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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:207 セイラの愛と意志

「ハァァァァァッ……!」


 魔力を滾らせ、魔導の杖を輝かせてゆくセイラ。

 普段は明るいムードメーカー的存在だが、王宮魔導士としての力は伊達ではない。

 シルフィードの魔闘気にも決して引けを取らず、強く光り輝いている。


「いくわよっ!」


 だが、シルフィードはそんなセイラを前にしても、軽く嘲るように口角を上げた。

 自身の強さに絶対的自信を持っているからだ。


「ムダな事を。いくら王宮魔導士といえども、アルカナートでさえ通じなかったこの俺に勝てる訳がないだろう」

「まったく、強さだけ見てちゃダメなんだからね。回復魔法士には回復魔法士としての戦い方があるの♪」

「なんだと……」


 シルフィードが軽く謎めいた顔をしかめた瞬間、セイラは魔導の杖から魔力を放出させた。


「貴方には、そこでジッとしててもらうわ! 『クリスタル・フィラキー』!!」

「なっ?!」


 思わず周りを見渡すシルフィード。


「これは一体……!」

「クリスタルの牢獄っ♪」

「牢獄だと……!」


 ギリッと顔をしかめたシルフィードの周りは、セイラが一瞬で作り出した強固なクリスタルの壁でドーム状に覆われていた。


「おのれ、女……!」


 これは本来、戦場で傷ついた仲間達を敵の攻撃から守る防御魔法。

 だがアルカナートを連れて帰る為、セイラはそれをシルフィードの周りに張り巡らせたのだ。


「チイッ、こんな物! オォォォォォッ!!」


 シルフィードはその壁を剣で何度も斬りつけるが、壁には傷一つ付かない。


「バカな……!」

「ムダよ。その壁は、Sランクの冒険者が束になっても壊せないんだから♪ バイバーーイ♪」


 セイラはそう言って軽く微笑むと、アルカナートの方へ振り向き顔を覗き込んだ。


「アルカナート、一緒に帰ろう。ナターシャの事は私も辛いけど……レイ達もみんな待ってるから」

「セイラ……けど、俺はもう……」


 アルカナートは剣の柄をギュッと握りしめた。

 その姿からは、ナターシャを救えなかった悲壮感が漂っている。

 愛する人をその手で救えなかった悔しさと悲しさで、もう、戦う気持ちが沸いてこない。


───俺にはもう、剣を振るう資格なんざねぇ……


 セイラにはその気持ちがヒシヒシと伝わってくるが、拳をギュッと握りしめてニコッと微笑んだ。


「戦えなくたっていいじゃない。元気出して。私が淹れてあげるから」

「……なんだと」

「ナターシャと同じ味は出せないかもしれないけど、私がアルカナートにコスモティー、毎日淹れてあげるっ♪」

「セイラ、お前……」


 アルカナートが切なく瞳を揺らめかせた瞬間、セイラはハッと後ろを振り向いた。


───まさかっ……!


 クリスタル・フィラキーの中から、禍々しく絶大な魔闘気を感じたからだ。

 また、それと同時に、クリスタル・フィラキーがピシピシとひび割れ始めた。

 そのひび割れた隙間から紫白のオーラが漏れ出してきている。


「えっ? ちょっと、ウソでしょ……!」


 セイラが顔をサッと青ざめさせた瞬間、シルフィードの声が響いてきた。


「オォォォォォッ……! 砕け散れ! 『天獄破斬(てんごくはざん)』!!」


 その咆哮と共にバァァァンッ!! と、砕け散ったクリスタル・フィラキー。

 天獄破斬のエネルギーが放つ衝撃波と共に、砕け散ったクリスタルがセイラに向かい襲い掛かる。


「くっ、『クリスタル・アミナ』!!」


 セイラは咄嗟に防御壁を張って防いだが、その破壊力に顔をしかめた。


「うっ……!」


 自分の技が簡単に破られたのもそうだが、さっき言った通りこの壁はSランクの冒険者が束になっても壊せない代物。

 それをこの短時間で完璧に破壊してきたシルフィードの強さに、ゾッとした悪寒が走ったのだ。


───なんて威力なの! 悔しいけど、アルカナートがここまで苦戦させられたのも頷けるわ……


 心でそう零したセイラだが、その悪寒をゆっくり感じている暇は無かった。

 シルフィードが、セイラの事をギロッと睨みつけてきたからだ。

 その眼差しには明確な殺意が宿っている。


「女……ふざけた真似をしてくれたな。こんな物で俺を封じ込めようとするとは、片腹痛いわ」


 シルフィードから放たれている、地の底から沸いてきたような漆黒の殺意のオーラ。

 それに当てられたセイラは恐怖に額からツーっと冷や汗を流しながらも、余裕の態度は崩さない。


「あーーぁ、せっかく素敵なお家作ってあげたのに……♪」

「クククッ……せっかくだが、家の造りにはこだわりがあるもんでな」

「あらそう、残念ね。ごめんなさい♪」

「構わん。設計ミスは許してやる。貴様の命によってな!」


 シルフィードはそう言い放つなり、ダッ! と、水平にセイラ目掛けて跳び掛かった。

 そして、鞭のようにしなやかな強烈な蹴りをセイラの体に見舞う。


「オォォォォォッ! 喰らえっ!」


 ドガッ!! と、鈍い音と共にセイラの柔らかい身体へ、シルフィードの強烈な蹴りが炸裂した。


「きゃあっ!」

「セイラっ!」


 蹴り飛ばされたセイラを目の当たりにして、身を乗り出したアルカナート。

 本当は動きたいが、どうしても体に力が入らない。

 ナターシャの死が、アルカナートの体を呪いにかけてしまっているように。


───くそっ……!


 そんなアルカナートを、シルフィードは完全に哀れむような眼差しで見下ろした。


「哀れだな、アルカナート。あの女を殺してから、貴様を始末してやる」

「やめろシルフィード! コイツは関係ねぇ」

「……そこで見ているがいい。魂の死んだ哀れな勇者よ」


 シルフィードは静かにそう告げるとセイラの方へ向き直り、両手をバッと天に掲げ必殺技の体勢を取った。

 一瞬にして上空に無数のエネルギー弾が作り出されてゆく。

 ズキンッと痛む身体を何とか起こし、苦しそうな顔でそれを見上げるセイラ。


「うっ……あれは……!?」

「死ね女よ。『真・天空破弾』!!」


 セイラに向かい、無数のエネルギー弾が勢いよくズドドドドドッ!! と、降り注いでゆく。

 それを何とか防御壁を張り耐えているセイラだが、シルフィードの猛攻は止まらない。

 

「ううっ……ダメ、も、もう、もたない……」

「砕け散れいっ!!!」


 その咆哮と共にシルフィードの技の威力が更に増し、セイラの防御壁を消し飛ばした。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!」


 激しい爆発と共に大きく吹き飛ばされたセイラ。

 高い防御力を誇る魔導服もボロボロに破けてしまい、裂け目からセイラの白く綺麗な肌を覗かせてしまっている。


「ううっ……アルカナート……!」


 セイラは倒れたまま苦しそうに零した。

 額からツーっと血を流しながら。


 そんなセイラを見たシルフィードは、ウザったそうに軽くため息を吐くと、クルッと背を向けアルカナートを見据えた。


「女はこれで片付いた。次は貴様だ、アルカナート」


 だがその背に声が響き渡る。


「待ちなさいっ!」


 その声に、スッと振り向いたシルフィード。

 すると、そこには魔導の杖を支えにボロボロの姿で懸命に立ち上がり、こちらを見据えているセイラの姿が。 


「女……大人しく寝てればいいものを」

「ハァッ……ハァッ……そうは、いかないわ……!」


 セイラはボロボロの姿で苦しそうに息をしながらも、その瞳の光は決して曇っていない。

 それがさっきのアルカナートと重なったシルフィードは、ギリッと顔をしかめた。


「貴様……勝ち目も無いのになぜだ」

「そんなの……決まってるじゃない……! アルカナートを愛してるからよ!」

「くだらん……奴が愛しているのはナターシャだ。そして、そのナターシャも奴のせいで死に、アルカナートはもはや廃人同然。そんな男を愛しているだと? クククッ……哀れな女よ」


 そう言い放ってきたシルフィードを、セイラは哀しく見つめる。


「哀れなのは……貴方よ」

「なんだと?」

「私は、アルカナートが誰を愛してようが、廃人みたいになろうが関係ないの!」

「なっ……」

「貴方にはいなかったの? そういう人が」


 セイラからそう問われた瞬間、シルフィードの脳裏に一瞬浮かんだ。

 かつて自分が無色の魔力クリスタルだと判明し皆から蔑まれた時に、唯一優しく手を差し伸べてくれた少女が。

 だが、シルフィードはすぐにそれを掻き消した。

 

「いるハズがないだろう。くだらぬ」

「そう……ならやっぱり、貴方は可哀そうだわ……」

「き、貴様……黙れっ!!!」


 シルフィードは、怒りと共にエネルギー弾を連発した。

 それがセイラの柔らかい身体に、めり込むように撃ち付けられる。


「うっ!」

「あっ!」

「あぁっ!」


 体を悶えさせながら苦しい叫び声を漏らすセイラの手から、魔導の杖が離れてパタンと下に落ちた。

 額からツーっと血を流し、苦しそうに顔をしかめているセイラの体はもう限界だ。


「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」


 セイラは、苦しそうに吐息を吐きながらシルフィードを見据えている。


「私は……絶対……諦めないからっ!」

「そうか……ならば、これで今度こそ確実に殺してやる」


 シルフィードは剣を片手で掲げ、その剣に魔闘気を滾らせた。

 そして、剣先が漆黒の光に輝くと同時に静かに告げる。


「これで終わりだ」

「例え殺されたって、振り向いてもらえなくたって……私はアルカナートへの愛を貫くわ! それが……私の意志だからっ!!」


 セイラが誓いのこもった叫びを上げた瞬間、シルフィードはカッと目を見開き剣を振り下ろした。


「ならば死ねっ! その報われぬ愛と共に!!」

セイラまで、やられてしまうのか……!

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