cys:28 本当の美しさ
「ノ、ノーティス様。なぜ……!」
ルミは思わず面食らったような顔で、ノーティスを見つめている。
確かにノーティスの事が心配で試験場に飛び込んできたものの、勝負は明らかにノーティスの勝ちだと一目で分かるからだ。
「なぜレイ様にトドメを刺そうなどと、お思いされてるのですか?! ノーティス樣は……ノーティス様はそんな方では無いハズです!」
ルミからそう怒鳴られたノーティスだが、とどまるどころか大きな声で笑い声を上げると、ルミに冷酷な眼差しを向けた。
いつもの優しい雰囲気は欠片もなく、残酷なオーラが全身から溢れ出ている。
「ルミ、お前何を甘っちょろい事言ってんだよ。この女はなぁ、俺に悪夢を見せた上に全力で殺そうとしてきたんだぞ!」
「で、ですがそれは勝負であって……」
「うるせぇよ! 元々この女は、俺を散々バカにしてきたんだ。このクソガキと同じ様にな。だから、殺されてとーぜんなんだよ!」
「ノーティス樣……」
哀しい瞳で見つめるルミ。
だが、ノーティスはそれを無視し再びエミリオとレイを蔑みながら見下ろすと、黒い薄ら笑いを浮かべた。
「まあ、簡単には殺さねぇ。この女をひん剥いて、プライドをズタズタに引き裂いてやる。んで、たっぷり凌辱してから、全身切り刻んで殺してやるよ。コイツの悔し涙はきっとそそるだろうな。クックック……」
ノーティスから溢れ出てくる、悪魔のような言葉と眼差し。
それを向けられたレイは、跪いた姿勢のままノーティスを見上げてブルッと震えた。
いつもは強気なレイも、あまりの恐怖に言葉が出てこない。
「うぅっ……くっ……」
それを目の当たりにしたルミは、ノーティスに訴えるような瞳を向けて身を乗り出した。
「ノーティス樣! そんな事やめてくだ……」
ルミがそこまで叫びかけた時だった。
ガシッ! と、いう音が響き、ノーティスが唇に血を滲ませた。
エミリオがノーティスを殴ったのだ。
もちろんノーティスは微動だにせず、エミリオを冷酷な眼差しで見下ろしている。
「エミリオ、キサマ……何の真似だ」
エミリオは、ノーティスを殴った拳をギュッと握りしめたまま、フゥッ……! フゥッ……! と、息を漏らし、瞳に恐怖を宿しながらも、それ以上の怒りを滾らす。
「ふ、ふざけるなよノーティス! ボクの命に替えても、姉さんには触れさせない!」
「はあっ? なーーにイキッてんだよ。俺より遥かに劣るザコの分際で、この俺に勝てると思ってるのか?」
ノーティスにギロッと睨まれたエミリオに、途轍もなく冷酷で強大な力がヒシヒシと伝わってくる。
エミリオの全身の細胞が、けたましい程の警戒音を恐怖と共に激しく鳴らす。
けど、エミリオは退かない。
全身にはち切れそうな程グググッ! と、力を込め、ノーティスを真っ直ぐ睨みつける。
「……勝てる勝てないじゃない。俺は……俺は、姉さんを守るんだ!!」
その言葉と姿にレイは感極まり、涙を浮べエミリオの背中を見上げた。
「ううっ、エミリオ……!」
恐怖ではなく弟の気持ちに涙を浮かべるレイを背に、エミリオは自らの魔力クリスタルを輝かす。
魂からの詠唱と共に。
「姉さんを守る為、真紅に煌け! ボクのクリスタルよ!!」
エミリオは力を全開放すると、ノーティスに向かい必殺剣の構えを取った。
髪の毛がブワッと波打ち、真紅のオーラが燃え上がる。
「姉さんは殺させない! 喰らえノーティス! 真紅の五連撃『スカーレット・テュエラ』!!」
エミリオの振り抜いた剣から、真紅の星屑のような五つの斬撃が放たれた。
しかし、その技がノーティスに通用するハズもなく、エミリオは逆にカウンターをくらい、上空に吹き飛ばされてしまった。
「うわぁぁぁぁっ!!」
そして、ドシャっと地面に体を打ちつけボロボロになりながらも、レイを見つめたまま腕を伸ばす。
「くっ……ね、姉さん……」
倒れたままレイを見つめ、涙を零すエミリオ。
ノーティスは、そんなエミリオにゆっくりと近寄り無慈悲な顔で見下ろすと、背中を片足でガシッ! と、踏みつけた。
「ぐはぁっ!」
「おぃおぃ、美しくねぇな。なんだこのザマは。あっ?」
ガシッ! ガシッ! ガシッ!
「ぐはぁっ!」
ノーティスはさらにエミリオを踏みつける。
「おいおい、汚ぇ声出してんじゃねぇよコラアッ!」
「ガハアッ!!」
口から血反吐を吐くエミリオを、楽しそうにニヤリと見下ろすノーティス。
「クックックッ……アーッハッハッハッ!」
悪魔の愉悦のような高笑いを上げたノーティスは、そのままニヤリと口角を上げた。
そして、エミリオの頭をガシッと掴んで覗き込む。
傷と涙にまみれたエミリオの顔を。
「醜くいよ。ダセェなお前。大好きな姉を守りたくて必死なのに守れない」
「うっ……ぐっ……」
「いくら力を滾らそうが、想いがあろうが、そのクソみたいな魔力クリスタルじゃ俺の輝きには敵わないんだよ。この、雑魚が」
ノーティスはそう告げるなりエミリオの顔をガシャ! と、地面に叩きつけた。
でも、エミリオはそんな状態にされてもググッと顔を上げレイを見つめる。
「ね、姉さん……」
すると、ノーティスはトドメと言わんばかりに、エミリオの首をガシッと片手で掴み吊るし上げた。
「くだらねぇ……何が姉だ。何がクロスフォード家だ。反吐が出るぜ。力のねぇヤツはなぁ、世界の片隅で震えて生きてるのがお似合いだ!」
ノーティスはそう吐き捨てると、そのままエミリオの身体をレイに向かい、片手でドサッと放り投げた。
「エミリオ!」
涙を浮かべながらエミリオを抱きしめるレイを、ノーティスは冷酷な眼差しで見下ろす。
「ブライドだけ高いザコ二人が抱き合うとは、クックック……実にお似合いだ」
ノーティスは二人を無慈悲な顔で嘲るが、レイとエミリオはまるでノーティスの言葉が聞こえないかのように、互いを見つめ合っている。
「エミリオ! しっかりなさい!」
「ね、姉さん、ごめんなさい……ボク、姉さんを守りたかったけど、出来なかった……」
「いいのよエミリオ! もう喋らないで!」
「ボク、しかもこんなにボロボロになっちゃって、醜いよね……姉さんの前でこんな姿見せて、本当にごめんなさい……ごめんなさい……」
自分の方が遥かに傷だらけなのにも関わらず、レイの身を案じ、レイに無様な姿を見せてしまった事を詫びるエミリオ。
レイはそんなエミリオを抱き締めながら、瞳に耐えてる涙をエミリオの頬にポタポタと零した。
「エミリオ、アナタは醜くくなんてないわ! だって、私の為に勝てないと分かってても、全力で守ろうとしてくれたじゃない!」
「姉さん……」
「エミリオ、アナタは美しいわ。私の誇り……いえ、愛してるわエミリオ!!」
レイはエミリオを強く抱きしめると、エミリオをそっと自分の後ろに置き、スッと立ち上がった。
体はボロボロに傷ついているが、その立ち姿はむしろ先程よりも、凛とした美しさに満ちている。
そして、美しく澄んだ瞳でノーティスを見つめた。
「いいわ、ノーティス。私を殺したければ殺しなさい。確かに私はアナタを蔑んだし、殺そうとしたんだから。でも……」
レイはそこまでいうと、両手を横にバッと広げた。
「エミリオだけは殺させない! 例えアナタにどんなに無様な姿にされても、守りきってみせるわ!」
レイはそう叫び、ノーティスをジッと見据える。
揺るがない想いと共に。
すると、ノーティスはそれまでの無慈悲で冷酷な眼差しをフッと消し、澄んだ瞳でレイに微笑んだ。
その瞬間、レイはハッと悟った。
「ノーティス……まさかアナタ?!」
「そうだレイ。それが本当の美しさだ」
ノーティスはレイに優しくそう告げ、話を続ける。
「確かに、美しい容姿や圧倒的強さ、魔力クリスタルの輝き。そのどれもが美しい。けど、あくまでそれは、目に見える表面的な美しさだ」
その言葉にハッとしたまま目を大きく開くレイと、痛みに苦しみながらレイを見つめるエミリオ。
ノーティスはその二人を、澄みきった瞳で優しく包み込む。
「本当の美しさは、キミを守ろうとして傷を負ったエミリオと、彼を守ろうとして立ち上がったレイ、キミの心だ」
そう告げられたレイは、まるでアルカナートから言われてるような錯覚に陥った。
そんなレイの事を、ノーティスは優しく見つめている。
無論、側で聞いているルミも、瞳に涙を浮べて口を両手で覆った。
「うぅっ、ノーティス……様!」
そんな中、ノーティスはレイに精悍な眼差しを向けたまま優しく微笑んだ。
「レイ、さっきも言った通り愛は……本当の美しさは目に見えないのさ」
その瞬間レイはその場にスッとへたり込み、エミリオの頭に優しく手を添えた。
そして、全てを悟った真の美しさを宿した瞳で見つめる。
「そっか……これが、あの人が言ってた事なのね……」
その姿は、まるで聖女のように温かい美しさに満ちていた。
ノーティスと戦い、本当の美しさに気付いたレイ……
次話はそれぞれの気持にケリをつける事に。
ブックマーク、評価いただけると励みになります\(^^ )
また、よければご感想ください。




