cys:208 三人の意志と覚醒
「ならば死ねっ! その報われぬ愛と共に!!」
シルフィードの振り下ろす剣が迫る中、セイラはギュッと瞳を閉じた。
───ごめんね……アルカナート……!
最後まで自分の愛を貫いた事に、後悔は無い。
ただ、それでもアルカナートを守れなかった事が、哀しくて仕方ないのだ。
そんなセイラに迫る刃は、その想いも愛も断ち切ろうとしてきている。
絶対的な死によって。
しかし、その刃がセイラに届く事はなかった。
ガキインッ!! と、いう音と共にセイラがスッと目を開くと、その瞳に映ったのだ。
シルフィードの剣を受け止めている、アルカナートの姿が。
「アルカナート……♪」
驚きつつも、顔をほころばせたセイラ。
その背中から、ハッキリと伝わってくるから。
アルカナートがナターシャの死を乗り越え、力強く復活した事が。
だがシルフィードは、そんなアルカナートの事を驚愕と苛立ちと共に睨みつけている。
「き、貴様……一体どうやって……」
シルフィードには分からなかったのだ。
さっきまで廃人のようになってたアルカナートが、なぜ力を滾らす事が出来るのかを。
「お前はナターシャの死によって、もはや剣を振るえる精神状態では無いハズ……!」
そんなシルフィードの剣をググッと防ぎ顔を軽く伏せたまま、アルカナートは絞り出すような声で告げる。
「託されたからだ……」
「なんだと……」
「俺は確かにナターシャを救えなかった。だから、勇者の資格なんてありゃしねぇ……」
「ならば、なぜまだ戰う!」
怒声を浴びせてきた時、アルカナートは剣をバチンッ! と、弾かせシルフィードを退かせた。
そして、剣を斜めに下げたまま艶のある瞳で見据える。
「ナターシャは死んでねぇ」
「何を言っている? 貴様、気でも触れたか?」
「アイツは俺の心に生きてる。だから、俺は剣を置かねぇ。俺の目に映る奴らを救う為に剣を振るう! それが、俺と……そして、ナターシャの意志だ!!」
そう言い放ったアルカナートを、セイラは両手を口に当て涙を浮かべて見つめている。
「うぅっ……アルカナートぉ……」
愛するアルカナートが復活してくれたのが、嬉しくて堪らないから。
そんなセイラに、アルカナートは涼し気な流し目を向けて微笑んだ。
「ったく、なーに泣いてんだよ」
「だって、嬉しいんだもんっ! 悪いのっ?!」
「フンッ……まっ、お前のバカみてにデケェ声で、目が覚めたってのはあるからな」
「もうっ、それってどーゆー事よっ」
可愛く頬を膨らませムスーっとしているセイラをよそに、アルカナートはザッと前に出た。
全身からは、精悍なオーラが立ち昇っている。
「んじゃセイラ、お前は下がってろ」
「なんで?! 私も一緒に戦うよっ!」
身を乗り出して見上げてくるセイラを、アルカナートは一瞬チラッと見て微苦笑を浮かべた。
「セイラ、お前は充分戦ったろ」
「そんな事……」
セイラがそこまで言った時、アルカナートはその先の言葉を遮り告げる。
「バカか」
「はあっ? なによもうっ! せっかく人が心配してあげてるのにっ!」
「忘れたのかよ、自分で言ったくせに」
「えっ?」
一瞬キョトンと可愛く口を開いたセイラ。
そんなセイラの隣で、アルカナートはサッと軽くそっぽを向いた。
ちょっと照れているからだ。
「……淹れてくれんだろ」
「へっ?」
「コスモティーだよ」
「あっ!」
そうだった! と、いう顔を浮かべたセイラに、アルカナートはサッと向き直った。
「さっき、お前が言ったんだろ」
「ごめーーんっ♪」
「ったく……」
アルカナートは呆れたような顔で一瞬軽く瞳を閉じると、艶のある瞳でセイラを見つめた。
「だから、そこでジッとしてろ」
「なんで?」
「お前がいなくなったら、コスモティー飲めねぇだろうが。言わせんな、バカ」
相変わらず口調は荒いが、その艶のある瞳には優しさが溢れている。
セイラは、そんなアルカナートの顔をニヤニヤしながら覗きこんだ。
「そんなに私と紅茶飲みたいのかな〜〜♪」
「チッ、コスモティーが飲みてぇんだよ」
「アハッ♪ もーー素直じゃ無いんだからっ♪」
セイラはそう言って可愛く笑うと、凛とした眼差しでアルカナートを見つめた。
その瞳に宿る光を揺らめかせながら。
「アルカナート、絶対無事に帰ってきてね。ここで見守ってるから」
「……セイラ、お前一人にコスモティーを独占させねぇよ」
アルカナートは軽く笑みを浮かべ再び前へザッと出ると、シルフィードを真っ直ぐ見据えた。
「すまねぇな、シルフィード。バカのお陰で待たせちまった」
「フッ、そのバカに復活させてもらったんだろう」
「まっ……アイツは俺の鞘だからな」
「鞘か……クククッ、大層なご身分だな」
軽く皮肉めいた笑みを浮かべたシルフィードに、アルカナートは問いかける。
「テメェにはいねぇのか」
「いるハズが無いだろう……俺は、スマート・ミレニアムに復讐し滅ぼす為に戦ってきた。もし、鞘があるとすれば……」
シルフィードはそこまで話すと、アルカナートに向かい剣をビュッ! と、突き出した。
剣先が漆黒にキラリと光る。
「それはアルカナート、お前の死だ! お前の体にこの剣を突き刺し、真紅の鞘に変えてやる!」
そう言い放ったシルフィードの体から、紫白の魔闘気がグワッ……! と、立ち昇ってゆく。
その魔闘気に照らされる中、アルカナートは剣先を右斜め上に向けてジャキッと構えた。
「ったく……そんな作り方、上手くいくわけねぇだろ!」
アルカナートの体から白輝の闘気がブワッ……! と、立ち昇る。
どちらも互いに引けを取らない強さと輝きだ。
そんな輝きを放つ中、二人の想いを乗せた眼差しが交叉する。
「シルフィード、もう終わりにしてやるよ」
「終わりだと? クククッ……アルカナート、ここから始まるのだ。貴様らの崩壊がな……!」
思えば、この戦いの始まりはどこからだったのか。
無論、二人の運命を引き合わせ、二人をこの場に立たせたのはナターシャだ。
けれど、これよりもっと前から二人は戦う運命にあったのだ。
二人が同じ『無色の魔力クリスタル』を授かりながらも、そこから互いに違う道を選んだ瞬間から。
「させねぇよ……シルフィード、俺が白輝のクリスタルと共に戦い続ける限り……!」
「フッ、崩壊は止められん。この滅輝乃魔眼の力で貴様は死ぬのだからな」
シルフィードはそう告げると、闇に染まった瞳でアルカナートを見下ろした。
「仮にこの俺に勝ったとしても、白輝のクリスタルはお前のみ。貴様がいずれ剣を振るえなくなれば、その時に我らの戦力を止める者はいなくなる」
「フンッ、分かってねぇなシルフィード」
「なんだと……!」
訝しむ顔を浮かべたシルフィード。
アルカナートを除けば、今現在、戦力自体はトゥーラ・レヴォルトの方が上回っている。
それを、アルカナートが知らないハズが無いと思っているからだ。
そんなシルフィードに向かい、アルカナートはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「俺には弟子達がいるのさ。アイツらは将来必ず強くなる。それに……いつか必ず出会うハズだ。この俺の白輝のクリスタルを受け継ぐ奴にな……!」
確信に満ちた想いでそう言い放ったアルカナート。
もちろん、この時はまだノーティスの存在は全く知らない。
けれど、いつか出会う事を直観的に感じていたし、何よりこれはアルカナート自身の願いなのだ。
「そして、俺はそいつに示してやる。シルフィード、お前が本当は辿れたハズの道をよ……! それが、ナターシャから託された、俺の貫くべき意志だ!」
その言葉を受けたシルフィードは、激しい怒りと共にグッと目を見開いた。
「ふざけるな……ふざけるなよアルカナート! そんな未来など来させてたまるか! 貴様はここで必ず殺す! この俺の滅輝乃魔眼の力によってな!! オォォォォォッ……!!」
シルフィードの魔闘気がかつて無い程大きく膨れ上がってゆき、空間その物をゴゴゴゴゴゴゴ……! と、震わせていく。
また、シルフィードの体から周囲一帯に激流のように広がってゆくエネルギー波が、アルカナートとセイラに襲い掛かる。
「フンッ……!」
「うっ……! な、なんて魔闘気なの……」
アルカナートは憮然とした表情でシルフィードを見据えているが、セイラは思わず顔をしかめてしまった。
その、あまりにも凄まじい闘気の力を感じてしまったから。
───どうししたらいいの……やっぱり彼の滅輝乃魔眼の力は、アルカナートよりも……!
セイラが心で焦りを零す中、シルフィードはアルカナートを見据えながらニヤリと嗤った。
「アルカナート、この力の前に散るがいい! 所詮、白輝の魔力クリスタルなどここで滅ぶ運命なのだ!」
圧倒的力を放ちながらそう言い放ってきたが、アルカナートは動じない。
「シルフィード、白輝のクリスタルを……俺の意志を舐めるなよ! ハァァァァァッ……! 限界を超えて銀河のように煌めけ! 俺のクリスタルよ!!」
「フッ、ムダな事を。いくら魔力を滾らそうが、この俺の魔闘気の前では……」
シルフィードはそう言いかけて言葉を止め、目を驚愕と共に見開いた。
「なっ、なんだその輝きは……!」
体を固めたまま、額からツーっと汗を流すシルフィードの瞳に映る。
白輝の魔力クリスタルを超えた輝きの色が。
「そ、その輝きはまるで……」
「だから言ったろ、シルフィード。これが白輝の魔力クリスタルが秘める真の力『ゴールド・クリスタル』だ……!」
遂にゴールドクリスタルを覚醒させたアルカナート。決着は近い……!




