cys:26 強すぎた悪夢
「あれ、ここは……」
試験会場の広場にいたハズにも関わらず、ノーティスが周りを見渡すとそこは街中だった。
「ここは、俺が子供の頃に住んでたシルバーエリア……」
ノーティスがそう呟いた時、脳の中で何かがプツンッと切断された感覚が起こる。
「あれ? 俺は何をしてたんだっけ……」
何だか頭がボーっとしてきたノーティスだが、ふと気付いてハッとした。
「あっ、そうだ……俺は今日、学校を辞めさせられたんだった」
ノーティスはそれを『思い出して』トボトボ歩いていく。
すると突然、後ろから背中をドカッ! と、蹴り飛ばされ、真正面から地面にドシャッ! と、倒れてしまった。
「なっ……!」
ノーティスがうつ伏せのまま背中の方を振り返ると、元クラスメイトのキリトがノーティスの背に片足を乗せたまま、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ見下ろす姿が。
「おいノーティス。てめぇ無色のクリスタルのクセに、街ん中歩いてんじゃねーよ」
「全く、よく堂々と歩けたもんだよ」
「ホント、穢らわしいわ」
ノーティスは、そんな彼らをキッと睨み身体に力を入れ立ち上がろうとしたが、キリトはさらに強く背中をゲシッ! と、踏みつけてきた。
「おい! 何立とうとしてるんだよっ! この無色の落ちこぼれが!」
「ぐはっ!」
苦しい声を零し再び倒れたノーティスを、キリトは何度もガシガシ踏みつけ、それにつられオルフェも狂気を宿した笑みを浮かべ何度も踏みつける。
「アハハハハッ! いい気味だ。ほら、ほら! もっと痛がれよ! ハハハハハハッ!」
「ぐっ……! キリト、オルフェ、なぜここまでするんだ……」
ノーティスが痛みと苦しみに顔をギュッと歪めながら両手で頭を覆う中、キリトとオルフェはノーティスを足蹴にし続けている。
さらにそんな中、エリスが黒い笑みを浮かべノーティスを見下ろしてきた。
全身から、黒い邪悪なオーラが立ち昇っているように見える。
「アハッ、最高ーーっ♪ ゴミはちゃんと潰さなきゃね♪ アハハハハッ!」
エリスはそう言って黒い高嗤いを浮かべると、街の人達に向かい大声で叫んだ。
「皆様ーーー♪ ここに無色の魔力クリスタルを持つ呪われた人がいまーーーす!」
その声に反応し、ぞろぞろ集まってくる街の人達。
エリスはそんな彼らに、可愛く潤んだ瞳を向けて訴えてゆく。
「助けて下さい! あの男が『お前にも呪いの感染をさせてやる』って脅してきたんです。エーーーン」
もちろん内容も涙も全部嘘だが、エリスにとってこんな事はお手のモノだ。
そして、それに騙された街の人達は、シドとオルフェに踏みつけられているノーティスをギロッと睨み、手に道具を持ってノーティスに近寄っていくと、冷酷な眼差しで見下ろした。
「この、神に見放された悪魔め!」
「死ね! 呪われた子!」
「しかも、感染を広めようとするとは何事だ! ふざけやがって!」
皆、無色の魔力クリスタルのノーティスの事は、人ではないかのように罵倒し蹂躙していく。
神話という常識に縛られて……
ちなみにこれは悪夢の世界だが、今ノーティスが受けている仕打ちは、昔ノーティスが実際に受けてきた事そのモノだ。
まさに、ノーティスは幼少期の頃を悪夢の中で過ごしたに等しい。
───ううっ……! 俺が無色の魔力クリスタルだから……いずれ悪魔の呪いに感染し、皆を不幸にしちゃうから……でも……!
また、これは現実ではなく悪夢という事に、ノーティスは気付いていない。
記憶を封じられ、あまりにもリアルに作られてる世界だから。
言わば、記憶を封じられてタイムスリップさせられているのと同じだ。
その世界に、ノーティスを蔑む声がこだまする……
けれど、記憶は封じられていてもノーティスの心は昔と違う。
それがノーティスを奮い立たせた。
「……黙れっ!!!」
その叫びに皆が一瞬ビクッとして引いた隙に、ノーティスは傷ついた身体をググッと起こし、皆にグッと強い眼差しを向ける。
「無色のクリスタルだからって……それが何だってんだ! コレは俺の個性だ! 俺は無色の魔力クリスタルでも……必ず人を幸せにしてみせる!!」
ノーティスが彼らに真正面から叫ぶと、彼らは蒸発するようにスッと消えていった。
が、その直後ノーティスの前に現れたのは、なんとアルカナートとセイラだった。
夢とは不思議な物で、今度はその時の記憶が蘇る。
「師匠! セイラ!」
ノーティスは二人に向かい、に嬉しそうにダッと駆け寄った。
自分を愛し育ててくれた、本当の親以上に大好きな二人に。
しかし、ノーティスのその気持ちとは逆に、アルカナートはイラッとした顔を浮かべると、駆け寄ってきたノーティスを裏拳でガシッ!と、吹き飛ばした。
「うわっ!」
吹き飛ばされたノーティスは悲しく怯えた表情を浮かべ、倒れたままアルカナートを見つめる。
「し、師匠! なんで……」
「フンッ、馴れ馴れしく近寄るな。この、無色の落ちこぼれが……!」
アルカナートは元々無愛想だし、修行は果てしなく厳しかった。
けれど、それとは全く質の違う冷酷な眼差しを向けられたノーティスは、隣のセイラにすがる様に訴える。
「セイラ! 師匠どうしちゃったんだよ?! まるで、人が変わっちゃったみたいに……」
ノーティスはセイラにそこまで言った時、ハッとして目を恐怖と共に大きく見開いた。
「セ、セイラ……?」
セイラは、若くして孤児院の寮母をしている優しい女だ。
また、ノーティスがアルカナートとの修行でヘトヘトになった時には抱きしめたり、美味しい料理を作って癒してくれた。
壮絶な修行を無事に卒業出来たのはセイラのお陰だと言ってもいいし、出会った時にセイラが作ってくれた温かいスープの味は忘れた事がない。
けれど、今のセイラはノーティスを抱きしめるどころか、ノーティスの存在そのモノを疎ましく思うような眼差しで、冷たく見下ろしている。
「何なのよアンタ……汚いわね。それに、無色の魔力クリスタルなんて気持ち悪いのよ。あーもう、アンタなんか飢えて死ねばいいの」
「セイラ……なんでそんな事を……」
ノーティスが悲しみに耐えれなくなって涙を浮かべると、ダメ押しをするかのように、ルミまで出てきてノーティスを蔑む。
「あのーー、お二人ともホント勘弁してもらえませんか。私、コイツのおもりすんのマジで無理です。キモくて吐きそうなんで」
ルミから本気で嫌な顔で見下ろされたノーティスは、少し震えながらルミを見上げる。
「ルミ、何言ってんだよ。冗談にしちゃキツイぞ」
「あの、喋んないでもらっていいですか? アナタの声聞くだけで死にたくなるんで」
「ルミ……」
ノーティスの大切な三人から、余りにも酷い言葉と眼差しで心をズタズタにされたノーティスは、悲しみと絶望の表情を浮かべ、その場にドサッと膝をついた。
すると、三人は膝をついているノーティスを囲い、呪詛のような言葉と眼差しをぶつけてくる。
「さっさと死ね。無色のクリスタルのクズが」
「消えなさい! 親に捨てられた薄汚い子は」
「マジで無理、ホント無理です。キモくて汚くて、ウザいアナタのおもりは、どれだけ金積まれても無理」
まるで、三人から放たれている黒い呪詛で出来た渦が、ノーティスの頭上に渦巻いているようだ。
───死ね、死ね、死ね、死ね、死ね
───消えて、消えて、消えて、消えて、消えて
───キモい、キモい、キモい、キモい、キモい
ノーティスは両膝をついたまま両手で頭を抱え、絶望と悲しみに顔を歪め震える。
「やめてくれ……師匠、セイラ、ルミ……もう、やめてくれーーーーーーーーーーー!!!」
◆◆◆
その頃現実世界では、レイはジッと眺めていた。
その場に立ち尽くしたまま微動だにせず、固まったままのノーティスの事を。
そしてレイは、ノーティスの瞳から涙がツーっと零れ落ちるのを見てニッと笑みを浮かべると、近くにいる補佐官のリリーに告げる。
「ねぇリリー。もうこの子壊れちゃったから、何処かに捨ててきてちょうだい♪」
「えっ……!」
「フフッ♪ もうこの子は生きる屍だから」
レイは嬉しそうにリリーに告げてその場から去ろうとした。
が、その直後、リリーがレイに向かって青ざめた顔を向けて叫ぶ。
「レイ様っ!!」
その声にハッとして振り向くと、ノーティスが剣を大きく振りかぶり、自分に飛び掛かってくる姿が瞳に映った。
「なっ?!」
レイは咄嗟に身体を捻り何とか間一髪ノーティスの斬撃を躱したが、ノーティスの凄まじい斬撃で地面はズシャァァァッ!! と、大きく斬り裂かれた。
この威力であれば、さっきスフィア・インフェルノを散らしたのも頷ける。
けれど、レイが真に驚いたのはそこではない。
「なんで……なんで動けるの?! ノーティス、アナタは私の断罪魔法エファルティス・コーデネーションに、完全にかかっていたハズよ!」
自らの必殺技を破られ、恐れと怒りで目を大きく見開いて叫ぶレイ。
額から冷や汗がツーっと流れ、得体の知れない恐怖に体が震える。
ノーティスは、そんなレイに強く澄んだ眼差しを向け両手で剣を構えた。
「レイ、キミの技の威力があまりにも強かったからだ」
「何ですって?」
どういう意味か分からず憤るレイに、ノーティスは強くつげる。
心からの想いを乗せて。
「言う訳ないんだ! あんな事を! 俺を愛し育ててくれたあの二人と、いつも俺を側で支えてくれてる……あのルミが!!」
「そ、そんなバカな事……ありえないわ!」
たじろぐレイを見据えたまま、ノーティスは怒りに身体を震わせる。
「レイ、俺は幾ら言われても蔑まれてもいい……」
そして、大きく口を開き叫ぶ。
「けど……あの三人の事を侮辱するな!!!」
ノーティスはレイにそう言い放つと、両手で剣を顔の前に斜め上に立て、必殺剣の構えを取り睨みつけた。
しかし、レイは一瞬たじろいだものの、怒りに奥歯をギリッと噛み締めノーティスを睨み返す。
「許さない……許さないわ! 無色の魔力クリスタルで落ちこぼれのくせに、私の断罪の悪夢を破るなんて美しくない!」
「レイ、キミはまだ分からないのか……!」
そう告げたノーティスの瞳は怒りでも、ましてや絶望でもなく、どこまでも澄みきっている。
レイは、その瞳に再び飲み込まれそうになるのを全力で拒否し力を滾らせてゆく。
「うるさいっ! もういい! 精神じゃなくて、アナタそのモノを消し去ってあげるわ!!」
レイは立ったまま左右のスラッとした足を交差させ、両手を天に向けて掲げると、その上に灼熱と凍気を混ぜ合わせた巨大なエネルギー弾を作った。
「ハァァァァッ……!!」
その灼熱と凍気が合わさったエネルギー弾は色が混ざり合い、まるでクリスタルのような輝きを放つと、不死鳥の姿へと形を変えていく。
「終わりよ! この灼熱と凍気で作られた私の不死鳥は、防ぐ事も避ける事も絶対に不可能。ノーティス、今度こそ恐怖と絶望に染まって消えなさい!」
怒りの眼差しで見下ろしながら言い放ったレイに、ノーティスは必殺剣の構えを取ったまま鋭い眼光を向けた。
レイの不死鳥の眩い光に照らされながらも、その眼光はそれを射抜くように力強い。
「レイ、言っただろう。大切な人が心に宿る限り、たった一度や二度の絶望で、この俺の光は決して消えはしないと!」
「フフ♪ 強がりもそこまでいくと大したものね」
頭上に巨大な不死鳥を湛えたまま余裕の顔で見下ろしてきたレイに、ノーティスは鋭く澄んだ眼光で見返す。
「強がりなんかじゃないさ。レイ、キミは分かっていない。絶望も希望も、そして美しさも……本物は、目には見えないのさ!」
ノーティスからそう言われた時、レイはハッとし瞳を大きく開いた。
美しい髪がフワッと靡き、綺羅びやかなイヤリングが揺れる。
思い出したのだ。
ある日突然剣を置き、自分達の前からいなくなってしまった、レイの愛する男との大切な記憶を……
レイの大切な人とは、まさか……
次話はノーティスとレイの必殺技が、激しくぶつかり合います。




