cys:21 逆合格要請とクロエの願い
「キャー♪ すごーーーい!」
「マジでヤバい! こんなん見た事ねぇ」
「カッコいーーーー♪」
ノーティスのあまりにも凄まじい斬撃を目の当たりにし、未だ興奮の冷めやまない会場。
誰もがノーティスの事をドキドキしたり、畏敬や羨望の眼差しで見つめている。
けれど、そんな中ノーティスは、ハァッと大きく溜息をつき、ガクッと肩を落として試験官の所へ行くと、バッと頭を下げた。
「すいません! やっちゃいました!」
「ど、どーした?」
震えながらノーティスを見つめる試験官に、ノーティスはすまなそうな顔を向けている。
「いや、あのー、測定器まで斬っちゃってごめんなさい! それにこれじゃポイント……分からないですよね」
「えっ……あっ」
試験官は魔力掲示板を見た。
すると、確かにノーティスの言う通り、魔力掲示板の表示は0PTというか、消えてしまって真っ黒になっている。
測定器が斬り刻まれて壊れたせいだ。
───ま、まるで魔力掲示板の命まで絶たれたようだ……
それを見て更に恐ろしさにブルッと震える試験官に、ノーティスは再び問いかける。
試験官の顔を、すまなさそうに覗き込みながら。
「あのーー、やり直した方がいいですよね? 今度はもっと上手く手加減するんで」
「ひ、ひいっ!」
悲鳴を上げ、椅子ごとガガッと勢いよく後に退き、背中をガシャンと壁にぶつけてしまった試験官。
顔は恐怖に引きつっている。
無理もない。
特殊素材で、強固にコーティングされた測定機。
それがバラバラにされるなんて、誰も見た事、いや考えた事すら無いのだから。
試験官は、そんな事が出来る男に見つめられ、まるで強大なモンスターに睨まれたように錯覚してしまったのだ。
ノーティス本人は、ただ本当にすまなく思って、試験官に話しているだけなのだが……
───こ、これは、やり直すなという事を暗に言ってるに違いない。本当にやり直しなんて言ったら殺される!!
そう思った試験官は、銃口を頭に突きつけられたかのように目を見開き、冷や汗をダラダラと流しながら叫ぶ。
「ポイントなんてどうだっていい! 合格だ! 合格!!」
「えっ? ホントですか? もしホントはダメなら……」
───ヒイッ!!
試験官は、座ったまま両手で頭を抱えてうつむく。
ノーティスの事が、冷徹なサイコパスのように見えてしまっているから。
「だから合格っ! 合格です!!」
「いや、でも……」
ノーティスがすまなそうに顔を覗き込むと、試験官は椅子から転げ落ちるように床に降り、土下座をして頭を床に擦り付けた。
───殺さないでくれ! 頼む!!
「お願いですから! もう合格を、合格を認めて下さい!! お願い致します!!!」
もう、まるで何が何だか分からない事を告げてくる試験官が、可哀想に思えてしまったノーティス。
ちょっと哀しげな顔で試験官を見下ろし、ボヤくように告げる。
「分かりました……じゃあ合格通知、宜しくお願いします」
ノーティスは、ホントにこれでいいのかな? と、いう顔をしながらも、丁寧にお辞儀をしてから出口に向かう。
すると、試験補助官の女性がノーティスの近くまでタタッと駆け寄り、両手を下に添えてサッとお辞儀をしてきた。
「ありがとうございました!」
「えっ?」
ノーティスが何かと思って顔を振り返らすと、彼女はスタスタ歩いて目の前まで近寄って来た。
「えっと、何か……」
思わず体を振り返らせたノーティスに、彼女は胸の前で両手を組み、敬愛の眼差しと共に笑みを向ける。
「アナタのお陰です!」
「ん?」
「もしアナタが教えてくれなかったら、私今頃大ケガしてたハズですから」
「あっ! あぁ……」
ノーティスはさっき自分が言った事を思い出した。
ただ、ノーティスにとっては当たり前の事を言っただけなので、ついさっきの事でも忘れていたのだ。
「いや、別に。むしろアレは俺のせいですし……」
「そ、そんな事」
「むしろ、ちゃんと聞いてくれてありがとうございます。アナタにケガが無かった事が、俺は嬉しいです」
ノーティスがそう言って微笑んだ瞬間、彼女はズキュンと心を射抜かれ、その可愛い顔をポッと火照らせた。
「えっ……そ、そんな事♪」
「本当です。それに、説明も分かりやすかったし感謝してます」
そう告げると、彼女はポーっとした表情でノーティスを見つめた。
そして、ハッと我に返ると慌てて魔力ポータルを作動させ、ノーティスに言う。
「あの、連絡先交換しましょ♪」
「えっ、連絡先?」
「はいっ♪ 今日のお礼に、今度ご飯奢らせて下さい」
「いや、いいってそんなの。当たり前の事しただけだし」
ちょっと焦って両手の平を向けたノーティスだが、彼女は諦めず両手を胸の前で合わせ、懇願するような顔で見上げる。
「お願いします! 私、アナタとお友達になりたいのっ♪」
「えっ? う〜〜ん……分かった。じゃあ連絡先交換しようか」
「わあっ♪ ありがとうございます♪」
彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら、ノーティスと連絡先を交換した。
「『エデン・ノーティス』さんか。カッコいい名前ですね♪」
「ありがとう。ノーティスでいいよ。それに『フランソワ・クロエ』っていう名前も素敵だ」
ノーティスがサラッとそう言うと、クロエはまた顔をポッと火照らせ、モジモジしながら見つめる。
「あ、ありがとう……ノーティス♪」
「こちらこそありがとうクロエ。また連絡するよ。測定機の事もあるし……」
「それは気にしないで下さい♪」
「いや、そういう訳にも……」
そう言って軽くうつむくと、クロエはノーティスの顔を覗き込んでニコッと笑った。
「大丈夫よっ! それはこっちで上手くやるから、気にせず次の試験頑張って♪」
「そっか。クロエ、本当にありがとう」
ノーティスは頭をスッと下げてから、サッと背を向け出口に向かう。
クロエはそんなノーティスに、笑顔で手を振った。
全身から好意と凛とした雰囲気が溢れている。
「ノーティスーー♪ 応援してるからね」
クロエの明るい声を背中に受けたノーティスは、チラッと顔を振り返らせた。
「ありがとう、クロエの事も応援してるよ」
澄んだ瞳でそう告げると、ノーティスはそのまま会場を後にした。
このクロエは意外なところでまた登場予定……
次話はルミと、軽くやけくそ気味にお祝いです。
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