指を向け、その上に大きなピンク色の魔法陣をブワンッと作り出し、ニパッと笑う。
「フンフフフ♪ フンッ♪ この魔法陣からの攻撃、お主に止められるかニャー?」
ふざけた口調とは裏腹に、魔法陣からは絶大な魔力がビリビリと伝わってくる。
「ノーティス、大丈夫なの?!」
不安な顔を向けギュッとしがみついてきたエレナに、ノーティスはアンリの方を向いたまま答える。
「問題ない」
───確かに凄まじいエネルギーだ。けど、レイのディオケア・フレアニクスには劣る。それに……
ノーティスはアンリから違和感を感じた。
が、その瞬間アンリはニヤアッと笑い、瞳をキラリと光らせノーティスを見下ろす。
今までの飄々とした顔ではなく、正に絶大な力を持つ魔道士の顔だ。
「ノーティス、その状態でよいのかニャ?」
「どうゆう意味だ?」
「知っておるぞ。お主の本当の力を」
「……!」
「万一お主が倒されたら、あのルミも無事では済まぬ。あの中の空気は、もって後十分じゃ」
そう告げニヤッと笑ったアンリを、ノーティスは歯を食いしばり睨みつけた。
「ふざけるなよアンリ……!」
「ルミを助けるか、光の力を封じて負けるか、それはお主の判断じゃ」
「くっ……」
剣を構えたまま、ギリッと歯を食いしばっているノーティス。
───師匠……合格して勇者になるまで、滅多に使うなと言われたこの力。大切な人を守る為に、敢えて使わせて頂きます……!
ルミを助ける為、ノーティスは全力で立ち向かう事を決めた。
「光のクリスタルの名の下に、輝け! 俺のクリスタルよ!!」
ノーティスは、自らの魔力クリスタルから溢れ出る煌めきを身に纏うと、アンリに向かい必殺剣の態勢を取った。
けれど、必殺剣を放つ前に問いかける。
「アンリ……アナタから全く殺気を感じないのはなぜなんだ?」
数瞬の間、ノーティスとアンリは互いを見据えた。
ノーティスの精悍な眼差しと、アンリのミステリアスな眼差しが交叉する。
すると、アンリはニヤッと笑い巨大な魔法陣をシュッと消し、パッと両手を上げた。
「ノーティス、降参だニャ♪」
アンリは何がしたかった事とは一体……?
次話はこの物語の謎が垣間見えます。
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