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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:210 決着の剣と懺悔の涙

「なっ……クリスタルだと」


 シルフィードは目を凝らしていくと、ハッと気づいた。

 自分の目の前に作られている、大きなクリスタルの壁に。


「こっ、これは……!」


 しかも、それは目の前にある一つだけではなく、シルフィードの左右と後ろにも作られていた。

 シルフィードを取り囲むかのように。


───まさかっ……!


 そう思った時、クリスタルの壁は互いにカシャン! と、接続され、五角形のクリスタルを形作った。

 それはまるで、巨大な宝石のようだ。


「うっ……!」


 そのクリスタルの中に閉じ込められたシルフィードは身動きが取れないまま、額からツーっと汗を流した。

 だが、すぐに魔闘気を滾らしクリスタルを破壊しようとするが、クリスタルはビクともしない。


「おのれ……なぜだ! こんな物がなぜ……!」


 そんなシルフィードを見据えながら、アルカナートはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「だから言ったろ。白輝(びゃっき)の魔力クリスタルを舐めんなってよ」

「バカな……! 貴様の力は、この異空間では半減されているハズ。なのに……ハッ、まさか!」

「そうだ。それはシルフィード、お前も同じ事だぜ。そのクリスタルの中では、お前の力は半減させられてんだよ」

「貴様っ……!」


 ギリッと歯を食いしばり怒りに顔をしかめるシルフィードを、アルカナートは真っ直ぐ見据えた。 

 その瞳には哀しさの光が宿っている。


「シルフィード、これが選んだ道の差だ」

「ぐっ……アルカナートぉ!!」


 怒りを漏らすシルフィードに向かい、アルカナートは平突きの構えを取ると、全身からゴールドクリスタルの輝きを滾らせた。

 それと共に、シルフィードを封じ込めているクリスタルも黄金に輝いてゆく。


「終わりにするぜ……!」


 アルカナートはシルフィードに向かいダッ! と突きを繰り出し、剣先をクリスタルの中心に突き立てた。

 それと同時に、クリスタルがキラキラと大きな煌めきを放ってゆく。

 その煌めきに、目を大きく見開いたシルフィード。

 

「こ、これはっ……!」

「ウオォォォォォッ……! 俺の光は全ての闇を打ち砕くっ! 『クリスタル・エクスプロージョン』!!」


 その瞬間、カッ!! と、眩く大きな閃光が炸裂し、シルフィードの闇の異空間をバァァァン!! と、消し飛ばした。

 凄まじい威力の衝撃波が立ち昇る。


「ぐわァァァァッ!!」


 シルフィードが上空へ大きく吹き飛ばされる中、アルカナートは突きを放った姿勢のままスッと瞳を閉じた。

 そして、心でナターシャに語りかける。


───ナターシャ、意志は貫いたぜ。いや……ここからだよな。


 そう語りかけたアルカナートに、ナターシャは優しく微笑んだ。

 アルカナートがその微笑みを受けて軽く笑みを零した時、シルフィードはドシャッ! と、頭から落ちた。

 体を起こそうとするが、仰向けのまま動く事が出来ない。


 そんな中、セイラはアルカナートにタタッと駆け寄った。


「アルカナート!」


 側で見上げるセイラの瞳には涙が浮かんでいる。

 凄く心配だったのだ。

 アルカナートが闇の異空間に入ってしまってから、ずっと姿を確認出来なかったから。


「よかった、無事で……!」

「フンッ、仕方ねぇだろ。お前の不味い紅茶を飲む約束しちまったからな」

「なによもうっ、不味くないもんっ! でも、それより……」


 セイラはアルカナートの姿を見つめて、胸がギュッと苦しくなった。

 全身、傷だらけでボロボロだからだ。


「ねぇアルカナート、もう戦いの決着はついたんだよね」

「あぁ……なんとかな」


 アルカナートが静かにそう零すと、セイラは両手をアルカナートの体にそっと翳した。


「聖なる光よ。彼が受けし全ての傷と魔障を消し去り給え……! 『セント・サナーティオ』!!」


 その詠唱と共に、セイラの両手から優しく神々しい光が注がれてゆく。

 アルカナートに注がれるその光は、全てを癒し浄化するセイラの最上級回復魔法。

 その光と共にアルカナートの傷は消え去り、体力も全回復した。

 

「よかった♪ やっとアルカナートの事治す事が出来たよ」

「セイラ、ありがとう。礼を言うぜ」

「こっちこそだよ♪」

「それに、俺のワガママに付き合わせちまったしな」

「ううん、いいの♪ ただ……」


 セイラは申し訳なさそうに、アルカナートを見つめている。

 そんなセイラを前に、アルカナートは軽く笑みを浮かべた。

 今、セイラが何をしたいかを、その顔を見て分かったから。


「構わねぇよ。もう、ケリはついた」

「アルカナート……! ありがとう」


 セイラはそう言うとアルカナートにクルッと背を向け、シルフィードの下へタタッと駆け寄った。

 シルフィードは額からツーっと血を流し仰向けに倒れたまま、苦しそうな顔で瞳を閉じている。


「うっ……くぅっ……!」


 そんなシルフィードに向かい、セイラはサッと両手を翳した。


「全てを癒す女神パナーケアよ、彼に癒しと祝福を……! 『アーク・レフェクティー』!!」


 翳したその両手の平からパァァァァッ……! と、優しい光がシルフィードに注がれてゆく。

 その光で回復したシルフィードはゆっくり目を開けると、その瞳に映った。

 セイラが心配そうな顔で上から覗き込み、自分に向けて片手を差し出している姿が。


「大丈夫? もう傷は治ったと思うけど……」


 その瞬間、シルフィードはハッとした顔を浮かべた。

 心の中の大切な憧憬に、セイラの今の姿が重なったからだ。


───ま、まさかっ……! いや、あり得ぬ。そんな事は……


 シルフィードは心に浮かんだ事を激しく否定しスッと立ち上がると、澄ました顔でサッと横を向いた。

 心の中の動揺をセイラに悟られたくなかったから。


「女、なぜ敵であるこの俺の命を助けた……」


 静かにそう零すシルフィードに向かい、セイラは凛とした瞳で向き合った。

 その瞳は優しい光を宿している。


「あのままだったら、貴方死んじゃうもんっ」 

「フッ、俺はお前達の敵だ。放っておけばよかったものを……」


 シルフィードがそう零すと、セイラは精悍な顔に変わった。


「私は、誰も死なせたくないのっ! それはシルフィード、貴方だって同じよ。それに、貴方はずっと哀しそうだったから……」

「なんだと……」


 軽く目を細めたシルフィードに、セイラは問いかける。


「貴方は確かにナターシャを使ってこの計画を企てたし、本当に強いわ。けど、何か感じるの。過去の何かを振り切ろうとしているのが……」

「貴様、よくもぬけぬけと。俺が昔『無色の魔力クリスタル』だった事に同情でもしているつもりか」

「えっ? 無色の魔力クリスタル?」


 驚いた顔を浮かべたセイラ。

 シルフィードからナターシャの真実は聞かされていたが、それは聞いてなかったから。


「そうか、貴様には告げていなかったな。まぁ、どちらにしろ、これ以上の話は無用。大人しくこのまま……」


 シルフィードがそこまで話した時、セイラはハッと気づいた。


「もしかして、シルフィードって、あの……!」

「なんだ女」


 訝しむ顔を浮かべたシルフィードだが、その瞬間ハッとし身体を震わせる。


「まさか、お前は……」

「よかった……元気に、うん、ちょっと違うかもしれないけど、ちゃんと生きてたんだね」


 涙を滲ませ微笑むセイラの前で、シルフィードは体の震えが止まらない。

 さっき感じた事は、間違いではなかったから。


「女……いや、キミはまさか、俺のせいで転校させられた、あの子だったのか……!」

「うんっ、そうだよ。でも気にしないで♪ 確かに色々言われて大変だったけど、私、貴方の事もあって王宮魔道士になれたから」

「俺の事で?」


 謎めいた顔を浮かべるシルフィードに、セイラは少し切なく告げる。


「私、貴方みたいに傷ついた人を守りたくて、特級ヒーラーになったの」

「なっ……」

「だから、今日よかった。シルフィード、貴方を救えて」


 セイラがそう言ってニコッと微笑んだ時、シルフィードは剣を下にドサッと落とし、ザッとその場に膝をついた。

 そして、両手を地面につきうつむき涙を零す。


「うっ……くっ……キミは逆境に負けず人を癒す道を選んだのに、俺は……ぐっ……」


 シルフィードの嗚咽と共に溢れる涙が、地面にポタポタと零れ落ちてゆく。

 その姿からは、敬虔な信徒のような清らかさと哀しさが立ち昇っている。


「俺が……間違っていた……すまなかった」


 そう零す側でセイラはスッとしゃがみ、シルフィードの顔を上から覗き込んだ。

 優しい顔に涙を浮かべたまま。


「シルフィード、いいの……もういいんだよ。貴方は確かに憎しみに生きてきたかもしれないけど、精一杯生きてきたんだから……」

「うぅっ……セイラ、ありがとう……」


 そんなシルフィードに、アルカナートは背を向けている。

 それが命をかけて戦った相手への情であり、戦士の誇りを守る事だと分かっているからだ。

 また、背を向けたまま思っている。


───シルフィードを真に倒し救ったのは、剣ではなく愛か。セイラ、お前は凄い奴だぜ。俺なんかよりもよっぽどな。


 アルカナートは心でそう零すと、そのままセイラに告げる。


「セイラ、もう行くぞ」

「……うん」


 切なく答えると、セイラはシルフィードをそっと抱きしめた。

 シルフィードの体を、愛に満ちたセイラの柔らかい体が包む。


「シルフィード、どんなに辛くても必ず見ててくれてる人はいるからね」

「セイラ……」

「少なくとも、私は忘れないよ。ずっとね……」


 短い言葉の中に愛を込めて囁くと、セイラはスッと立ち上がりアルカナートの方へゆっくり歩きだした。

 シルフィードは両手を地面につけたままだ。

 しかし、そこからザッと立ち上がると、アルカナートに向かい大きく口を開いた。


「アルカナート!! 貴様、このまま俺を見逃すと言うのか! ナターシャを利用し、命を落とさせたこの俺を……!!」


 その声にセイラはハッとして振り向いたが、アルカナートは背を向けたまま振り向かない。


「シルフィード、勘違いするな」

「なんだと?」

「ナターシャの事は、お前じゃなく俺のせいだ。アイツの事は俺が一生背負う」

「そうか……だが、俺はお前の敵だぞ」

「この先お前が何を目標に生きていくかは自由だ。もし俺を狙うなら、いつでも受けて立ってやる」

「……その言葉、後悔するなよ」

「フンッ、答えが出たらいつでも来やがれ。じゃあな」


 そう告げ、アルカナートはそのままセイラと共にその場を後にした。

 その胸に、これからの誓いと強い意志を抱いたまま。

重い十字架を背負ったアルカナートと、過去と決別したシルフィード。二人の道は果てしなく……



この回で、アルカナートの追憶編は終了です。

次回からは新章。

ノーティスのいる現在へ戻ります。


ただ、次回更新日は2024年6月17日(月)

少しお時間頂きますが、よろしくお願いします!


後、ここまで読んで頂いてありがとうございます。

もし気に入ってもらえたら、評価やブックマーク、ご感想等頂けると嬉しいです。

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