cys:209 闇の異空間と黄金の光
「なっ! ゴールドクリスタルだと……!」
シルフィードは額から汗をツーっと流し、目を見開いたまま見つめている。
強く神々しいオーラが立ち昇っている、アルカナートの姿を。
「ううっ……バカな。この力は、滅輝乃魔眼の力と同等。もしくは……」
体が固まってしまったまま、シルフィードは微動だに出来ない。
アルカナートから放たれている、そのあまりの強さに。
けれどシルフィードは、それを断ち切るかのようにギリッと歯を食いしばった。
「ありえぬ……奴の力が俺を上回るなど……!」
怒りにブルブルと体を震わせてゆくシルフィードを、アルカナートは涼やかな眼差しで見据えている。
「フンッ、やってみりゃ分かるさ」
「お、おのれ……!」
シルフィードは激しい怒りと共に、剣に魔闘気を滾らせていった。
その滾りと共に滅輝乃魔眼もより妖しく輝いてゆき、激しい衝撃波を周囲に広げていく。
「アルカナート、貴様が俺を……この滅輝乃魔眼を上回るなど、ありえぬのだ!」
シルフィードは魔闘気の込められた剣を、水平にズザッ! と、振り抜いた。
「砕け散れ! 『天獄破斬』!!」
その剣から放たれた漆黒の巨大な刃が、アルカナートに襲いかかる。
だがその瞬間、アルカナートもゴールドクリスタルの魔力が込められた剣を、ザッと振り抜いた。
「させるかよっ! 『アクティ・フォース』!!」
黄金の光を放つ刃がシルフィードの に飛び向かう。
二つは中間でぶつかり、ズガァァァァンッ! と、大きな閃光と爆音を放った。
それによる衝撃波と爆風が、周囲にブワッ! と、広がる。
「きゃっ!」
片腕で顔を隠しそれを防いだセイラ。
その隣で、アルカナートは爆発により立ち昇った噴煙を、精悍な顔で見据えている。
その噴煙が晴れてくると、その向こうには怒りに顔をしかめ、こちらを睨みつけているシルフィードの姿が。
「おのれ、アルカナート……!」
「フンッ、これが全力か?」
「貴様……今のを防いだぐらいで、いい気になるなよ! オォォォォォッ……!」
更に力を滾らせていくシルフィードから、絶大な魔闘気がゴゴゴゴゴッ……!! と、立ち昇ってゆく。
まるで、その場全てを震わすようなエネルギーだ。
その紫白の輝きが、アルカナートとセイラを激しく照らす。
「アルカナート、やっぱり私も一緒に戦うよっ!」
セイラは縋るように身を乗り出してきた。
けれど、アルカナートは全身から黄金の輝きを放ちながら、シルフィードを見据えている。
「セイラ、手出しは無用だぜ」
「でもっ……!」
セイラは思わず声を上げた。
心配なのだ。
確かにゴールドクリスタルの輝きを纏ったアルカナートは、前よりも更に強くなった。
けれど、セイラの見立てではそれで五分五分だ。
もしくは、僅かにアルカナートが勝っているが、決して楽に勝てるレベルではない。
───もし、一緒に戦えれば何とか……
そんな事を考えるセイラの隣で、アルカナートはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「心配する事が違ぇだろ」
「えっ?」
「セイラ、お前が心配しなきゃなんねぇのは、俺じゃねぇ。紅茶を美味く淹れれるかどうかだ」
「アルカナートっ!」
真面目に答えてよと思ったが、セイラはすぐに分かった。
今のはアルカナートの勝利宣言だと。
「……じゃあ、待ってるからねっ」
「フンッ、不味い紅茶は淹れんなよ」
アルカナートはそう告げると、全身から溢れる黄金の輝きを身に纏ったまま、ザッと前に踏み出した。
その輝きも佇まいも、決して滅輝乃魔眼のそれに負けていない。
そして、絶対的な自信に満ちた艶のある瞳でシルフィードを見据え、剣を両手で右斜め上にジャキッと構えた。
「シルフィード、もう充分だろ。ケリを、つけようぜ……!」
アルカナートから立ち昇る決意と、最強のオーラ。
それを前にしたシルフィードは、魔闘気を最大限に滾らせながらニヤリと嗤う。
「クククッ、やっと意見が合ったな。ケリをつけてやる。アルカナート……貴様の死によってなっ!」
その咆哮と共に二人は互いを目掛け、ダッ! と、水平に跳びかかった。
ガキィィィィンッ!!
二人は剣をぶつけ、激しく鍔迫り合いをしながら睨み合う。
そして、互いに剣を弾かせ間合いを取ると、二人ともすぐに再び跳びかかった。
先行を取ったのはアルカナートだ。
「ハァァァァッ!」
アルカナートは両手で剣を横に構え、垂平にズサッ!! と、振りぬいた。
黄金の光が扇状に広がる。
だが、シルフィードはザッと大きく飛び上がりそれを躱すと、アルカナートを見下ろしながら剣を振りかぶった。
「死ねっ! アルカナート!! 『滅殺龍牙』!!」
振り下ろした剣が魔闘気で巨大化し、鋭い龍の牙のように襲いかかる。
それを見上げたアルカナートは剣先の峰を右手の平に乗せ、勢いよく飛び上がった。
アルカナートの体から、光の帯が走る。
「させねぇよっ! 『ギルティ・カウンター』!!」
二人は空中で技を交えると、バンッ!! と、互いに弾き飛ばした。
「フンッ……」
「チィッ……」
その間も互いに目を離さない。
そして、地面に降りると二人ともニヤリと笑みを浮かべた。
「やるじゃねぇか、シルフィード」
「貴様もな、アルカナート」
二人は敵同士、いや、それ以上に倒さなければならない宿命の相手だ。
けれど、実力は互いに認めざるおえない。
最強のライバルとして。
「……だが、勝つのはやはりこの俺だ! 滅輝乃魔眼の力でくたばるがいい!」
「フンッ……そいつはどうかな」
「我が師から授かったこの力、剣のみではない。喰らうがいい……」
滅輝乃魔眼が妖しく輝く中、シルフィードは両手をバババッ! と、動かした。
そして、その両手の平の中に暗黒のエネルギーを滾らせてゆく。
「闇の中へ、染まれっ!」
黒紫色の異空間を創りされ、シルフィードとアルカナートの周りが、一瞬にして闇に覆われた。
「これはっ……!」
周りを見渡すアルカナートを見据え、シルフィードは闇に溶け込みながらニヤリと嗤う。
「ここは闇の異空間」
「異空間だと?」
「そうだ。ここでは俺の力は増幅されるが、お前の力は半減される」
「チッ……!」
苛立つアルカナートだが、確かにさっきより力は入りづらくなっていた。
しかも、シルフィードの姿は闇に完全に溶け、目で捉える事が出来ない。
そんな闇の中、アルカナートにシルフィードの刃が襲いかかる。
「ぐっ!」
何とか直撃は躱したアルカナートだが、状況はマズい。
斬られた肩から、軽く鮮血が噴き上がった。
シルフィードは、それを闇の中から見つめている。
───クククッ……闇の中で、見えない刃に恐怖するがいい。
そこからシルフィードは、アルカナートを何度も斬りつけていった。
傷口から鮮血がポタポタと零れ落ちてゆく。
「くっ……」
そんな中、アルカナートはスッと瞳を閉じ、剣を下げた。
シルフィードはそれを闇から見据え、ニヤッと嗤う。
───アルカナートめ、遂に諦めたか。
だが、同時にハッと踏みとどまった。
───いや違う。コイツがそんな簡単に諦めるハズがない。一体、何を狙っている……
シルフィードは、かつてない程慎重になっていた。
無論、自分の強さには絶対の自信を持っているし、アルカナートの力をかなり封じ込めてもいる。
現に、アルカナートは傷だらけだ。
負ける要素など見当たらない。
───なのになぜだ……
シルフィードは闇の中で、ギリッと歯を食いしばった。
理由は分からないのだが、ヒシヒシと感じてしまうのだ。
このままいけば、殺られると。
「アルカナート、貴様どういうつもりだ」
シルフィードは耐えきれず問いかけたが、アルカナートは何も答えない。
瞳を閉じ、黙ったままだ。
それがシルフィードの心に恐怖を沸き立たせ、苛立ちを募らせてゆく。
「……答えないか。ならばいい。トドメを刺してやる……!」
シルフィードはアルカナートを見据えたまま、グッと剣を握りしめた。
闇の中で魔闘気を滾らす剣先が、漆黒の光りでキラリと輝く。
その漆黒の輝きに押されるかの如く、シルフィードは技を放つ。
「これで終わりだ、アルカナート! 『天獄破斬』!!」
シルフィードは剣を横薙ぎに振り抜いた。
その剣から、巨大な魔闘気の刃がアルカナートの背に飛び向かう。
だがその瞬間、その刃はアルカナートにぶつかる前にドォォン!! と、大きく爆ぜた。
「なんだとっ?!」
思わず声を上げたシルフィード。
一体、何が起こったのか分からないのだ。
アルカナートは、その場から一歩も動いていないから。
「バ、バカな……なぜ俺の天獄破斬が………」
シルフィードは不可解な恐怖に目を見開き、固まっている。
そんな中、アルカナートはスッと振り向くと、自信に満ちた眼差しで見つめニヤッと笑みを浮かべた。
「見えてなかったようだな、シルフィード。テメェを囲むクリスタルが……!」
アルカナートは何を仕掛けたのか……次回、決着!




